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2人で出かけたときの話
「冬も捨てたものじゃないね」
柄じゃないなと思いながらもちょっとだけ有名な、ささやかな告白。
古い小説のセリフで、くっつきそうでくっつかないような、付かず離れずの男女の恋愛を描いた作品だったと思う。
雪の降る夜は寒くて暗くて、良いことなんかひとつもないようにも思えるけど一つだけ良いことがある。寒さを口実に、手を繋げることだ。
たしか、そんな感じの話で出てきたセリフだと思う。男の方が言ってたんじゃないかな。
対する女の子のセリフはたしか、
「……貴方もそう体温が高いわけではないでしょう、おばかさん。」
……え?
「ユウちゃん知ってるの!?」
「この間せべっくんに借りた小説で見た」
ユウちゃんが隣で白い息を吐きながらバツが悪そうに目線を逸らした。
「そうなんだ、」
「うん」
暫し沈黙。
吹き付ける冷たい風の音が辛い。
「ユウちゃんって意外と本読むんだね」
「まあ、オススメされりゃあね」
沈黙を誤魔化すための話題に、読まんこともない、と逸らした視線はそのままに彼女は答えてくれた。
「せべっくん、……ええと、クラスによく本読むヤツがいるからソイツに面白い本教えてもらってる」
スマホの通信料カツカツだから、本読む量は増えたんだよね、と。
「そうなんだ、」
少し意外だなと思いつつ、新しい一面を知れたことが喜ばしくもありつつ、さっきのをなんて誤魔化そうかなって思いつつ。彼女の話に相槌をうった。
「……それにしても、ホントに冷えるねえ、大丈夫?」
次に選ぶ話題は無難で当たり障りのないやつにした。いつまでも取り乱したままじゃいられないし。
「寒いけど死にゃしないでしょ、知らんけど」
そう返した彼女はわざとらしく肩をすくめてみせた。
よかった、なんとなく丸く収まりそうだ。
それからはホントに無難にというかなんというか。男女の友達で遊ぶならそんなもんでしょって距離感で他愛もない話をしながら駅に向かった。
あとは学園に帰って彼女を送り届けるだけだ。
帰りの電車は一瞬で学園の最寄りに着いた。いつもはこんなに早くはないと思うんだけど。
「今日は着いてきてくれてありがとね」
おかげで普段頼めないスイーツの写真いっぱい撮れちゃった、と笑えば「奢ってもらえるならいつでも行きますよ」とユウちゃんは笑った。現金な物言いも彼女らしい。
門限前とはいえ良い時間だし送るね、と言うことで鏡舎まで一緒に歩いて、オンボロ寮に通じる鏡をくぐる。別にいいのにと彼女は笑ったけれど、女の子を1人で帰したってバレたらオレがリドル君に怒られちゃうから、と言えば「ハーツラビュルは大変だねぇ」と首を縦にふってくれた。
鏡を抜ければもうオンボロ寮はすぐそこだ。もうちょっと遠ければいいのになあ、なんて少し思いながら、やっぱり当たり障りのない話ばかりをしていた。
「何から何まですみませんねえ」
「んーん、オレも楽しかったし。また一緒に行こ!」
「そうね、また誘って」
「うん、また誘うね」
「んじゃ、また明日。」
「うん、また明日。」
そう言って彼女はオンボロ寮のドアに手をかけて、オレは帰路に着く。
「あ、そうだケイト、」
僅かに開いたドアに手をかけたまま、彼女がオレを呼び止めた。そして悪戯っ子のような綺麗な笑みを浮かべて
「月が綺麗ですね」
と。
ちょっと待って。
「それどういう、」
「んじゃまた明日、おやすみぃ」
オレが意味を問い直す間もなく、彼女はオンボロ寮の中に消えていった。
そりゃ確かにさっきまで降ってた雪は止んで雲の切れ目から月は覗いてるけどさ。けどさ?
ユウちゃんのあんな表情を見たら何か、それ以上の意味があるんじゃないかって思えてしまう。
結局「月が綺麗ですね」という言葉の意味はわからずじまいだった。
ネットで調べてもかすりもしない。
なんかの小説なのかなとも思ったけど見つけられなかったし。
もしかして、ユウちゃんが元いた世界の表現だったりするんだろうか。聞いてみたいけど、どうなんだろう。
そう思って、オレは検索エンジンを閉じて今日のマジカメの投稿の反応を見に行った。
「冬も捨てたものじゃないね」
柄じゃないなと思いながらもちょっとだけ有名な、ささやかな告白。
古い小説のセリフで、くっつきそうでくっつかないような、付かず離れずの男女の恋愛を描いた作品だったと思う。
雪の降る夜は寒くて暗くて、良いことなんかひとつもないようにも思えるけど一つだけ良いことがある。寒さを口実に、手を繋げることだ。
たしか、そんな感じの話で出てきたセリフだと思う。男の方が言ってたんじゃないかな。
対する女の子のセリフはたしか、
「……貴方もそう体温が高いわけではないでしょう、おばかさん。」
……え?
「ユウちゃん知ってるの!?」
「この間せべっくんに借りた小説で見た」
ユウちゃんが隣で白い息を吐きながらバツが悪そうに目線を逸らした。
「そうなんだ、」
「うん」
暫し沈黙。
吹き付ける冷たい風の音が辛い。
「ユウちゃんって意外と本読むんだね」
「まあ、オススメされりゃあね」
沈黙を誤魔化すための話題に、読まんこともない、と逸らした視線はそのままに彼女は答えてくれた。
「せべっくん、……ええと、クラスによく本読むヤツがいるからソイツに面白い本教えてもらってる」
スマホの通信料カツカツだから、本読む量は増えたんだよね、と。
「そうなんだ、」
少し意外だなと思いつつ、新しい一面を知れたことが喜ばしくもありつつ、さっきのをなんて誤魔化そうかなって思いつつ。彼女の話に相槌をうった。
「……それにしても、ホントに冷えるねえ、大丈夫?」
次に選ぶ話題は無難で当たり障りのないやつにした。いつまでも取り乱したままじゃいられないし。
「寒いけど死にゃしないでしょ、知らんけど」
そう返した彼女はわざとらしく肩をすくめてみせた。
よかった、なんとなく丸く収まりそうだ。
それからはホントに無難にというかなんというか。男女の友達で遊ぶならそんなもんでしょって距離感で他愛もない話をしながら駅に向かった。
あとは学園に帰って彼女を送り届けるだけだ。
帰りの電車は一瞬で学園の最寄りに着いた。いつもはこんなに早くはないと思うんだけど。
「今日は着いてきてくれてありがとね」
おかげで普段頼めないスイーツの写真いっぱい撮れちゃった、と笑えば「奢ってもらえるならいつでも行きますよ」とユウちゃんは笑った。現金な物言いも彼女らしい。
門限前とはいえ良い時間だし送るね、と言うことで鏡舎まで一緒に歩いて、オンボロ寮に通じる鏡をくぐる。別にいいのにと彼女は笑ったけれど、女の子を1人で帰したってバレたらオレがリドル君に怒られちゃうから、と言えば「ハーツラビュルは大変だねぇ」と首を縦にふってくれた。
鏡を抜ければもうオンボロ寮はすぐそこだ。もうちょっと遠ければいいのになあ、なんて少し思いながら、やっぱり当たり障りのない話ばかりをしていた。
「何から何まですみませんねえ」
「んーん、オレも楽しかったし。また一緒に行こ!」
「そうね、また誘って」
「うん、また誘うね」
「んじゃ、また明日。」
「うん、また明日。」
そう言って彼女はオンボロ寮のドアに手をかけて、オレは帰路に着く。
「あ、そうだケイト、」
僅かに開いたドアに手をかけたまま、彼女がオレを呼び止めた。そして悪戯っ子のような綺麗な笑みを浮かべて
「月が綺麗ですね」
と。
ちょっと待って。
「それどういう、」
「んじゃまた明日、おやすみぃ」
オレが意味を問い直す間もなく、彼女はオンボロ寮の中に消えていった。
そりゃ確かにさっきまで降ってた雪は止んで雲の切れ目から月は覗いてるけどさ。けどさ?
ユウちゃんのあんな表情を見たら何か、それ以上の意味があるんじゃないかって思えてしまう。
結局「月が綺麗ですね」という言葉の意味はわからずじまいだった。
ネットで調べてもかすりもしない。
なんかの小説なのかなとも思ったけど見つけられなかったし。
もしかして、ユウちゃんが元いた世界の表現だったりするんだろうか。聞いてみたいけど、どうなんだろう。
そう思って、オレは検索エンジンを閉じて今日のマジカメの投稿の反応を見に行った。
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