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表裏





「女の子怖い」
「んはは」
「笑い事じゃなくなあい!?」
ボーカルくんが、机に突っ伏してぐずついている。打ち上げ中なのだが、ベースくんは疲労と緊張の蓄積でほぼ意識がないし、りっちゃんもぼーっとしている。前者は割といつものことっていうか、今アルコールを入れたら普段の数倍の速さで導火線を消し飛ばして爆発するだろうなっていうのが周りから見ても本人からしても丸わかりっていうか。まあ本人の認識としては大爆発を経由してないけど、とりあえず今飲ませたらやばいし、そもそもほぼ寝てる感じだから、ほっとかれてる。じゃあ来なくてもいんじゃねって最初は思ったけど、前に一回わざと声かけないで、帰ってゆっくり休みなねって解散したら、次に集まる時がとっても大変だった。なにをどう勘違いしたのか、初手で真っ青になられて「本当にごめんなさい…」って絞り出すような声で言われると思っていなかったので。ボーカルくんと俺は全く意味わかんなくて、なにがなにが、だいじょぶだよ、どしたの、へーきだよー、ておろおろしてたんだけど、りっちゃんいわく「自分だけ弾かれたら自分の悪口言われると思うに決まってるだろ」だそうだ。いやなにその怖い世界。俺がいないとこで俺の悪口みんな言ってんの?そんなわけないじゃん。でもそんなわけある人もいるらしいので、だからみんなで集まることにしている。みんなで集まった方が楽しいしね。ベースくんも多分、ちょっと休んだら復活すると思う。全快ではないにしても。あとりっちゃんが妙に静かなのは知らん。具合悪い時はあんま絡むとキレられるのでほっとく。
「マジで怖かった……」
「ちゃんと見たことないなあ」
「ちゃんと見ない方がいいよ。あれを笑って見てるどらちゃんがやばいと思うよ俺は」
ボーカルくんがなにを怖がっているのかというと。
ライブの時、ありがたいことに固定のファンがついてくれるようになって、いろんなバンドが来るタイプのやつだと割と最後寄りをまかせてもらえるようになった。そうするとなんというか、自分で言うのもなんだけど、「俺たちを見たい人」が前に来てくれるわけだ。既に俺たちのことを見たことがあって、曲が好きで、パフォーマンスが好きで、自分から能動的に聞こうとしてくれる人たち。それが増えるのって、すっごいありがたい話だと思う。まあそれはそうなんだけど、そうなってきたら、「あっこの人ボーカルくんを見に来てんだな」とか「俺にだけ手ぇ振ってくれてんな」とか、分かるようになってくる。それもまあ嬉しいことなんだけどさ。ボーカルくんなんかマイクなくても通るぐらいの声で、あんがとー!ばいばーい!とかゆえるし。そんでそのボーカルくんが怖がってんのが、りっちゃんについてる女の子たちのことだ。なので本人に聞きたいと思います。
「どうゆう感じ?マネして」
「マネ……ええ……?なんかねえ、どっちかというと肉食な感じ。ガルルって感じ」
「怖」
「そう!怖いのがさあ!別にそういう感じに見えない子もめちゃめちゃ血走った目で隣の子睨んでたりすんだよ!怖えよ!」
「足踏まれたんじゃない」
「いや足踏まれたぐらいであんっなバッチバチなる!?」
「めっちゃ痛かったのかもよ」
「いやあれ絶対どらちゃんの取り合いだって。どらちゃんの女たちによる憎しみ合いだよ」
「りっちゃんそんな人気ないよ」
「いやいやいやいやいや」
「わはは、もっかいやって」
「赤ちゃん?」
「ウケる」
「いやいやいやいやいや」
「うん。もういい」
「二度と言わないで!?」
「んはは」
「だかんね、どらちゃんのとこに集ってる女の子たちはどらちゃんのことがラブだから他の人が来るのが嫌ってことだと俺は思う。人のもんに色目使いやがっての顔だよアレは」
「そんなん二股じゃん」
「ふたどころじゃないって!」
「さん?」
「500ぐらい」
「それはさすがにりっちゃんがバカ」
「そうなっちゃうよね……」
本人が使い物にならない時でよかった。そこまで言ってからボーカルくんと二人でりっちゃんの方を見たのだけれど、ぼけっとしたまま微動だにされなかった。一安心。
俺とかボーカルくんは、まあ、こう。特にボーカルくんなんか、前で盛り上がってくれんの男の人だし、女の子のファンの子ももちろんいるんだけど、そういう子は出待ちしてくれたりする。ベースくんも言うてそんな感じ。時々なんかよくわからん筋から「宮本さんに差し入れでーす!」って高そうなお菓子とか入ってきたりするけど。まあ大人だかんな。ありがたいし。でもりっちゃんに付いてる、強火の人?ってゆったらいいの?そういうタイプの人、みんな女の子なんだよね。あとめちゃくちゃ圧が強い。人を千切って投げ飛ばす勢いで掻き分けて前来て、そんなことしてませんけど?ってツラで目ぇきらっきらさせて嬉しそうに手組み合わせてんだもん。そしてそれを見てりっちゃんは普通に笑ってる。基本の判断が「メス」「オス」なんだもんなあ。女の子が自分にたかってる、ってとこしか見てない。
ちょっと前まで、りっちゃんが大学通ってた頃とかぐらいまでは、よくギャル系侍らせてんなーって俺は思ってたし、本人も「ああいう人、楽。」って一刀両断してたから、そうゆうのが趣味なのかと思ってたんだけど、実際そうでもないらしい。嘘つきだからどこまでがほんとか分かったもんじゃないけど。そんで、いやまあそれはどうでもよくて、りっちゃんの趣味は置いといて。その、りっちゃんを追いかけてる女の子たちは、ジャンルバラバラな割に揃って圧が強くて、あと女の子同士がめっちゃギスギスして睨み合ってるのがどう贔屓目に見ても分かってしまうので、ボーカルくんは怖がっているのだ。
「なんでえ……?仲良くしなよお……」
「りっちゃんがいちいち全員に「お前だけだよ」の顔するからいけないんだよ。そうだって言ってる人知ってるよ」
「そうなの?」
「……………」
「聞いてないなコレ」
「悪い男だよ」
「なんでそんなことすんの?」
「俺に聞かないで」
「なんでえ?」
「……………」
「死んでる……」
「なんも聞こえてない」
ピンポイントで自分にだけ好意を向けられるのはとても嬉しいこと、らしいので。分かるような分からないような。ミコトさんが、それがずるいんだよ〜ずりいよ〜ブッ殺してえ〜とクダを巻いていたのを覚えている。殺意が強すぎるが、まあそんな感じなのだろう。ミコトさんはりっちゃんのことを大好きだったのが大嫌いになってしまったので、反動で何もかも全部に対して文句を言いまくるけれど、それがもしなくって、大好きが大好きのままだったら、もしかしたら目が血走っていたのかもしれないし。
「俺も俺のこと好きな人のこと好きなのにどうして俺の時はキャーって言うよりウオオオオになっちゃうんだろね」
「じゃあ次からキャーってゆってもらいなよ」
「いや別にそう言う問題じゃねんだよな……」



「やってよお」
「断る」
「ねええ」
「嫌だ」
またボーカルくんがりっちゃんになんかおねだりして断られてる。それ自体は割とあるあるなので、よく見る光景だ。内容は分かんない。練習しに集まって、ちょっと休憩ーってとこだったんだけど、コンビニ行って戻ってきたらこうなってたから。椅子に座ってスマホを見ながら眉根を寄せてるりっちゃんが、嫌、あっち行けバカ、邪魔、うるさい、と目も向けずにボーカルくんを追っ払っているが、そんなことでめげるような人間だったらそもそもりっちゃん相手に何かねだったりしない。
「なにしとん」
「ぎたちゃんも見たいよねえ」
「なにが?」
「動機が小賢しいから嫌だ」
「じゃあなんて言ったら見せてくれるの?」
「ドラムくんの顔がかっこよくてどうしても憧れちゃうから今後の参考のために是非見せてもらいたい、金銭はお支払いします」
「そんな思ってもないこと言えない……」
「あ?」
「そんな思ってもないこと言えないよ!ギャアア!」
2回も言ったし、2回目はでっかい声ではっきり言ったし。りっちゃんにチョップで頭を陥没させられたボーカルくんに、ずっと無視されていた「なにが?」をもう一度投げれば、涙目のまま答えてくれた。
「どらちゃんがね。女の子をロックオンした時の顔が見たいの」
「あーね。面白いもんね」
「握るぞ」
「ごめんなさい」
「握るぞって脅し文句、寿司相手の時しか使わないでしょ」
「あのねボーカルくん、寿司相手に脅し文句使わないんよ」
「そう。握られるのが嬉しい寿司もいるかもしれないだろ」
「そっか……」
なんかりっちゃんがゆってんのもおかしい気がしたけど無視しよう。そんぐらい見したげればいいじゃん、減るもんじゃないし、と思ったし口からも出たのだが、りっちゃんには首を横に振られた。減るそうだ。
「相手ボーカルくんだよ?」
「ボーカルくんをときめかそうとする時がいつか来るかもしれない」
「怖……」
「えっ?俺狙われてる?」
「まあ。好きか嫌いかで言えば好き」
「……へへ……」
「いいの?これだよ?」
「いいだろ。これだぞ」
「良いか悪いかで言えば良くはないけどどらちゃんに好かれているのはまあまあ嬉しい」
「ほら」
自信満々なとこ悪いけど、ボーカルくんの返事がふわっふわだったのはいいんだろうか。まあいいか。めっちゃドヤ顔してるし。ボーカルくんは攻め方を変えることにしたらしく、「どらちゃん俺のこと好きなんでしょ?じゃあ言うこと聞いてよ」と詰めようとしている。いやあ、りっちゃん相手でそれは無理でしょ。案の定、好意の有無によって相手への忠誠度は変わらないだろう、と難しい言葉で淡々と言い返されている。あーあ、ボーカルくん口半開きでぽかんの顔になっちゃったじゃん。
「ぎたちゃんわかった?」
「なんとなく」
「絶対わかってない」
「わかった」
「わかってない!」
「わかってる!」
「同じ穴の狢って知ってるか?」
「それ!それさあ!」
「うわなに」
「声でっか」
「前も言われたことあるし意味もわかってんだけど、あれでしょ?どっこいどっこいみたいなことっしょ?」
「そう。ボーカルくんにしては賢いな」
「俺だって知ってたもん」
「そういうところがそうだっつってんの」
「でもさあ、むじな?がなんだか分かんない。なに?穴の中にいるなにかなの?」
「……生き物だろ?」
「そうなの?」
「人?」
「人なわけあるかよ……ほら」
ぱっと検索したりっちゃんがスマホをこっちに向けた。ふうん。アナグマ?とか、タヌキとかって書いてある。思ってたよりかなりかわいいわ、とボーカルくんが頷いた。そうね。
「こんぐらいなら飼えそうぐらいかわいい。ねっ」
「ねー」
「は?こんな獣らしさ溢れてる生き物絶対飼いたくない」
「どらちゃんは生き物嫌いじゃん」
「別に嫌いではないけど、意思疎通ができないとムカつく」
「だからぎたちゃんに時々キレてんの?」
「そう。基本諦めてるけど時々どうしようもなく腹立つ」
「意思疎通できるんですけど、俺」
「月に一回ぐらいマジで無理な時ある」
「ねえ?」
俺今動物と同じ扱いされてる?もしかしてだけど。釈然としないままでいると、ボーカルくんが最初の話を思い出してまたりっちゃんに絡み出した。なんでそんな気になるんだ。
「こないだぎたちゃんとそんな話したじゃん」
「したっけか」
「もおー!忘れてるし!」
「ごめんね」
「ほら。獣並み」
「謝ってんじゃん」
「だからどらちゃんのこと好きな女の子は目が血走ってる率高くてめちゃ押せ押せな感じがして前の方ギスるし見てて若干怖い時あんだよね的な話をぎたちゃんにはゆったらぎたちゃんがどらちゃんは女の子にいちいちお前だけだよって顔するから女の子側も本気になっちゃうんよって教えてくれたからそれからずっと俺はじゃあそのお前だけだよの顔はどんな顔なのか気になっちゃってもう夜も眠れなくってほらここ見てクマあんだけどいやごめん嘘ついたクマはないんだけど昨日寝る前に10分ぐらいモヤモヤしたからどらちゃんにどうしても見してほしくて頼んでるのにどらちゃんがけちんぼだから俺を恋に落とそうとする時しかその顔を見せてくれないってゆってんのお!」
「ああ」
「思い出した!?」
「そんな話したね」
「お前今のでよくわかったな……」
「だいたい」
すげえ早口だったけど、まあなんとなく思い出しはした。そんな話したかもね。要はりっちゃんがけちんぼってことでしょ。一回だけ見してみて、別に写真撮ったりしないから、とお願いポーズでねだっているボーカルくんに、りっちゃんが掌を向けてノーを表している。けちいな。
「だから今見せたらボーカルくんを本気で狙った時にクリティカル入らなくなるだろ」
「はい。いいですか?」
「どうぞ。ボーカルくん」
「そもそも俺を本気で狙うことがあると思うのをまずやめてほしいのと、本気で狙った時にクリティカルが入るって言葉はもうボディーブロー的な暴力技をキメに行ってる時と同じでは?」
「同じだよ」
「今のはどらちゃんが女殴ってる宣言と捉えていいもんかな……」
「まあだいたいそおじゃない?」
「何で変なところだけ読解力が卓越すんの?バカのくせに行間を読むなや」
「ドメバられてる女の子はやっぱどらちゃんの顔が目当てなのかな?中身が目当ての人とかいんのかな」
「気持ち悪りぃ造語作んな」
いんのかな?については無視されたってことはいないってことでいいんかな。確かにボーカルくんが当たり前のように言った「ドメバられてる」、語感も気持ち悪いし意味が伝わるのも気持ち悪いけど。頬杖をついたボーカルくんが、でもさあぁ、と間伸びした声で言った。
「長続きしないじゃん」
「……長続かせようとしたことがない」
「なんで?好きになったらその人と長く続かせたいもんじゃん?」
「はあ」
「……え?どらちゃんマジで分かってない時の顔してない?」
「人を好きになったことないんじゃない」
「怖……」
「恋愛脳。うざ」
「だってりっちゃん人類に対してスキって気持ちそもそもないでしょ」
「なんでだよ。あるわ」
「あんの?怖い」
「どっちにしろ怖がられんの意味分かんないんだけど」
「俺狙われちゃう……」
何の話だ。大真面目にそんな話をしているのは面白いので泳がせておくけれど。ボーカルくんと二人でああだこうだと言い合っていたりっちゃんが、だから、と深いため息と共に零した。
「好きな相手と好き同士で付き合えるかどうかなんてわかんないだろ」
「お?人を好きになったことはあんの?」
「ある」
「秒で答えんじゃん」
「忘れられない初恋か嘘、どっちだと思う?」
「嘘に1000円」
「俺5000円」
「……………」
「どらちゃん財布出さないで?せめて言葉で言って?」
「小学生の時とかはあるでしょー。さすがに」
「……あ……る……?」
「ないですね」
「どんな子どもだよ」
「は?向こう側から告白してくるのをオッケーして付き合ってやってんだから文句ないだろ」
「言い方!」
「スタートはそうでもさあ、あるじゃん?この子こういうとこかわいいなーみたいな」
「はあ」
「好きだなーてならないの?」
「ならない」
「嫌いはあるのに好きがない人とバンド組むの恐怖でしかなくない?」
「でもボーカルくんのことは好きでしょ」
「うん」
「うふふ」
「いや。恋愛感情はない」
「そりゃそうだろ!?怖えよ!そこはチェックしてないの!」
「そんなんなのに付き合おーってなんなくない?」
「あっちからある程度好意を持たれてれば、こっちからは感情として何とも持ってなくてもいいかなって」
「……………」
ボーカルくんが引いてる。りっちゃんが、当たり前のことのように変なこと言ってるから。いやまあ、理論値で言ったらそうなんだよ。弄ぶ側からしたらね。でもそれをこう、平然と口に出しちゃいけないんじゃないの、ねえ。普通。ドン引いていたボーカルくんが、ぼそりと言った。
「……そりゃ車に向かって突き飛ばされるわ……」
「明確に殺意あんもんね」
「どらちゃんの中で一番やばかった女の子ってなに?」
「……んー……」
「……ありすぎて選べないのと心当たりないの、どっちだろ……」
「よく覚えてないんじゃない。そもそも」
「クズい……」
「……手首スパスパ女はいた。引いた」
「妖怪みたいな言い方」
「自傷するにしてももう少し確実性のある方法を取った方がいいんじゃないかと思った。何度もやる分浅いしあんまり怪我感がない」
「なにその感想?」
「そんなん構ってほしいだけだよお」
「そうなんだ」
「……なんか顔も知らない子だけど可哀想になっちゃうな……こんなに無理解だと……」
「ね」
「怪我させられたのはある。いくつか」
「あー、頭ぱっくりいってた時とかあったもんね」
「そう。でも別に、治ったしな……」
「残んなければノーカンなんだ?」
「しつこくする理由ないだろ。こっちが怪我してるとあっちからもう寄ってこないから手が切れて助かるし」
「刺されたりしたことないの?」
「それはさすがにない」
「まあ治る怪我ならノーカンは分かるわ」
「わかるんだ」
「俺も車に轢かれるけど全部治ったから今まで何回ぶち当たったかなんて忘れたし」
「俺は全然わかんないけどね?」
この中にいるとこっちがまともじゃないみたいな感覚になってくるけれど、俺が一般人のはずだ。俺は女の子に殺意を向けられたこともないし車に轢かれたこともない。それが普通です。一応そう主張しているつもりだったのだが、眉根を寄せて、一番…と考え込んでいたりっちゃんがぱっと指を立てて言った一言で全部吹っ飛んだ。
「女にストーカーされてたけど無視してそのままギターくんの家に行ったことならある」
「は!?」
「俺んちじゃないから実害ないし、いいかなって」
「どらちゃんぎたちゃんちに遊び行ったの?いいなあ」
「ライブ終わりに雨降ってて終電ギリギリの混みまくってる電車に乗りたくない時とかギターくんちで雨宿りする」
「ねえ?俺知らないんだけど?なに、えっ?なんでその時ゆわないの?」
「別に変な女に絡まれたりしてないだろ」
「し……てない……と思う……」
「じゃあいいじゃん。結果」
「いやよくなくない?俺の家だよね?なんでストーカーお持ち帰りしてきたの?」
「それいつの話なの?」
「何年か前……俺まだ大学にいた頃かな」
「うーん。過ぎた話だから笑うっきゃないね!ぎたちゃん!」
「や。いやいやいや。いやいや」
「はは」
「なにわろてるんじゃコラ」
「ぎたちゃん!ぎたちゃん、俺非力だからね!俺の前で喧嘩が起きても俺には何もすることができないからね!多分べーやん帰ってきたら卒倒しちゃうから!ね!座って!」
座った。まあ、今離席しているだけで罪もないベースくんが戻ってきて早々泡吹いて倒れるのはかわいそうすぎるし、年単位の昔は確かに過ぎたことだし、その顔も知らないりっちゃんのストーカーが実在したとして俺は今の今まで何も気づかず普通に暮らし続けているのでなんの害もないし、強いて言うならりっちゃんへの信頼が地にめり込んだぐらいだ。ふざけんなや。
「嫌い」
「勇気のないタイプのメンヘラで良かったな」
「それで今俺を元気付けようとしてるなら今すぐ頭の手術受けたほうがいいよ」
「どらちゃん。ぎたちゃん怒ってるよ。早く謝って」
「はいはい。すんませんした」
「……………」
「もっとちゃんと謝って!」
「今俺に謝られたところで何がどう落ち着くんだよ。何も変わらないだろうが、謝る意味がないのに謝りたくない」
「キー!この減らず口!どらちゃんはそゆとこが良くない!」
「ボーカルくん猿みたい。はは」
「誰のせいだ!?」


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