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ラジオ




さん、に、いち、とガラス越しにカウントされて、スタートの音楽が鳴る。今日は最初に喋り出すのをどっちにするのかじゃんけんしておいたので、どらちゃんが先。こないだは決めてなかったから、お互いあっちが先に喋り出すもんだと思って黙っていて、2分近く音楽しか流れない時間があったもんだから、SNSで「どうした」「事故った!?」ってざわつかれてた。事故ってないです。二人で「?」「?」ってなりながら譲り合ってた。
「どーも」
「どおもお」
「6月19日の午前3時です」
「どらちゃん。いっつも俺思うんだけど」
「うん」
「6月19日の午前3時っていうのは6月18日の27時ってことなの?」
「そ……うん?そう」
「なんで一回首傾げたん」
「ボーカルくんが合ってるなんて有り得ないから俺が間違えてるのかと思った」
「俺も合ってたことに今感動してる。カンパイしよ」
「水しかない」
「イエーイ!」
「いえーい」
「その言い方ややこしくない?ってずっと思ってんだけど。ややこしくないの?みんなは」
「別に」
「そうなんだ……」
この時間に眠くならずに喋るのも、だんだん慣れてきた。ぎたちゃんは毎回「絶対無理」「放送中に寝るかどうかが完全に運」って言ってるけど、黙る時間が長いと目ぇ開いてても寝てるから誰かしらが叩き起こしてる。から、ギリセーフ。でもこの時間までちゃんと起きててリアルタイムで聞いてくれてる人がいんのがまずすごいと思うけど。あるじゃん、見逃し、聞き逃し?配信みたいなの。俺だったらそれに頼る。でも今はSNSでタグつけて秒で感想言ったりとか、俺たちもそれを拾って話したり、投げてもらった内容をまんま読んだりするから、そうやって楽しみたいなら生じゃなきゃダメなのか。それ用に使うタブレットが机の上に置いてあって、「はじまったー」とか「ややこしいの分かる」とか、いろいろばーっと流れている。スピード早すぎて追えん。これを管理しているのはいつも割とどらちゃんかべーやんだ。俺はこれを手に持つと、流れる文字を追いかけることに夢中になってしまうので。そして無事始まったものの一体何をしたらいいのかは毎回よく分かっていないので、今日も同じようにぽけっとしていたら、どらちゃんに机を指で叩かれた。
「なあに」
「ボーカルくん。進行」
「え?なにが」
「今日じゃんけんしたろ」
「どらちゃんが最初に喋るやつ?」
「俺が最初に喋る代わりにボーカルくんが進める約束したじゃん」
「そうだった。もう俺の仕事は終わったつもりでいた」
「読んで」
「なにを?」
「ボーカルくん今日の流れ知ってんの?さっき打ち合わせしたやつ」
「ううん。知らない」
「なん……はあ……」
「でもどらちゃんがいるから平気!」
「……頼りになるだろ」
「なる。なにしたらいいの」
「選ばれたメッセージを読む。質問があったら答える。適当に喋る。時間が来たら終わる」
「いつものやつ」
「そうじゃないことないだろ。突然この場でマジックやれとか言われてできんの?」
「指を千切るやつならできるよ」
「あれボーカルくん下手じゃん」
「見てて。こう……不思議なことに……俺の親指が……あれ?待って……」
「『先日メンバーの皆さんが紹介していたお菓子なのですが、期間限定な上に東京近郊でしか売っていないということに気づかず、探し回ったのですが食べられませんでした…毎年この時期に出ているようなので、来年は上京して食べに行きます!』だそうです。残念でした」
「はい!取れた取れた取れた!」
「『代わりといってはなんですが、私が住んでいるところおすすめのおやつをお教えしておきます。もしいらした際には食べてみてくださいね』と。画像ついてるわ。うまそう」
「どれ?」
「ほら」
「どらちゃん好きそう。甘そう」
「3個ぐらい一気に食いたい」
「喉焼け死ぬよ……糖分で……」
「そんな死因はない」
どらちゃんは甘いものが好きだが、忙しくなってくるとエネルギー補給のためなのか、ヤケクソみたいな量を一人でかっ喰らっている時があるので、こちらとしてはマジで心配なのだ。普段は普通に、いやでも普段もでかい饅頭とか一口でペロリだけど、一応は理性的な量を食べているのではないかと思う。病気んなるよ。糖分過多で。
「ボーカルくんだってメチャクチャな量の水飲むじゃん」
「水はいいでしょ。無害なんだから」
「メチャクチャな量の水飲んでお腹ちゃぷちゃぷになってトイレ行くじゃん。トイレ行って欲しくないタイミングで」
「それはごめん」
「ほら」
「なにがほらなの……?」
「俺にだけ言うのは無しだって。いつも俺にだけ言う。みんなそう。俺のことサンドバッグだと思ってる」
「今ね、どらちゃん嘘泣きしてる。声しか聞こえないのをいいことに」
「えええん」
「ごめんねどらちゃん。足が長いよ」
「当たり前だろ」
ただの茶番なので、この辺にして。進行といっても今回は特にテーマがあるわけでもゲストがいるわけでもないので、のんびりだらだら喋って時間が来たら終わりにする感じだ。テーマがある時とゲストがいる時は四人いる。大きい欠伸をしたら、はい今ボーカルくんがでかい欠伸しました、と電波に乗せてお届けされた。黙ってりゃばれないのに。
「そいえばこないだ突然どらちゃんが電話してきたじゃん」
「ああ。うん」
「あれ結局なんだったの?」
「全部説明したのに何で意味わかってないんだよ」
「昼寝してたから全然入ってこなかった」
「動画見ろ。さっき、18:00だっけ。上がったろ」
「企画のやつ?」
「そう。見た人挙手。感想。ボーカルくんこれ持って」
「うん」
「30秒数えて」
「いーち」
「目についたやつから読む。早く送って」
「にじゅー、うわうわうわめっちゃ来た!早い怖い読めない!」
「こっち向けて。はい、全然人望無くて笑いました、ビジネス仲良しじゃなかったんですか?、オンオフあんま変わんないのがびっくりした、ちゃんと電話出てくれるあたり仲良いなと思った、自己評価高すぎて序盤からもう見れない、恥ずかしい、メガネかっこよかったです。あ、メガネ買い替えました」
「どらちゃんよく読めんね?」
「で?何の感想かわかった?」
「ううん」
「じゃあもう分からない人は各自で公式のチャンネル見てください」
「みんなも見よう!」
「見てるんだよ、ここにいる人たちは全員」
「カンニングしていい?」
「いいよ。ボーカルくんが訳分かってないと話になんない」
「あー……あー。うーん?俺いないよね?」
「声だけだって」
「なんか聞いた気がする。どらちゃんがまた錯乱したんだと思って気にもしなかった」
「それ同じことギターくんにも言われた。俺は正常だから」
なんかこないだ、どらちゃんから突然「俺のどこが好き?」って訳わかんない電話かかってきたから、普通に打ち合わせの間の移動時間で車の中だったから寝てたし最近忙しくて一昨日ぶりぐらいだったしもうついにぶっ壊れたんだと思って「病院行きなね」って言ったと思うんだけど、それが企画だったらしい。ほぼ罰ゲームだろあんなもん、とどらちゃんは椅子に踏ん反りかえって不貞腐れている。持たされているタブレットをぼけっと見ていたら、「いやジャンケンしてたじゃん」「動画の最初でジャンケンしてストレート負けしてた」と同じ内容のコメントが矢のように飛んできたので、そうらしいですよ?と画面を向けた。
「そうだけど。そこがもう何のじゃんけんか知らされてないし隠し撮りだし。これ見て何が楽しいの?」
「みんなは楽しそうだよ」
「部外者だからな」
「俺も見よ」
「……あ、ほら。自分達の動画見たりしないんですね、って言われてる」
「俺あんま見ない。ぎたちゃんは時々見てる、べーやんはちゃんと見てる。どらちゃんは最終チェックに入れられてる」
「俺だけ扱い違くない?俺もちゃんと外に出して欲しい」
「じゃあ今度から俺がチェック代わったげる!」
「はあい。お仕事頑張ります」
にっこりされた。拒否ってことだろうな。いやまあ俺も、俺にどらちゃんの仕事ができるとは思っていないし。
先にインフォメーションします、とつらつら読み上げているどらちゃんをぼおっと見る。なんか多分大事なこと言ってんのは分かる。あれだよね、局主催のフェスのチケットの話してんだよね。でもこう、俺関係ないしなあ…と思うともう聞く気がしなくなるし、聞く気がしなくなると眠くなる。だって3時過ぎだよ、普通寝てるって。昨日は寝てたもん。頬杖をついたまま半目でぼけっとしていたら、机の下で思いっきり蹴られた。
「あ″ーっ!」
「グッズの通販はフェス公式のものしかないです。以上」
「いったい!いっ、足折れた!」
「ボーカルくんうるさい」
「どらちゃんが蹴ったあ!」
「え?そう?長い足が当たったかもしれない」
「んおおおおずっとじわじわ痛いぃ……」
「はははは」
「すげえ楽しそうでムカつく、ぐうぅ……」
ひっどい。すぐ手も出るし足も出るし、最低。もうちょっと前の方がもうちょっと扱いが良かった気がする。



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