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『たんおめ』
2月4日、午前0時きっかり。
ロック画面のバナーが、彼女からのメッセージを通知していた。
誕生日を祝ってもらうことはこれまでにもあったけれど、丁度日付が変わった瞬間にメッセージが飛び込んできたのは久しぶりだった。もしかしたら、オレに連絡するために少し前からトーク画面とにらめっこしていたのかもしれない。 見た訳でもないのに日付が変わる前からスマホを眺める彼女が思い浮かんで一人上機嫌に彼女のトークルームを開いた。返信しようとテキストボックスをタップしてすぐ、再び彼女からのメッセージが舞い込んでくる。
『ドア開けて』
思わず目を見開いた。厳格なハートの女王の精神に基いたハーツラビュル寮では、誕生日であっても規則を破っていい理由はない。門限の時間はとうに過ぎているのだから、彼女が来ているようなことは無い、と思うけれど。
まさかね、と思いつつ、でもちょっとだけ期待しつつ、ドアノブを回して少し引く。
「来ちゃった」
そこには、つい今までトークルームで会話していた彼女がいた。
「誕生日おめでと、ケイト」
この後特に何かをする気もないのか、コートの下はちょっとユルめの部屋着の彼女が言うには、「やっぱいっちゃん最初に祝いたいじゃん?」と。
さすがに泊まる許可は降りなかったけど、真夜中のティータイム分くらいの時間は確保できたのだと彼女は言う。
「それでさ、誕プレの話なんだけど、」
ティータイムなんて短い時間に反抗するようにいつもより少しゆっくりティーパックの銘柄を選ぶオレに、彼女が話を振る。
「うん、」
まあ結局選ぶのはいつものと変わらないんだけどさ。
「正直ケイトが何欲しいのかわかんなくてまだ買えてないんだよね。今度2人で出かけた時にでも選ばせてほしいんだけど、」
「なになに、誕生日デートのお誘い?」
「うん」
彼女の提案と返事に、つい浮ついて上がってしまった口角を誤魔化すように紅茶を淹れる手元に視線をやる。こっそり一息ついて、ベッドに腰掛けている彼女の方を振り向いてデートの予定のお伺いをたてる。今週末とか、オレは何も無いけど。
聞けば彼女も予定は空いているらしい。
「じゃあそうしよ」
という彼女の一言で、今週末の予定が決まった。
楽しみだなあ、と笑うオレに、彼女は「ほんとはなんかお洒落な物用意してサプライズとかしたかったんだけどね、」と少し悔しそうに返した。陽キャの男が何欲しがるかもわからなければ、こっちのブランドもわかんないし、とのことだった。
ぶっちゃけオレはユウちゃんが選んでくれたのならなんでも喜ぶ気がするけど。
「ユウちゃん、お茶請け何が良い?」
「え、いいよそんなしなくて」
ケイト明日……ってか今日もあるでしょう、と気を使う彼女に、「オレがゆっくりしたいの」と囁けば、彼女は私言ったからね、と前置きして缶のクッキーを指名した。
「熱いよ」
「ありがと」
紅茶を2人でおそろいで買ったマグカップに注いで、ちょっと行儀が悪いけど開けたクッキー缶を挟んで2人でベッドに腰掛ける。
「多少なりと自分でやろう思ってたのに結局バースデーボーイに何から何までやらせてしまった」
ふー、と紅茶をさましながら、ちびちびとマグカップを傾ける彼女がなんだかいつもより可愛く見える。
「いーのいーの、オレが好きでやってるんだし」
それにユウちゃん、オレが淹れた紅茶好きでしょ? と付け加えれば、彼女はまあそうだけど、と再びマグカップに口をつけた。
「そういえばさ、」
「うん」
「どうやってリドル君のこと説得したの?」
「ああ、そのこと、」
春先の一件以来丸くなったとはいえ、リドル君はリドル君だ。門限を過ぎて他寮生を、しかも女の子の立ち入りを簡単に許可するようにはあまり思えない。
「ローズハート君は知らないよ」
「え!?」
「クローバー君に許可とった」
「……あーね?」
それなら、たしかに。
聞けばオレが来年は実習でほとんど会えないだろうからちゃんと祝っておきたいとか、祝ってお茶飲んだらすぐ帰るとか、色々言い訳は用意していたものの意外とすんなり許してくれたんだとか。
「まあダメ元だったんだけどね」
リドルくんから許可なんか取れるワケ……とおもってたけどそっか、トレイくんなら。貸し1つで許してくれたのか、誕生日プレゼントで許してくれたのか。どっちだろ。 意外とちゃっかりしてる彼女に感心しつつ、融通をきかせてくれた親友に感謝して紅茶を飲みくだした。
「別にいいって、あと帰るだけだし寝なよ」
「だーめ、夜に一人で女の子出歩かせるワケにいかないでしょ」
長いようで短かったお茶会も片付けまで終え、「じゃあ帰るわ、ハッピーバスデー」と彼女は腰を上げた。
彼女的には「言うてまだ」と言うような時間らしいけれど、既に日付も変わっている。こんな時間に一人で帰らせるわけにもいかない。
「深夜外出バレて怒られるよ」
「ユウちゃん送ってるって言えば別に怒られないし」
なんなら一人で帰したって方が怒られるし。
「ね、オレが一人で帰したくないの」
そう言えば、彼女は「じゃあ頼もうかな」とポケットに突っ込んでいた手を差し出した。
「さむ〜」
ほう、と吐いた息が白く夜空に溶けていくのを眺めながら、オンボロ寮までの短い帰路を2人並んで歩く。
「ユウちゃん結構寒がるよね」
「だって寒いし」
いつだったか、彼女が比較的温暖な所で育ったと言っていたのを思い出した。
「マジ寒いの無理」
「手袋とかしてくれば良かったのに」
「そしたら手繋いでって言いにくいじゃん」
「そんなもん?」
「そんなもんよ」
知らないけど、と彼女が付け加えて足を止める。もうオンボロ寮の目の前だ。早いなあ。
「ごめんね、送らしちゃって」
「いーの、オレが一緒にいたかったから」
「はあ、……まあ、ありがと」
「ううん、こちらこそ。すっごい嬉しかった。」
これだけでもう最高の誕生日な気もするくらい。
「そりゃ良かった」
そしてオンボロ寮の門をくぐった彼女がドアに手をかけた。
「じゃあまた、パーティーで。」
寝坊しないでよ、と軽口を添えて、彼女はオンボロ寮の中に消えていった。
2月4日、午前0時きっかり。
ロック画面のバナーが、彼女からのメッセージを通知していた。
誕生日を祝ってもらうことはこれまでにもあったけれど、丁度日付が変わった瞬間にメッセージが飛び込んできたのは久しぶりだった。もしかしたら、オレに連絡するために少し前からトーク画面とにらめっこしていたのかもしれない。 見た訳でもないのに日付が変わる前からスマホを眺める彼女が思い浮かんで一人上機嫌に彼女のトークルームを開いた。返信しようとテキストボックスをタップしてすぐ、再び彼女からのメッセージが舞い込んでくる。
『ドア開けて』
思わず目を見開いた。厳格なハートの女王の精神に基いたハーツラビュル寮では、誕生日であっても規則を破っていい理由はない。門限の時間はとうに過ぎているのだから、彼女が来ているようなことは無い、と思うけれど。
まさかね、と思いつつ、でもちょっとだけ期待しつつ、ドアノブを回して少し引く。
「来ちゃった」
そこには、つい今までトークルームで会話していた彼女がいた。
「誕生日おめでと、ケイト」
この後特に何かをする気もないのか、コートの下はちょっとユルめの部屋着の彼女が言うには、「やっぱいっちゃん最初に祝いたいじゃん?」と。
さすがに泊まる許可は降りなかったけど、真夜中のティータイム分くらいの時間は確保できたのだと彼女は言う。
「それでさ、誕プレの話なんだけど、」
ティータイムなんて短い時間に反抗するようにいつもより少しゆっくりティーパックの銘柄を選ぶオレに、彼女が話を振る。
「うん、」
まあ結局選ぶのはいつものと変わらないんだけどさ。
「正直ケイトが何欲しいのかわかんなくてまだ買えてないんだよね。今度2人で出かけた時にでも選ばせてほしいんだけど、」
「なになに、誕生日デートのお誘い?」
「うん」
彼女の提案と返事に、つい浮ついて上がってしまった口角を誤魔化すように紅茶を淹れる手元に視線をやる。こっそり一息ついて、ベッドに腰掛けている彼女の方を振り向いてデートの予定のお伺いをたてる。今週末とか、オレは何も無いけど。
聞けば彼女も予定は空いているらしい。
「じゃあそうしよ」
という彼女の一言で、今週末の予定が決まった。
楽しみだなあ、と笑うオレに、彼女は「ほんとはなんかお洒落な物用意してサプライズとかしたかったんだけどね、」と少し悔しそうに返した。陽キャの男が何欲しがるかもわからなければ、こっちのブランドもわかんないし、とのことだった。
ぶっちゃけオレはユウちゃんが選んでくれたのならなんでも喜ぶ気がするけど。
「ユウちゃん、お茶請け何が良い?」
「え、いいよそんなしなくて」
ケイト明日……ってか今日もあるでしょう、と気を使う彼女に、「オレがゆっくりしたいの」と囁けば、彼女は私言ったからね、と前置きして缶のクッキーを指名した。
「熱いよ」
「ありがと」
紅茶を2人でおそろいで買ったマグカップに注いで、ちょっと行儀が悪いけど開けたクッキー缶を挟んで2人でベッドに腰掛ける。
「多少なりと自分でやろう思ってたのに結局バースデーボーイに何から何までやらせてしまった」
ふー、と紅茶をさましながら、ちびちびとマグカップを傾ける彼女がなんだかいつもより可愛く見える。
「いーのいーの、オレが好きでやってるんだし」
それにユウちゃん、オレが淹れた紅茶好きでしょ? と付け加えれば、彼女はまあそうだけど、と再びマグカップに口をつけた。
「そういえばさ、」
「うん」
「どうやってリドル君のこと説得したの?」
「ああ、そのこと、」
春先の一件以来丸くなったとはいえ、リドル君はリドル君だ。門限を過ぎて他寮生を、しかも女の子の立ち入りを簡単に許可するようにはあまり思えない。
「ローズハート君は知らないよ」
「え!?」
「クローバー君に許可とった」
「……あーね?」
それなら、たしかに。
聞けばオレが来年は実習でほとんど会えないだろうからちゃんと祝っておきたいとか、祝ってお茶飲んだらすぐ帰るとか、色々言い訳は用意していたものの意外とすんなり許してくれたんだとか。
「まあダメ元だったんだけどね」
リドルくんから許可なんか取れるワケ……とおもってたけどそっか、トレイくんなら。貸し1つで許してくれたのか、誕生日プレゼントで許してくれたのか。どっちだろ。 意外とちゃっかりしてる彼女に感心しつつ、融通をきかせてくれた親友に感謝して紅茶を飲みくだした。
「別にいいって、あと帰るだけだし寝なよ」
「だーめ、夜に一人で女の子出歩かせるワケにいかないでしょ」
長いようで短かったお茶会も片付けまで終え、「じゃあ帰るわ、ハッピーバスデー」と彼女は腰を上げた。
彼女的には「言うてまだ」と言うような時間らしいけれど、既に日付も変わっている。こんな時間に一人で帰らせるわけにもいかない。
「深夜外出バレて怒られるよ」
「ユウちゃん送ってるって言えば別に怒られないし」
なんなら一人で帰したって方が怒られるし。
「ね、オレが一人で帰したくないの」
そう言えば、彼女は「じゃあ頼もうかな」とポケットに突っ込んでいた手を差し出した。
「さむ〜」
ほう、と吐いた息が白く夜空に溶けていくのを眺めながら、オンボロ寮までの短い帰路を2人並んで歩く。
「ユウちゃん結構寒がるよね」
「だって寒いし」
いつだったか、彼女が比較的温暖な所で育ったと言っていたのを思い出した。
「マジ寒いの無理」
「手袋とかしてくれば良かったのに」
「そしたら手繋いでって言いにくいじゃん」
「そんなもん?」
「そんなもんよ」
知らないけど、と彼女が付け加えて足を止める。もうオンボロ寮の目の前だ。早いなあ。
「ごめんね、送らしちゃって」
「いーの、オレが一緒にいたかったから」
「はあ、……まあ、ありがと」
「ううん、こちらこそ。すっごい嬉しかった。」
これだけでもう最高の誕生日な気もするくらい。
「そりゃ良かった」
そしてオンボロ寮の門をくぐった彼女がドアに手をかけた。
「じゃあまた、パーティーで。」
寝坊しないでよ、と軽口を添えて、彼女はオンボロ寮の中に消えていった。