このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ラジオ




『うああああ間に合わんかった間に合わんかった間に合わんかったギリ間に合った!!!!!』
「あははは!」
『おかえんなさい』
「おつかれー」
『今日誰!ツイート見てない!』
「横峯くんと我妻くん」
『脳から涎出る』
『いい夢見れそうコンビですねー』
同じバンドが好きな繋がりで仲良くなったフォロワーさんと通話を繋いでラジオ待ちしていたところ、ちょっと前に寝落ちたっぽかったハルさんが、『お風呂行ってくる…ます…』とぽやぽやした口調で消えて、3時に間に合うのか?ともう一人のみいなさんと話してたら、めちゃくちゃドタバタしながら戻ってきたから流石に笑った。ほんとにガチ寝だったんだ。あと30秒で3時、と言うところだから、マジでギリだけど。
深夜3時からのラジオ。四人揃う時もあれば、二人の時もある。三人の時は滅多にないが、数回誰かしらの体調不良で欠席のことはあったかな。ちなみに一人は一度もない。今日は誰がやります、っていうのは前日の夜9時頃に発表されるので、仕事が忙しかったらしいハルさんはそれが見れなかったのだろう。まにあったー!という声とともにプルタブを開ける音がした。うん。そうなるよね。時間ぴったりにジングルが鳴って、息を吸う音。
「こんばんは!我妻諒太です!」
「横峯悠でーす」
「5月20日の午前3時になりましたあ、起きてる?」
「うん。お腹空いた」
「おべんと用意してもらっててもさあ、この時間だと食べれないんだよね。食べたら眠さに負ける」
「え?お弁当あるの?」
「あるよ。あったでしょ、マネージャーさん持ってたよ」
「俺知らない」
「なんで?いじめられてんじゃん」
「……えっ……?」
「うわあ、みんなに見せてえー。ぎたちゃん超ショック受けてんよ。そんなわけないじゃん、いじめられてないよ。みんなぎたちゃんのこと好きだよ。ねっ」
「……………」
「やあー!ねえ照れてんだけど!見せてえー!なんでラジオなの!?動画撮ろ」
「やめてやめてやめて……」
「最近さあ!ぎたちゃんのそゆとこ見ると俺ぎたちゃんよりお兄さんなんだなってめっちゃ思うんだよね!あははっ」
「声でっかいぃ……」
『……………』
『……………』
「……………」
この時間にわざわざ示し合わせて通話繋いでるくせに全員が黙り込んでると繋いでる意味がいよいよ分からんな、とぼんやり思った。が、それを上回って余りある激情にぶん殴られているので、多分画面の前で三人とも同じように頭抱えたり手を組んだり目を閉じたりして静かに耐えてる。楽しそうな笑い声が一旦落ち着いた時に、二人のどっちかが歯の隙間から食いしばるような息を漏らしたので、黙れ、と唸ってしまった。うるせえ。
「そいえばこないだの催眠術の話どうなったの」
「なにが?」
「ゆってたじゃん。催眠術ってほんとにかかんのかなって。りっちゃん練習してたよ」
「まっ……えっ?マジで……怖っ、え?俺なに……どらちゃん何考えてんのかな?」
「ボーカルくんが信じてなかったからりっちゃんムキになってるだけと思うけど」
「えっ、えー……だってあるわけないじゃん催眠術とか……あるわけないと思うよねえ?」
「俺はわかんない」
「ずっる!」
「だって生で見たことないもん。りっちゃんがかけられたってゆってたの見てたのベースくんでしょ」
「だから絶対どらちゃんがべーやん脅かそうとして演技してたんだって……」
『はい。自分いいすか』
『どうぞー』
『出典どこ?何の話?』
「あー、こないだのライブのMC。ハルさん行ってないっけ」
この人たちはほっとくと無限に会話の種を生み出し続けるので、どこからどうつながってその話に行き着いたんだかは分からないけれど、多分ステージをいろいろスタッフの人とかが弄ってる間ちょっといつもより話す時間が長かった時とかに、完全に素に戻った四人がいつもの感じでだらっとしだしたあたりの会話だったと思う。全然ライブ関係ないもんな。今考えても。ざっくり説明すると、秋くんが先日催眠術士だという人に立ち上がれないと言われたらマジで立ち上がれなくてビビったという話をしたところ、我妻くんが「えー嘘だよ、催眠術なんて眉唾モンじゃん」と一笑に伏し、宮本くんもそれを見ていたと言うのに、信じず否定を続けているという話である。何故か確固たる意志で信じようとしない我妻くんも我妻くんだが、それを根に持っている秋くんも秋くんだ。
「どうする?りっちゃんがほんとに催眠術使えるようになったら」
「怖い。自分の手を汚さずに犯罪を犯させられそう」
「信用ねえー。わかる」
「完全犯罪じゃん。俺の罪になるんでしょ?」
「そだね」
「怖い怖い……催眠術とか使えなくてもやってそう……」
「まあそれは確かにね、ふふ」
「全然笑い事じゃないかんね!俺標的にされてるってことだから!」
「ボーカルくんは催眠術使えたらどうすんの」
「だから催眠術なんかないじゃん……催眠術がもしあったとしてだよ?そしたら俺は好みの見た目の女の子にお前俺の彼女になれって催眠術かけるよ」
「だはははは」
「そんなことできないじゃん!それがまかりとおるならこの世の美人は全員催眠術士の彼女じゃんか!だからないっつってんの!」
「あはっ、あっお腹痛っ、あはははは!」
「ちゃんと聞いてよ!俺の主張結構筋通ってるよねえ!?」
『天使か…?』
『みいな黙って』
「強火担は静かに」
おい…と低く漏らしたみいなさんは普段の敬語を何処かへかなぐり捨てているので、多分理性がない。しょうがない。私たちはこういう集まりなので。しばらく催眠術の話を擦ってけらけらと笑っていた二人が、コーナーを変えろというお達しが出たのか、はいはい、はあい、と生返事をした。
「うんとね、読みます。たくさん溜まってるやつを」
「あ!待って今から送らないで!流れちゃったら読めないから!」
「そう。俺とボーカルくんに早い流れ追えると思わないで。速読できて漢字が読める人がいる時にして」
「来週はべーやんもどらちゃんもいると思うから……あ!見て!今日もかっこいいって。ありがとう」
「俺は?」
「我妻さんがかっこいいって書いてる。ライブ見に来てくれた人ですか?ありがとー」
「ねえ。俺は」
「やめて!ぎたちゃんがそれやるとどんどん早く、あー!もうほら!ぎたちゃんについてのことですごい勢いになっちゃったじゃん!」
「んははは。後で見る」
「俺!俺!俺のことは!」
「ボーカルくんはさっき読んでたじゃん。お、おう、なんだもうよく分かんないな……」
「指で押すとそこのコメントで一旦止まるよ」
「でもこんな早いと読めないからさあ、止めたやつが俺のことじゃないやつだったらルーレット失敗でしょ」
「運試ししてみて。多分今ならほぼぎたちゃんのことだよ」
「よーし。んー、と。これ」
「なに?えー、ベースくんお誕生日おめでとうございます、えっ!?」
「うそお」
「そうなの!?待って!」
「そうなの?」
「知らないんだけど!本当!?俺たちを騙そうとしてない!?」
「ベースくんの誕生日いつだっけ」
「わっかんない……ていうかぎたちゃんルーレット失敗だね」
「それよりもケーキのことだよ」
「うん……うん?うん。ケーキ?うん……遠回しに言ったら合ってるか……」
『送った』
『もうフリですもん。毎回』
『読み上げられなくても目に止まる可能性があるだけで幸せですんで……』
「それ書いたら気持ち悪がられるでしょ」
『そうですね』
『ですね』
冷静になった。ラジオの固有タグがあって、SNSでそれつけて呟くと拾ってもらえたり、逆にあっちから「これの感想が聞きたい」と振られるので猛スピードで打ち返したり、といった用途に使われている。のだけれど、我妻くんと横峯くんの時は、あまりコメント拾ったり声に答えたりしない。二人とも文を読むのが不得手なので、ぱっと目についた、自分を褒める言葉だけちょっと突っついて終わる。長いと読まれないし、基本コメントの流れも早いので、そもそも追いかけるのを諦められているのだ。ちなみに秋くんは早くても長くてもちゃんと読めるし、宮本くんも丁寧で真面目だから拾ってくれる。得意不得意があるということで。ちなみに宮本さんのお誕生日は今日ではない。ただ祝いたかっただけなのか、二人を騙そうとしているのかは、コメントした人によるが。待って、うぃきる…とぼそぼそ言った我妻くんが、んもお!と声を上げた。今日ではないと分かったらしい。
「びびるわ!やめんか!」
「でも過ぎてんね」
「それはそう。祝い損ねた」
「なんかあげよっか。プレゼント」
「えー。なにがいいかなあ、べーやんでしょ?なにあげても喜んでくれそう」
「なにあげてもヤな顔する人と違って考え甲斐があるや」
「ケーキは喜んでたじゃん?どらちゃん」
「だってあのケーキおいしかったもん。あれ喜ばなかったら頭おかしいしょ」
「ぎたちゃんてどらちゃんに冷たいよね」
「そお?」
『そう』
『嫌いなのかもしれない』
「うるさい!黙って!」
『あ!また邪な目で見ようとしてますね!』
『いけませんねえ!』
「うるっさい!」
べーやんなにが欲しいと思う〜?と盛り上がっている尊い会話が、プークスクスされているせいで聞こえない。同じ穴の狢のくせにやかましいぞ。
そんな間にパーソナリティー側の会話が、結局誕生日プレゼントの話から、最近食べて美味しかったものの話にずれている。この二人が話していて、決まった話題のルート通りに進んでいるところなんて見たことがないし、「さっきも聞いたなこれ」と思う回数は多いし、終わった後に得るものはなにもない場合がほとんどである。まあ、ギスギスしないし楽しそうだし、きゃっきゃしながら笑って終わるので、一番リスナー側に負担がかからないのも確かだ。聞いててマジで精神的にキツい時があるのは宮本くんと秋くんの時。比較時平和な二人は、どうやらポトフの話をしているらしい。最近はじめて食べたんだけど美味しかった、と我妻くんが言っているが、「ほんとに初めてか?」「絶対食べたことあるけど名前知らなかっただけ」とコメントでも流れるように突っ込まれている。そんな気がする。
「でもボーカルくんブロッコリー入ってると問答無用でダメじゃん」
「ポトフは好きだよ」
「ブロッコリー入ってても?」
「ブロッコリー入ってないポトフしか食べたことない」
「えー、ポトフってコンソメスープみたいなやつでしょ」
「もっと野菜がゴロついてるやつ」
「えー……ねえ、ほらあ。調べたんだけど、ブロッコリー入ってんよ。どのレシピ見ても」
「入ってないんだよ!こないだ食べたの!」
「見てよ。ポトフにはブロッコリー入ってるって」
「入ってないやつだったの!俺が食べて美味しかったのは!」
「だからそれポトフじゃないんだよ」
「んもお!」
またどうでもいいことでやいやい言ってる。多分この会話はこの後しばらくしてから「こないだおいしいポトフ食べたんだよ」ともう一度聞くことになると思うし、「さっきも聞いたよ」とコメントで指摘されるが二人は確実にそれを見ない。それが良いのだが。
ブロッコリーは容赦なく嘔吐くぐらい嫌いなだけで他のものは基本食べられる我妻くんと、食べ物に関しては食べられないものがほぼないと本人も公言している横峯くんなので、ライブで回った先の「あれおいしかった」情報がファンの間で回ってブームになることが多々ある。今回のこれで明日以降、ブロッコリーなしポトフを食べる人間が出てくるのだろうなと思った。少なくともここに一人いる。明日ポトフ作ろ。もうポトフの口になった。ソーセージ買って帰る。
そうこうしている間に、またスタッフから本筋に戻されたらしい。今日の本題であるお悩み相談的なものを読みあげろと渡されているっぽいのだが、漢字が読めないコンビなので、ものすごくたどたどしい。振り仮名振ってあげてください。秋くんは全部振ってあげてるって言ってた。それもそれでどうかと思うが。そして読み終わったが、長文を読むことに力を注ぎ過ぎて内容が理解できなかったらしい。ふうん、そっか、という適当な相槌の後数秒無言の時間が流れた。こういうやつはギスギスコンビの時にやった方が、空気は悪いがまだ建設的な意見が出るのではないだろうか。大人なので、質問とか感想には比較的真面目に答えてくれる。
「要するにどゆこと?」
「俺読んでたもん。ぎたちゃん分かったでしょ」
「よくわかんない」
「えー。もっかい見る。待って」
「俺にも見して」
「うーん……んー、要は彼女と話が合わんってこと?」
「話は合うんでしょ。書いてあるよ」
「……もっとちゃんとした話が合わんってこと?」
「真面目な話」
「そうそう。友達じゃないからさあ、そうゆう話もすんでしょ」
「ケッコンとか?」
「結婚のイントネーションぎたちゃんおかしくね?」
「ケッコン」
「なんか変」
「ケッコンのこと考えたことあんまないかんな」
「血の方みたい。やばい」
「ち?」
「血。血痕」
「ケッコン……そだね……」
「あっこれ意味わかってないな?ぎたちゃん」
「む。分かってるよ」
「分かってないなー、ぎたちゃんー」
「ばかにしている……」
『安心しますね。真面目な話ができなさすぎて』
『まだ諦めるには早いから!』
『そうですかあ?』
『まだ時間結構あるし、お』
「ほらあ、真面目に考えないとまた違うって言われちゃうよ」
「まあ俺は大人だからな……こういう感じの話にも、ちゃんと対応できっから……」
「おお」
「……俺は……俺あんま、あの、いやいなかったわけじゃないんだけどね?彼女……でもそんな真剣な話したことないからあんまわかんないけど……」
「めちゃ予防線張んじゃん」
「だってそんなまともなこと考えながら付き合ったことない……」
「多分この質問に一番向いてんのベースくんだよ」
「それはそう。てゆかどの質問に対してもそう。べーやんが一番真剣に考えてくれる」
「俺たちには無理なこと」
「そ、あ?たちっつった?俺はできるんですけど。真面目な話も」
「あ!一人だけ逃げた!ずる!」
「じゃあぎたちゃんだったらどうすんのさ。俺はちゃんと答えたもん、そんな真面目に付き合ったことないから分からんって」
「それ答えてることになるの?」
「なる。ぎたちゃんも答えて」
「えー、んー……俺はあ、相手を嫌な気持ちにしないようになんとなく流せば良いと思う」
「それ何の解決にもなんないやつ」
「もめるよりいくない?」
「ぎたちゃんのそれ、俺は楽で好きだけど、いつか誰かにガチ怒られるんじゃねえかなってずっと思ってんよ」
「そおー?」
「こないだもバレなきゃいいってどらちゃんの」
「しっ!」
「いった!暴力で黙らすの良くなくない!?」
「危なかった……」
「あぶねえのお前だから!」
「りっちゃんが例え今聞いてなかったとしても絶対インターネットに残るしいつか見つかって痛い目に遭う。俺が」
「ねえ!ごめんなさいは!?」
「ごめん」
「いいよ」
「秘密っつったことはちゃんと秘密にしてね」
「うん。俺も悪かった」
「こうだかんね」
「グーを振りかぶんないでよ……ぎたちゃん結構手ぇ出るよね……」
「痛くないからいいでしょ」
「そういやそだね。なんでぎたちゃんの暴力あんま痛くないの?」
「力ないから。俺自分でも悲しくなるぐらい力ないなと思う」
「いった!って俺もとりあえず言うけど、マジで痛いのはどらちゃんだから。ぎたちゃんのはそんなでもない。いてってぐらい」
「りっちゃんは力あるのに力加減分かってないじゃん」
「ボタン千切るし」
「こないだ缶握りつぶしてた」
「さっきの質問してくれた人にもね、そういうやつよりは自分の方がマシだと自信を持って欲しいですね」
「あーあ、ボーカルくん怒られるー」
「本題に戻したんだから誉められるだろがい」
「言いつけよっと」
「あ!ずる!俺は秘密にしたのに!ぎたちゃんがどらちゃんの」
「あー!!!」
「いっ、だからすぐ叩くんじゃないよ!」
『……真面目な話するのかと思ってハラハラしましたね』
「息止まるかと思った」
『安心したら涙出てきた』
よかったです。


1/6ページ