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おはなし





「はぁい。ゆうやけこやけの石田です」

「今日は雑談なんでぇ……道端?来ません。あいつ収録あるし。いつものやーつ」

「ほんと喋るだけなんで。ほい、だーん。貰い物でーす。ほしい物リストは神。ももやまさんありがとうございましたぁ」

「酒がうまい……どうしよう……あ!不労所得!ありがとうございます!もっとください!お願いします!なんでもします!」

「コメントぉ?読む読む、色ついてたらもっと読む。んはは、こうやって言うのもやめろって道端は言うんだけどさあ、俺が突然金に意地汚くなくなったら気持ち悪いだろって」

「そおー。記念日……記念日って言うと気持ち悪いな。カップルかよ……えっ、てゆかなんで知ってんの?知ってんなら逆に教えて欲しいんだけど、俺ら何周年になんの?ふうん。あっそお」

「……そおー……そんなに経つかあ……」









「ほんっっっとにうざったい!」
「あー、そっかあ」
「しつこいし!お前が書くのつまんねえんだっつの!分かれよいい加減!」
「あははー」
ははは、ともう数秒乾いた笑みを浮かべてから表情を消したが、隣でくだを巻く男は分かっていないようだった。これだけアルコールが回っていればそれもそうだろう。話しかけて愚痴を撒く相手なんて別に俺じゃなくとも構わないのだから、さして大したことでもない。いつ引き上げようかとぼんやり思いながらスマホを見たところで、がつんと頬杖が崩れてどこかをなにかに打ち付ける音がした。ご愁傷様。
働くのは嫌いだし、無駄なことも嫌いだが、飯を食うのは好きだし、酒を飲むのも好きだ。今日に限っては一人ではなく他人といる気分だったので、林の誘いに乗った。しかしまあ、これだけくだを巻かれるくらいなら、無視してもよかったかもしれない。自分の分の金置いて帰ろうかな、という算段が現実味を帯びてきた頃、まだぐだぐだと文句を吐いていた林がぼそりと零した。
「……解散しよっかな……」
「ほお。決断ですねえ」
「他人事だと思ってんだろ!」
「他人事じゃねえか」
「お前、お前はさあ、器用だから……別に芸人じゃなくてもやってけるんだろうし、でも俺はさあ……ピンは無理だし……でもあいつはもう無理なんだよ……」
「じゃあ辞めればいいだろ。無理無理うるせえな」
「直接そんなこと言ってモメるに決まってんじゃん。めんどくせえよ……」
「じゃあ俺が言ってやろうか。ここを奢ってくれるなら」
「えっ」
「少なくともお前とその、相方?が直接話さなければ、お前が言う面倒は回避できるだろ。俺からしたら知らん奴だし、あっちからしてもそうだろうし。ただまあ、ここを奢ってくれんならっていうかー、俺まだ飲みたいんだけどお」
「はい」
「……うはは」
ぽい、と放られた財布に、顔を覆って笑った。

道端陽太、というらしい。最近もっぱら事務所との関わりを断ち気味で、配信者ってどんぐらい稼げんのかな、なんなら事務所辞めてもいんだよな、一人で何ができるわけじゃねえしな、とか調べ出したところだったから、林から聞いた情報しか持っていないのだが。
どうもここ最近はもっぱら、劇場の司会回しとか、イベントの運営側とか、そっちに引っ張られているらしい。頼まれたら断れずに引き受けてしまうから、コンビで話し合う時間がない。そもそも作るネタがクソつまんねえ。そのくせこっちが出したネタに乗っかり切らない。と。ていうか多分、普通に体よく使われてる感じだな。林は「なんであいつばっかり」がベースだったし、もしかしたら本人も気づいていないかもしれんが。そもそも林のネタも別にさして面白くもねえしな。そりゃあ乗っかり切らないだろ。
「道端陽太ってお前?」
「……そうだけど」
いるだろうと言われていた、レッスン室の並ぶ廊下に、写真で見せられた男がいた。振り向いた顔は、まあだいぶお疲れですねって感じ。荒んでる目。金もたいして貰わずに人様の為に、よくやるなって俺は思う。こいつはそうは感じないのだろうか。そう考えていると、少し開いた間に眉を顰められた。人当たりの良い男だと聞いていたが、今のところその要素は皆無である。ちょうど機嫌の悪いタイミングに俺がかちあった可能性も高い。ここに一人でいるってことは、林との約束をすっぽかされてる、が一番ありそうな線なわけだし。俺は死刑宣告をしに来てるわけだから、こいつの心情にあまり興味はないのだが。
「林がやめるって。解散だって、ついてけねーって言っとけって言われたから言っとく」
「……は……」
誤魔化したりするのも悪いかなと思って、事実そのまま。に対する反応は、半笑いだった。怒られるものだと覚悟していたから、ちょっと驚いた。し、ここでキレたりしない男だから周りから付け入られるのだろうなとも思った。肯定も否定もされないまま、無言でしばらくの時間が流れて、一応は受け取ったということなのか道端が背中を向けようとした。あとは林と道端の話なので、文句があるなら直接言ってほしいし、俺に向かってどうこう言われても何にもならないので、正しい判断とは言える。しかしながらまあ、気になったのだ。こいつの話を聞いた時から。なので、去ろうとする背中に向かって投げかけた。
「拘ってるみてーだけど、なんでコンビなの?お前、司会でやっていけてるだろ」
「……?」
うんざり顔で振り返った相手に、噂は聞いているからと教えれば、やっと言葉が帰ってきた。嫌そうな声だったが。不思議なのは、こいつがコンビに拘っていることだった。切られたならピンでやればいい。なんなら道端の場合は司会の仕事を回される機会もあるのだから、そっちでやっていくのもありだと思う。何故自分からイバラの道を進もうとするのか。お笑い芸人イコール二人組ではないし、なんならお笑い芸人しか笑いを提供できないわけではない。確固たるやりたいことがあるのに職業の取捨選択をしないのは、時間の無駄だと思うわけで。たかが人を笑わせるだけのこと、二人組でやる必要があるだろうか。こいつが今やらされていることの方が、他人に気を遣ったりなんだかんだと面倒なのではないだろうか。まさかとは思うが、自分が苦労してることにカタルシスを覚えるタイプとか。気色悪ぃな。でもまあ、それにしては素直そうだ。直接顔を合わせたからこそ、尚更理解ができなくて、口を開いた。
「だってお笑い芸人なんて、人笑わせるだけだろ?会場回す方がどんなに大変か……あ!楽したいってことか!」
それならわかる、と繋げようとした。激昂した道端にぶん殴られて、阻止されたけれど。

「マジで殴られたこと俺人生で一度もない」
「……ごめん……」
「なんなら人のこと殴ったこともねえわ。あ、や、あるわ。あった」
「……………」
「死体蹴りしてるつもりねえんだけど」
「……すいません……」
死んだ顔で謝り続けられ、面白くなってきたのは事実だった。しっかり痕が残るぐらいの勢いで急にぶん殴られて、咄嗟に反射で手が出てしまったが、まあ冷静に考えたら、こいつにとっての唯一と俺の利得は別だと言うだけの話で。そんなことはよくあることだ。なんならそうでないことの方が少ない。
俺でも世話になってるぐらいの偉い先輩に、こんなとこでなにやってやがるふざけんなお前ら頭冷やしてこい、と二人一緒くたに放り出されて、それからしばらく道端が丸まってるのを見ているのだが、いい加減時間の無駄だ。せーのでごめんなさい言ったら許してもらえんのか?とすら思う。もうしません、って口約束が何の信頼になるだろう。子どもじゃあるまいし。
「なあー。俺夜用事あんだけど」
「……………」
「なに?ウザい。コンビ解消されたのがショックなわけ?それとも俺が言ったこと?後者なら謝ったじゃん。前者はもう林に電話かけろよ今ここで」
「……………」
「ほらあ!」
「……………」
携帯を道端に押し当てたが、無言でもだもだと抵抗されたので、諦めた。でけえくせになんなんだよ。うじうじしやがって。こいつが塞ぎ込んでいるうちは恐らく頭を冷やした判定をしてもらえないと思うので、もう長丁場にしてやる覚悟で足を投げ出して座った。
「だってさあ。お前のやってること、すげえ大変じゃん。知らん奴らが出てるイベントばっかりうまく、滞りなく回して、自分はなんも出れないんだろ?変だよ。なに甘んじてんの?かっこいいの?それ。ああ、一応司会としてはステージに立ってんのか。でもそっちじゃねえじゃん。しかもコンビ解散されるし。お前どうすんだよ。なにしたいんだ?」
「……………」
「聞いてんのか。おい。返事ぐらいしろや」
「……う……」
「あ?」
「……うるっ、さい!うるさーい!お前に何が分かるんだ!?黙れー!」
「おっ……」
「おれっ、あの、俺だってなあ!別に、やりたくてやってんじゃねえんだよ!お前っ、好き勝手言いやがって、この野郎!」
「おお……」
キレんのへったくそだな、こいつ。口を開いたかと思ったら、怒りたいんだか相手の様子を窺いたいんだか微妙なラインで捲し立てられて、ふむ、と頷いた。もしこいつがこうなったとしても、これを上回って怒鳴ればすぐに落ち着くだろうし、押し負けたら最後、恐らく二度と言い返して来もしない。従わせるのは嘸かし楽だろうな。ふうふうしてるのを見て、続けてどうぞ、とばかりに手を広げれば、それでようやく了承を得たと思ったのか、また口を開き出した。
「おっ、あのっ、あのなあ!お前に、後輩が出てるステージを裾から眺めてる時の気持ちが分かんのか!?押してるから巻けっつったら舌打ちされんだぞ!いつからお前らはそんなに偉くなったんだよ!?俺は先輩だぞ!」
「早く入所した程度で先輩ぶるなよ。実力不足だからそんなことになってんだろ」
「そっ、れは、そう、そうなんだけど、さあ……」
「……ん?あ、いや、今のは別に黙らせたかったわけじゃねんだわ。まだキレてていいよ」
「……はあ……?」
「もっと怒ってみて。はい」
「おこっ……」
変な顔で固まられた。爆発させて鎮火すればまともに喋れるようになるかと思ったのに、勝手に静かになられてしまっては困るのだが。
いやしかし。
「お前おもしろいなあ」
「……言われたことない、誰にも、そんなこと……」
ぼそりと吐かれた言葉に、思わず大爆笑してしまった。そういう意味で言うなら、お前はクソつまんない奴だよ。

「それでなんでコンビ組むことになるんだよ」
「わかんねっす」
「石田が道端みたいな真面目なやつとやっていけると思えないんだよなあ……」
「俺もっす」
「道端のためにもやめてやれば?」
「そっすねえ」
へらへらしながら適当に先輩の言葉を聞き流していると、噂の道端がちょうど来た。俺はこいつを待っていたので、そりゃそうなるのだが、俺が待っていたことを知らない先輩はぱっと口をつぐんで「それじゃ」と歩いて行ってしまった。クソ真面目で礼儀正しい道端は、去る背中にちゃんと挨拶していた。そういうとこだな。俺と合わなそうなのは。
「終わった?」
「終わった……どした」
「ネタ書いた」
「えっ!?」
「エントリーとかは全部任す。五個作ったから読んどいて、はい」
「えぁっ、あ、ありがと、あの、今読んですぐ合わせれるように」
「は?いいよ。リハん時で」
「……は……?」
「めんどくさいじゃん。なんかわかんないとこあったら連絡くれ。一字一句間違えずに覚えればいいだけなんだから簡単だろ」
「……え、と……」
「よろしくー」
どさりとノートを道端に渡せば、ぽかんとした顔で見られた。そんな顔をされても、これが俺のやり方だ。「ウケるならなんでもいい」っつったのはお前だろうが。
なんでコンビ組むことになるんだよ、の答えを正確に出すなら、道端の逆ギレを聞いているうちに、こいつをうまく使えば俺はきっと最大限まで楽をしながらラジコン操作で金を得ることができるな、と思ったので、そうした。というだけの話になる。あっちはあっちで俺になんらかの利を見出したから了承したんだろうし、win-winの関係にはなれているはずだ。でもまあ、余計なことを言われるのは嫌だったので、俺に干渉するな、ネタに口出すな、言われたことだけやれ、と約束はした。最終的に嫌気が差したら解消するだろう。俺も別にコンビ組みたかったわけじゃないしな。一人で何かやるようになるまでの繋ぎでしかない。
なので、今回のこれは、試し行動に近いものがある。こいつはどこまでやったら俺を捨てるのだろうか、と実験しているのだ。それで案外早くコンビ解消されても、今のところまだ俺にデメリットないし。ネタ作りをしても、それを相方と合わせて練習して、なんて真面目なことを俺がする訳がないので、これは割と通常運転だったりもするわけだ。完璧に流れが頭に入ってさえすれば、勝手に客は笑ってくれる。計算づくでもないが、こうすると笑うんだろうな、という見立てが外れたこともない。
それから道端ととった連絡といえば、「劇場出演できることになった」「合わせられるのいつ?」「三つできるけど、この前のやつの中でどれがいい?」くらいのものだった。端的にそれに答えながら、最近ちょろちょろと始めてみた配信の作業をする。こっちのが一人でできるから楽でいいや。人気取りは些か面倒だが。
それから、リハはあったけど、せいぜい一回ざっくり合わせたぐらいで。
「あ!石田!」
「朝が早えよ……」
「遅刻してんのになに言ってんだ!?」
当日である。「新しく組んだコンビ」ではあるが、「新人コンビ」ではないのに、なぜ挨拶回りしなければならない。面倒だから逆算してギリギリ間に合うぐらいの時間に来たら、道端が全部挨拶回りを済ませたらしく、早く楽屋行けとどたばた背中を押された。うるさい。
「なにはしゃいでんだ?ああ、久しぶりに本職で板に立てるからか」
「うるさい!余計なこと言うな緊張する!」
「は?こんなところで何が緊張だよ。お前のこと見てるのなんかたった数十人だろうが」
「う……」
「トチったりミスったり飛んだりしたらその時点でお前と俺の契約は終了する。以上」
「えっ!?」
聞いてない!と金切り声を上げられたが、当たり前だろうが。なんで俺がそんな、お前の面倒を見て育てる、みたいなことしなきゃならないんだ。ふざけんな。









「いやあね。よく言うじゃん。あいつと組めたのは幸せだったー、みたいな。俺はそうは思わないけどね。道端を拾っちゃったのは俺にとって、最終的には幸せかもしれないけど、途中は不幸せだったから」

「やりたくもねえ営業やらされてさあ!俺働きたくないっつってんじゃん!マジであいつ人の話とか一ミリも聞かねえよ、なんであんな人気あんだろ?みんな見る目なさすぎるだろ」

「でもサボってたんでしょ、ってコメントがきました。うん。サボってた。だって道端一人でも上手くやるし。知らん人とも偉い人とも、コミュニケーションとるのとか俺苦手だし。得意な人に任せた方がいいじゃん?」

「でも長続きするだろうなって確信はあった。初回のライブであいつ完璧に俺のホン覚えてきたし。普通しないだろ。あるじゃん、反抗心とか。もうそういうの完全に折られてて俺の言うこと聞く気力しか残ってないんだろうなー、そしたら使い勝手いいなーって」

「記憶力良いんだよなー、それは尊敬する。素直に羨ましいし……俺興味ないこととか全部忘れるから」

「ゆうやけこやけのことはよく覚えてるんですね。は?うるせえブロックします」









ある程度、軌道に乗ってきた頃だった。道端が「自分についてくれているファンがいる」と気づいた辺り。そんなこと当たり前だと思うのだが、運営側の仕事を回されていたせいで、会場にいる人間は全員自分以外の誰かを見にきているもんだと思っていたらしい。別に単推しの個人勢じゃなくても、あ〜この人も見てみたかったんだよな〜ぐらいの扱いでいいなら、そりゃいるだろ。司会で出突っ張りならなおさら。
ファンがつけば、それなりには僻み妬み嫉みやっかみが出てくる。俺に関しては、仕事したくないと公言しているので、他人よりアンチが付きやすい。そんなこと承知の上で、それでも嘘をつくのは嫌だから本当のことを言っているだけなので、特に気にはしていないのだが。
「石田!」
「声デカ。うるっさ」
「ごめん!」
待ち合わせしていた居酒屋に飛び込んでくるなり人の名前を叫んだ道端に迷惑だと吐き捨てれば、普段ならそれで沈静化するのに、今日はダメだった。なに興奮してんだ。一人でばたばたとうるさいので、酒を飲ませたら多少静かになった。しばらくして、べたりと綺麗でもない机に伏せた道端が、もごもご口を開いた。
「……悔しくて」
「あ?」
「石田が……なんもしてないって……馬鹿にされてんのが……」
「事実そのものだろ」
「なんもしてなくはないだろ……」
「お前が出来ないからネタ書いてたわ」
「ゔ」
「ごめんごめん。忘れてた」
「……だから、俺がその、面白くないから、石田がやってくれてることを、全部なかったことにして、石田はなんもしないって思われてんのが、悔しいし腹立つんだよ……」
「は?道端面白いんですけど」
「……………」
「人前に出て他人を笑わせることに対しての緊張値がとんでもなくデカいから側から見るとクソつまんねえんだけど。そうじゃなければ変な奴だし面白いよ」
「……お世辞?」
「主観」
「主観かあ……」
「俺もお前が見くびられてるのには腹立ってんのよ」
「……………」
「ん?」
「……本当?」
「嘘ではない」
「……俺、あの、一個さあ……やりたいことがあって……」
いつか言い出すだろうとは思っていた。こいつの思い描くお笑い芸人像は、一番スタンダードなやつだから。そりゃ、みんな聞いたことがあるグランプリに挑戦したいとか言い出すだろうなって。でもこれ1000組ぐらい参加すんだよな。めんどくせ。でも優勝したらしばらく遊んで暮らせるか。優勝しなくても、いいとこまで行けば、しばらく仕事がなくなるかもって苦労はしなくて良くなるかもしんない。それは助かる。ただでさえ、道端のネームバリューはあるしな。
「じゃあお前が全部やって」
「えっ!?いいの!?」
「えっ?全部って、あのー、全部じゃない。お前が書いたネタでクソ滑って死にたくなるぐらいなら俺が考える」
「いやお前が書いた以外のでやるわけがないよ……」
「あっそう?じゃあいっか」
「か、かんぱーい!」
「うえー」

それで、出場して。緊張に飲まれた道端が、結果はどうあれ出場したことに意義があるとか馬鹿みたいなことをほざこうとするので、金目当てでこっちはやってんだから手ェ抜いたらぶち殺すぞ、と舞台裏で血走った目を向けながら詰め寄ったことは覚えている。
あいつは変なところで恥じらいもなく恥ずかしいことを言うので、グランプリが終わった後の密着みたいなので、「石田は俺が一番振り回しやすい剣を完璧に作ってくれて、それがめちゃくちゃかっこよくて手に馴染むからそれ以外は考えられないんです」とかド真面目な顔して言ってたので超笑ったし、笑えるから見てくれって本人に見せたら顔真っ赤にして殴られた。別に馬鹿にしてるわけじゃなくて普通にかっこいいじゃん、と思ったから次にインタビュー来た時同じことを擦ったら、それはそれで話題になった。から、結果良しとする。
道端を使いこなせなくて捨てた林から連絡が来たこともあったが、思いっきり煽り倒してからぶっちぎったら、何故か道端が謝りに行った。どういうことだよ。お前が舐められてるのにそういう態度だから、俺が中指立ててやらなきゃならなくなってるんだろうが。
「いいよ。もう、なんかいいやって思う」
「なにが」
「俺つまんないんだよ。どっかでブレーキかけちゃって、思いっきりはっちゃけらんないし。緊張しいだし、他人の顔色ばっか見てる。つまんないなあって、自分でも思う。それが昔は嫌だったけど」
「その保守的なつまらなさが必要な奴にうまく使われればそれはただの長所だろ」
「うん。そうやって今は思う。石田のおかげだよ」
「あっそ。それじゃお仕事がんばってくださいね、ゆうやけこやけの道端陽太さん」
「あ。それさあ、俺が一人で出てる時に、ゆうやけこやけの道端陽太です、って名乗るのは約束したからじゃん。俺の方が人目につく機会が多いから」
「そう」
「石田も一人で配信してる時、ゆうやけこやけの石田ですって言ってくれてんの、俺嬉しくて」
「……………」
「一人でもいいってまだ思ってる?」
「……今思った。殺意と共に」
明るく笑われて、こいつを使いこなしたのは俺だけれど、俺を使いこなせたのもこいつなのだなと、心底思った。









「あ〜もしもし道端〜!?」
『なに!?声でっか、石田!?』
「配信中〜!!」
『酔っ払ってコントロールできなくなったら電話してくんのやめろ!』
「早く来い。5分」
『は!?無理に決まっ』
「切りました。5分以内に来るといいですねえ、この枠あと10分なんでね。みんな道端に会いたいでしょ?あいつもねえ、それが分かってるから急いで来ると思いますよ。自分のこと好きな人のこと大好きなんでね、道端陽太は。だからねえ、俺のことも大好きなんですよ。俺があいつのことを認めて、矛として扱っているから、今まで正当な評価を受けてこなかったから嬉しくて堪んないんでしょうねえ……」

「おい!今まで道端のこと捨てた奴ら見てるかあ!?あいつ今いくつレギュラーの司会持ってると思う!?ぶはははは残念だったな使いこなせなくて!自分の力不足を今更ながらに画面の前で悔いろ!そんでもってあいつに謝れ!下に見てすいませんでしたって言え!道端が許しても俺は許さねえからなあ!」








「お前マジで静かにしろ……」
「遅い……恥ずかしい……」
「酔いが抜けて恥ずかしくなるぐらいならするなよ……」
「何人見てたか同接数怖くて見れない」
「教えてほしい?」
「………やめとくわ」
「そんな儚い顔で……」
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