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軍パロです。下士官してるかわいそうな♥️が書きたかっただけなので恋愛はおまけ。
ユウ≠監督生です。全くの別人。♥️とはタメ。性格はステレオタイプの監督生ちゃんに似てるかも。
ハピエンのつもりです。
ほとんど♥️が一人で喋ってる。
目の前で旦那を失っておかしくなったヤツがいた。前線で弾を受けて動けなくなった旦那を衛生兵に任せて進軍、やっと戻った頃にはその旦那は死んでいて、形見の結婚指輪を残して近所の空き地に埋められてしまったらしい。
故郷に残してきた婚約者を空爆で失って、復讐に身を投じてそのまま焼け死んだヤツもいた。報せを受けたときの内地にいるはずにどうして、という顔は酷いものだった。その報せを受けた日から人が変わって、結局そのまま戦闘に深入りしすぎて死んだ。
戦争なんて、そんなもんだ。
個人的に聞けばそりゃもう悲劇的で悲惨で、とてもじゃないけどひとつひとつ書き残すことはできない。
けどそんなの、全員そうだった。
先にあげた2人もそうだし、オレだって例外じゃない。
ただまあ、なんて言うか。生き残ってしまった今だから言えることではあるけど。
ユウには、オレの目の届く所で死んでほしかった。
例えそれでオレが廃人になっても壊れても死んでも、それでも良いから目の前で死んでほしかった。
ユウっていうのは、オレが前線に出てきてから知り合った徴兵組の女子だ。兵科はオレと同じ歩兵で、狙撃手だった。
オレの方が1つくらい階級が上だったんで、タメのくせにえらく畏まった物言いをしていたのが懐かしい。
補充要員としてやって来た兵士は彼女だけではなく、その中にオレの同年代のヤツは少なくなかった。
前線ったって常に進軍してるわけじゃないし、常に攻撃されてる訳じゃない。飯も食うしバカげた話もするし、前線なりの生活がある。だから、ユウをはじめ、補充要員としてやって来たヤツらと仲良くなるのは自然なことだった。
最初は、ただの戦友。階級による上下関係もあったけど、その場にもっと上が居なければあって無いようなものだった。補充要員として連れてこられた新顔がある程度減ってきた頃に、酷く疲れた顔をしたユウを見た。
声をかけると、ユウはヘラリと笑った。
一対一で話すのが初めてだったからなのかなんなのか、その時の笑顔が未だに忘れられない。今思えば、あの笑顔に惚れたのかもしれないとすら思う。
色々な事を話した。家族の話とか、好物の話とか、特技の話とか。戦争が終わったらやりたいこととか。
その日から、時間が合う度に色んな事を話した。ユウの実家には、青い目の黒猫がいるんだとか、よく夢を見るんだとか。オレもオレで、アニキの話をしたり、簡単な手品を見せたり。オレが思ってたのの数倍ぐらいのリアクションがあるんでやり甲斐があった。
まるでフツーの男女みたいな会話が続いた。次第に話し終えてまた明日と別れるのが怖くなっていった。
そのあたりで、オレはユウが好きなんだと自覚した。
一緒に夕飯を食った奴が次の日の朝には死んでるなんてことだって珍しくもなんともないこの戦場で、何をバカなことを、とは自分でも思った。思ったけど、一度自覚したらやっぱそうなんだなーって、腑に落ちた。
同期や上官にひやかされて、なんならユウもオレに気があるらしいこともわかった。
でも別に、告白しようとは思わなかった。お互いにいつ死ぬかわからない、こんな状況下だ。そんな気にはならなかった。
ユウと最後に話したのは、ユウの部隊が配置換えされる、という話が噂話程度ではあるが出回り始めた頃だった。
あまり急を要さず、尚且つ膠着状態にあるここら辺の地域から余剰戦力を引き抜いて、もっと戦闘の酷い、市街地の方へくれてやるらしいというのがもっぱらの話だ。
オレにとってはユウと会えなくなるのか、と漠然と思いつつも心の片隅でまあ戦争してんだしな、という程度のものだったが。
「エースはそれで後悔しないのか」
と言ったのは同期のデュースだった。
「別に。伝えても伝えなくても噂がホントならユウは余所に配属されるんだし、変わんないだろ」
「そういう事じゃなくてだな、」
「そういうことだよ」
そう、そういうことなのだ。オレがいる場所からユウが配属されると噂されている場所への連絡手段は手紙しかない。検閲されて、時間がかかる上に届くかもわからない手紙しかないのだ。
「……もし戦争してなかったらさぁ、オレユウと付き合えてたかな」
「告白してみないとわからないんじゃないか」
「そういうこと言ってんじゃねえっつの」
「事実だろ」
オレのセンチメンタルを理解できなかったらしいデュースは、オレの言葉をばっさりと斬り捨てた。
「配置換えが本当なら、それこそちゃんと言っとかないと後悔するんじゃないのか、エース」
今生の別れになるかもしれないからな、とはさすがのデュースも言わなかった。
「男なら覚悟決めろって?」
「わかってるじゃないか」
「でもオレデュースと違って繊細なんだよね」
「エースが言わないなら僕が告白するぞ」
「それはダメ!!」
決まりだな、とドヤ顔で笑ったデュースの顔にすげえムカついた、ということだけはここに明記しておこうと思う。
「やっほ、ユウ。隣いい?」
「エース、……あー、トラッポラ曹長」
「良いって、そういうの」
喋りに来ただけだしさ、とこっそり持ち出したチョコレートの包みを見せると、ユウはもちろん、と笑った。
粗末なカップに紅茶を注いで、数は多くないチョコレートをつまむ。
「んで、西の方に移動するっていうのはホントなワケ? 」
「うーん、上から正式に何か聞いたわけじゃ無いからまだなんとも」
やっぱりその話か、とユウはカップを傾けた。
「ただ上官は最近口を酸っぱくして私物をちゃんとまとめておけってうるさいから、そうなのかも」
「まとめるような私物なんか無くね?」
「それはそう」
まあ上官なりに気を使ってくれてるんだろうね、とユウはカップを傾けた。
「で、行先はどこだと思ってるワケ?」
「噂通りだと思うよ、西の方。」
沼ってる街の方じゃないかな、と呟いたユウの声と、カップをテーブルに置く音が重なった。
「死なないでよ」
その言葉は、どっちのものだったか。
わからないが、どちらにせよ本心だった。
結局オレは告れずに、そしてユウも告白なんてものはせずに、そのまま雑談をして別れた。
そしてそれが、オレとユウとの、最後の会話だった。
数日後にはユウ達の部隊は西方の激戦区へ配置換えされ、そして潰走した。
酷い戦闘だったらしい。敵味方軍人民間人問わず死者多数。
そこが文字通りこの世の地獄ってヤツなのは、噂をかじっただけのオレでもわかった。これは余談になるけど、ユウが参加した西方の激戦区は、この戦争で最も悲惨な戦闘として歴史の教科書に載ることになる。
戦線が押し込まれたらしいとか、どこどこの隊が全滅したとか、補給が絶たれたらしいとか。自分の生死に関わる塹壕地区の話題なんかよりいっそ、西方の噂の方が気になった。
西方が潰走し放棄されてから程なくして、オレ達の隊も消耗が激しく再編の必要ありということで一度内地に戻された。オレ達みたいな下士官は再編が済むまでの間することなんか無いから、束の間の休息を与えられた状態だ。
デュースや他の同期達と塹壕じゃない、舗装された地面を再び歩けることを喜びつつも、オレは西方から生きて帰ってきた知り合いの元へ足を運んだ。
西方へ移動してから何度か手紙を送ったが一向に返事をよこさなかったユウのことが気になって仕方なかった。
まあ、軍人なんてごまんといるからオレが望む情報が手に入るかは望み薄だけど。
さて、結論から言うとユウのことは何もわからなかった。
そもそもユウを知ってるヤツがいなかった。女性兵士で狙撃手なんて珍しいから、知り合いにいればわかるはずだ。
唯一もしかしたら、と思った情報は『最近西方にやって来た狙撃兵の特殊部隊』の話だったけど、それもユウのことかはわからない。ただ、その部隊は全滅したらしいのでそこにはユウでないことを祈るばかりだった。
少しして再編が終わったオレ達の部隊は、以前所属していた部隊よりスリムになっていた。小回りが利くようになったと言えば聞こえは良いが、各地を転戦して回るハメになっただけだった。
オレは行った先々でユウのことを知ってるヤツは居ないかと西方から来たらしいヤツに声をかけたけど、ついぞめぼしい情報を得ることは無かった。
やっぱダメだったかな。
死んだという話こそ聞かないけど、生きてるなら何かしら連絡くれても良くね?
なんてデュースに愚痴りながら、内心ではたぶんもう死んだんだろうなあ、って。
遺体が回収出来ないことは珍しくない。遺品だってそう。
ここまで探して見つからないなら、たぶんそういうことだ。
理性と常識がそう判断しているのに、未だにユウを諦められないのは、誰もユウの死に目を見ていないからなんだと思う。
そのうち、戦争は終わった。
オレは生き残った。明日から平和ですって言われても実感無いけど、生き残ったらしい。
死ぬかもな、と心のどこかで思っていたのに死ななかった。ただ少し、ユウのことを考えたときに、死ねなかったって言うと本当におかしいしとんでもない言い方だけど、そう感じた。
とはいえ、ユウがいなくても、事は進む。戦友をはじめ、多くのものを失ったオレ達は未来に向かって歩き出さないといけない。どれだけ辛くて苦しくても、だ。
戦争が終わってすぐの頃は、そう思っていた。ちょっとカッコつけ過ぎだろとは思ったけど、そうすべきだと思った。
もう止んだはずの銃声や砲撃の音が時々聞こえる。
それだけでは無い。ふとした瞬間に、ユウのことが頭をよぎる。
たぶん参ってるんだと思う。
戦時中と比べて随分活気が戻った街を歩く。戦時中にはなかった食物とか、娯楽とか、笑顔がある。
あるけど、やっぱりユウは居ない。
たったそれだけの事実がオレを笑わせてくれなかった。
さて、オレがわざわざ……という程のことでもないけど、街に出てきたのは理由がある。
手紙を受け取ったのだ。
この間まで上官だった人から、日時を指定されて、空港に来いと。気乗りしなかったけど、他にすることもないし良いか、と出てきたのだ。
一体何の用だと思いつつ、到着ロビーの椅子に腰掛けて指定された時間を待った。
やがてゾロゾロと人がロビーに出てきた。皆揃って疲労が滲んでいたけど、ただそれ以上に嬉しそうな顔で出てきた。
そして何より、彼らは皆軍服を着ていた。
まさか、と思った。見覚えのある軍服は、オレやデュースも着ていたそれと同じものだ。つまり、ウチの国の。
たぶん、捕虜になっていた兵士だ。
戦争が終わったから帰ってきたんだ。
てことはユウももしかしたら生きてて帰って来るかもしれない。
期待しすぎでもしょうがない、と自分に言い聞かせながらも、オレは期待してロビーに出てくる人の群れに目を向けた。
オレより小さくて、黒髪で、かわいくて、それで。
思い出せる限りの特徴を脳裏に並べながら人混みの中からユウを探す。
名前を叫んだ。
「!」
ぱ、と振り返る人影があった。
その影は、周りの人波より背が低くて、そして、知っている顔だった。
「エース?」
彼女の口元がオレを呼んだのを見ると同時に、オレは走り出した。
ユウが、生きていた。
「勝手にどっか行くなよ、バカ、」
まだ少し信じられなかったけど、手が届くなり抱きしめたユウは暖かった。塹壕の中で別れたあの日よりもユウは痩せていたけれど、生きている。
「うん、ごめんね、エース」
「ヤダ」
「うん、」
「心配した」
「ごめん、」
「死んだと思ってた、」
「うん、」
「……生きてて良かったよ、ホント」
「ありがと、」
ちょっと鼻声だったかもしれない。
顔を見せて、と言われて1度彼女を離す。
ああ、ユウだ。生きてる。
「ただいま、エース」
ちょっとはにかみながら笑ったユウに、おかえりと伝えて再び抱きしめた。
ユウ≠監督生です。全くの別人。♥️とはタメ。性格はステレオタイプの監督生ちゃんに似てるかも。
ハピエンのつもりです。
ほとんど♥️が一人で喋ってる。
目の前で旦那を失っておかしくなったヤツがいた。前線で弾を受けて動けなくなった旦那を衛生兵に任せて進軍、やっと戻った頃にはその旦那は死んでいて、形見の結婚指輪を残して近所の空き地に埋められてしまったらしい。
故郷に残してきた婚約者を空爆で失って、復讐に身を投じてそのまま焼け死んだヤツもいた。報せを受けたときの内地にいるはずにどうして、という顔は酷いものだった。その報せを受けた日から人が変わって、結局そのまま戦闘に深入りしすぎて死んだ。
戦争なんて、そんなもんだ。
個人的に聞けばそりゃもう悲劇的で悲惨で、とてもじゃないけどひとつひとつ書き残すことはできない。
けどそんなの、全員そうだった。
先にあげた2人もそうだし、オレだって例外じゃない。
ただまあ、なんて言うか。生き残ってしまった今だから言えることではあるけど。
ユウには、オレの目の届く所で死んでほしかった。
例えそれでオレが廃人になっても壊れても死んでも、それでも良いから目の前で死んでほしかった。
ユウっていうのは、オレが前線に出てきてから知り合った徴兵組の女子だ。兵科はオレと同じ歩兵で、狙撃手だった。
オレの方が1つくらい階級が上だったんで、タメのくせにえらく畏まった物言いをしていたのが懐かしい。
補充要員としてやって来た兵士は彼女だけではなく、その中にオレの同年代のヤツは少なくなかった。
前線ったって常に進軍してるわけじゃないし、常に攻撃されてる訳じゃない。飯も食うしバカげた話もするし、前線なりの生活がある。だから、ユウをはじめ、補充要員としてやって来たヤツらと仲良くなるのは自然なことだった。
最初は、ただの戦友。階級による上下関係もあったけど、その場にもっと上が居なければあって無いようなものだった。補充要員として連れてこられた新顔がある程度減ってきた頃に、酷く疲れた顔をしたユウを見た。
声をかけると、ユウはヘラリと笑った。
一対一で話すのが初めてだったからなのかなんなのか、その時の笑顔が未だに忘れられない。今思えば、あの笑顔に惚れたのかもしれないとすら思う。
色々な事を話した。家族の話とか、好物の話とか、特技の話とか。戦争が終わったらやりたいこととか。
その日から、時間が合う度に色んな事を話した。ユウの実家には、青い目の黒猫がいるんだとか、よく夢を見るんだとか。オレもオレで、アニキの話をしたり、簡単な手品を見せたり。オレが思ってたのの数倍ぐらいのリアクションがあるんでやり甲斐があった。
まるでフツーの男女みたいな会話が続いた。次第に話し終えてまた明日と別れるのが怖くなっていった。
そのあたりで、オレはユウが好きなんだと自覚した。
一緒に夕飯を食った奴が次の日の朝には死んでるなんてことだって珍しくもなんともないこの戦場で、何をバカなことを、とは自分でも思った。思ったけど、一度自覚したらやっぱそうなんだなーって、腑に落ちた。
同期や上官にひやかされて、なんならユウもオレに気があるらしいこともわかった。
でも別に、告白しようとは思わなかった。お互いにいつ死ぬかわからない、こんな状況下だ。そんな気にはならなかった。
ユウと最後に話したのは、ユウの部隊が配置換えされる、という話が噂話程度ではあるが出回り始めた頃だった。
あまり急を要さず、尚且つ膠着状態にあるここら辺の地域から余剰戦力を引き抜いて、もっと戦闘の酷い、市街地の方へくれてやるらしいというのがもっぱらの話だ。
オレにとってはユウと会えなくなるのか、と漠然と思いつつも心の片隅でまあ戦争してんだしな、という程度のものだったが。
「エースはそれで後悔しないのか」
と言ったのは同期のデュースだった。
「別に。伝えても伝えなくても噂がホントならユウは余所に配属されるんだし、変わんないだろ」
「そういう事じゃなくてだな、」
「そういうことだよ」
そう、そういうことなのだ。オレがいる場所からユウが配属されると噂されている場所への連絡手段は手紙しかない。検閲されて、時間がかかる上に届くかもわからない手紙しかないのだ。
「……もし戦争してなかったらさぁ、オレユウと付き合えてたかな」
「告白してみないとわからないんじゃないか」
「そういうこと言ってんじゃねえっつの」
「事実だろ」
オレのセンチメンタルを理解できなかったらしいデュースは、オレの言葉をばっさりと斬り捨てた。
「配置換えが本当なら、それこそちゃんと言っとかないと後悔するんじゃないのか、エース」
今生の別れになるかもしれないからな、とはさすがのデュースも言わなかった。
「男なら覚悟決めろって?」
「わかってるじゃないか」
「でもオレデュースと違って繊細なんだよね」
「エースが言わないなら僕が告白するぞ」
「それはダメ!!」
決まりだな、とドヤ顔で笑ったデュースの顔にすげえムカついた、ということだけはここに明記しておこうと思う。
「やっほ、ユウ。隣いい?」
「エース、……あー、トラッポラ曹長」
「良いって、そういうの」
喋りに来ただけだしさ、とこっそり持ち出したチョコレートの包みを見せると、ユウはもちろん、と笑った。
粗末なカップに紅茶を注いで、数は多くないチョコレートをつまむ。
「んで、西の方に移動するっていうのはホントなワケ? 」
「うーん、上から正式に何か聞いたわけじゃ無いからまだなんとも」
やっぱりその話か、とユウはカップを傾けた。
「ただ上官は最近口を酸っぱくして私物をちゃんとまとめておけってうるさいから、そうなのかも」
「まとめるような私物なんか無くね?」
「それはそう」
まあ上官なりに気を使ってくれてるんだろうね、とユウはカップを傾けた。
「で、行先はどこだと思ってるワケ?」
「噂通りだと思うよ、西の方。」
沼ってる街の方じゃないかな、と呟いたユウの声と、カップをテーブルに置く音が重なった。
「死なないでよ」
その言葉は、どっちのものだったか。
わからないが、どちらにせよ本心だった。
結局オレは告れずに、そしてユウも告白なんてものはせずに、そのまま雑談をして別れた。
そしてそれが、オレとユウとの、最後の会話だった。
数日後にはユウ達の部隊は西方の激戦区へ配置換えされ、そして潰走した。
酷い戦闘だったらしい。敵味方軍人民間人問わず死者多数。
そこが文字通りこの世の地獄ってヤツなのは、噂をかじっただけのオレでもわかった。これは余談になるけど、ユウが参加した西方の激戦区は、この戦争で最も悲惨な戦闘として歴史の教科書に載ることになる。
戦線が押し込まれたらしいとか、どこどこの隊が全滅したとか、補給が絶たれたらしいとか。自分の生死に関わる塹壕地区の話題なんかよりいっそ、西方の噂の方が気になった。
西方が潰走し放棄されてから程なくして、オレ達の隊も消耗が激しく再編の必要ありということで一度内地に戻された。オレ達みたいな下士官は再編が済むまでの間することなんか無いから、束の間の休息を与えられた状態だ。
デュースや他の同期達と塹壕じゃない、舗装された地面を再び歩けることを喜びつつも、オレは西方から生きて帰ってきた知り合いの元へ足を運んだ。
西方へ移動してから何度か手紙を送ったが一向に返事をよこさなかったユウのことが気になって仕方なかった。
まあ、軍人なんてごまんといるからオレが望む情報が手に入るかは望み薄だけど。
さて、結論から言うとユウのことは何もわからなかった。
そもそもユウを知ってるヤツがいなかった。女性兵士で狙撃手なんて珍しいから、知り合いにいればわかるはずだ。
唯一もしかしたら、と思った情報は『最近西方にやって来た狙撃兵の特殊部隊』の話だったけど、それもユウのことかはわからない。ただ、その部隊は全滅したらしいのでそこにはユウでないことを祈るばかりだった。
少しして再編が終わったオレ達の部隊は、以前所属していた部隊よりスリムになっていた。小回りが利くようになったと言えば聞こえは良いが、各地を転戦して回るハメになっただけだった。
オレは行った先々でユウのことを知ってるヤツは居ないかと西方から来たらしいヤツに声をかけたけど、ついぞめぼしい情報を得ることは無かった。
やっぱダメだったかな。
死んだという話こそ聞かないけど、生きてるなら何かしら連絡くれても良くね?
なんてデュースに愚痴りながら、内心ではたぶんもう死んだんだろうなあ、って。
遺体が回収出来ないことは珍しくない。遺品だってそう。
ここまで探して見つからないなら、たぶんそういうことだ。
理性と常識がそう判断しているのに、未だにユウを諦められないのは、誰もユウの死に目を見ていないからなんだと思う。
そのうち、戦争は終わった。
オレは生き残った。明日から平和ですって言われても実感無いけど、生き残ったらしい。
死ぬかもな、と心のどこかで思っていたのに死ななかった。ただ少し、ユウのことを考えたときに、死ねなかったって言うと本当におかしいしとんでもない言い方だけど、そう感じた。
とはいえ、ユウがいなくても、事は進む。戦友をはじめ、多くのものを失ったオレ達は未来に向かって歩き出さないといけない。どれだけ辛くて苦しくても、だ。
戦争が終わってすぐの頃は、そう思っていた。ちょっとカッコつけ過ぎだろとは思ったけど、そうすべきだと思った。
もう止んだはずの銃声や砲撃の音が時々聞こえる。
それだけでは無い。ふとした瞬間に、ユウのことが頭をよぎる。
たぶん参ってるんだと思う。
戦時中と比べて随分活気が戻った街を歩く。戦時中にはなかった食物とか、娯楽とか、笑顔がある。
あるけど、やっぱりユウは居ない。
たったそれだけの事実がオレを笑わせてくれなかった。
さて、オレがわざわざ……という程のことでもないけど、街に出てきたのは理由がある。
手紙を受け取ったのだ。
この間まで上官だった人から、日時を指定されて、空港に来いと。気乗りしなかったけど、他にすることもないし良いか、と出てきたのだ。
一体何の用だと思いつつ、到着ロビーの椅子に腰掛けて指定された時間を待った。
やがてゾロゾロと人がロビーに出てきた。皆揃って疲労が滲んでいたけど、ただそれ以上に嬉しそうな顔で出てきた。
そして何より、彼らは皆軍服を着ていた。
まさか、と思った。見覚えのある軍服は、オレやデュースも着ていたそれと同じものだ。つまり、ウチの国の。
たぶん、捕虜になっていた兵士だ。
戦争が終わったから帰ってきたんだ。
てことはユウももしかしたら生きてて帰って来るかもしれない。
期待しすぎでもしょうがない、と自分に言い聞かせながらも、オレは期待してロビーに出てくる人の群れに目を向けた。
オレより小さくて、黒髪で、かわいくて、それで。
思い出せる限りの特徴を脳裏に並べながら人混みの中からユウを探す。
名前を叫んだ。
「!」
ぱ、と振り返る人影があった。
その影は、周りの人波より背が低くて、そして、知っている顔だった。
「エース?」
彼女の口元がオレを呼んだのを見ると同時に、オレは走り出した。
ユウが、生きていた。
「勝手にどっか行くなよ、バカ、」
まだ少し信じられなかったけど、手が届くなり抱きしめたユウは暖かった。塹壕の中で別れたあの日よりもユウは痩せていたけれど、生きている。
「うん、ごめんね、エース」
「ヤダ」
「うん、」
「心配した」
「ごめん、」
「死んだと思ってた、」
「うん、」
「……生きてて良かったよ、ホント」
「ありがと、」
ちょっと鼻声だったかもしれない。
顔を見せて、と言われて1度彼女を離す。
ああ、ユウだ。生きてる。
「ただいま、エース」
ちょっとはにかみながら笑ったユウに、おかえりと伝えて再び抱きしめた。
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