「長めのやつを読みます」
「はい……」
「何故かというと、今日はバカコンビがいなくて話がずれなさそうだからです」
「……………」
「今ベースくんも頷いたし」
「う、頷いてない、ちがう……」
「みなさんは見えないから。声に出して教えてあげないと」
「どっ、同意してな、ちが、本当に違くて」
「うるさいわ。『こんばんは。先日初めてライブに行かせていただきました。娘と二人だったのですが、不慣れな私たちでもとても楽しめ、素敵な時間を過ごさせていただきました。』ありがとうございます」
「ぇあ、ありがとうございます……」
「『個人的に感謝の思いを伝えたく、長文ですがメールさせていただきました。見ていただけると幸いです。娘は大学生で、つい先日まで受験生でした。やりたいことがあって選んだ志望校でしたが、かなりレベルが高く、正直なところ相当の努力を必要としていました。夜遅くまで勉強している娘の部屋からは、時々気晴らしと気分転換なのか、私の知らない音楽が聞こえてきました。そして試験も終わり、高校生活の半分近くを必死に勉強に当ててきた娘は、志望校に受かることができませんでした。直前の模試ではかなりいい結果も残せていただけにショックも大きく、娘はしばらく部屋から出てこられず、外にも行けないような日々が続きました。そんな娘がまた前向きになったのは、音楽のおかげでした。泣き腫らした目の娘に、好きなバンドがある、と聞かせてもらって、チケットが取れたら必ず一緒にライブに行こうと約束して、先日ようやくそれが叶いました。娘の一番好きな曲を、目の前で生で演奏していただけた時、必死で受験勉強をしていた娘と、それを支えた日々を思い出し、涙が堪えきれませんでした。きっとこれからも、娘が不安に思った時、悲しい時、気持ちを前向きにしてくれるのはこの曲なのだろうなと聞きながら強く思い、感謝の気持ちでいっぱいになりました。長くなりましたが、想いが伝わっていればなによりです。ありがとうございました。』……だそうです」
「え、えぅ、あの、ありがとうございます……」
「もっとなんか感想ないの」
「へっ、か、感想？感想……」
「言えよ。大人から見た言葉を」
「ちょっと、待って、あの、考え」
「あ？」
「ひっ……」
「ベースくんが考えてる間に、バンドとしてというよりは、作詞曲を担当している人間として、なんですけど。俺はボーカルくんなら、下を向いている人にほんの少しでもなにか、元気付けるとかそういう、なんていうかな。ちょっとでもプラスの意志を伝えられるんじゃないかと思っていろいろやっているので、それが正しく伝わったならとても嬉しいことだなと思います。一人で辛い時とか、苦しい時とか、みんなきっと必ず経験してるから。そういう時に、自分が楽になったみたいに、そんな曲が作れたらいい」
「……………」
「ベースくん。早く」
「あっ、えっ？えっ……あの、えと、なにか叶えたい夢があって、難しくても頑張るって決めた志望校なら、一回だめだったぐらいで諦めないでほしいなあとは、思います……俺なんかが言わなくても、きっと努力は続けているのかも、しれないですけど……」
「はあ」
「……ど、ドラムくんは、もっと、理論立てて音楽のことを考えているんだと、俺は思ってて、あの、思っていました……」
「ああ。別に今言ったのが全部じゃないけど。さっきのメールみたいな、心折れそうだなーって時に自分を支えられるものって人によっていろいろあるだろうけど、選択肢の一つに入ってくるだろ。好きな曲」
「うん……」
「そういうものに助けられてきたから、そういうもので助けられたらいいなとは思ってる。だからいろんな人にボーカルくんの歌を聞いて欲しい」
「そ、っそっか、そうなんだ……」
「俺は諦めなければ夢は叶うとは思ってないし不足があるなら其れ相応の努力と代償を払わないとスタートラインに立てるとも思わないけど、それでも頑張るなら頑張ってください。息抜きに聞いてもらえれば、それで」
「えっあの、お、俺は、がんばれば、頑張っただけのチャンスは、得られると思います……」
「なんで？」
「なっ、なんで？」
「チャンスがあったところで何なの？」
「う……」
「またダメだったら嫌になるだろ。ダメだった回数が増えれば増えるほど挑戦したくなくなる。夢なんかどうでも良くなる。結果、最終的には諦める。人間の心理ってそういうものだと思うけど」
「そ、……そうかもしれないけど……」
「ベースくんは夢見がちだからな。人間にも世間にも」
「……………」
「以上。次」
「つ、つぎ！？待っ、今みたいな長さのやつ、まだあるの！？」
「ある。多分みんな話作ってきてるから」
「つくっ……」
「実話だと信用してこっちも話してるんでね。聞いてるか知りませんけど、こちらの信用に応えられる程度には努力してくださいね」

『最後で台無しなんだよなあ！』
『ああ言われるとドラムくんの言ってることもそもそもでっち上げ説ある』
『宮本くんは良い人』
『勉強がんばろ！』