第一章 寄生思念
桐哉は帰路を急いでいた。翔子から、一刻も早く井上明弘を探すように言われた。それが、一ノ瀬美弥音が本当に犯人なのかを知る一番の手段だからだった。
「ん?」
家の前の通り。制服姿の少女が向かって来るのが見えた。桐哉はその少女が凄く気になってしまった。というのも、少女は桐哉の学校の制服だったからだ。少女に見とれながら、過ぎ去ろうとする桐哉。
「あっ……」
桐哉の丁度真横。少女はその場で倒れてしまった。桐哉は少女の肩をとり、そっと起こす。
「君、大丈夫かい?」
「……すみません……」
このあたりでは見ない顔だ。つまり、近所では無い。家は若干遠い場所にあるという事になる。この様子で、そんな場所まで連れて行く事はできないだろう。
「とりあえず、家においで。そこで休もう。」
「いえ…………私に構わないでください。帰れますから……」
「いや駄目だ。歩いてて倒れるほど疲れているんだ。具合も悪いに決まってる。とりあえず家で休むんだ。」
「あなたは……」
「さ、立てるかい?」
肩を組み、立ち上がる少女と桐哉。少女はずっと桐哉の横顔を見つめていた。
「ありがとう……ございます。」
桐哉の家に上がり、シャワーも浴びた少女。少女が部屋に戻ると、桐哉は夕食を作って待っていた。
「お腹空いてるだろ?何か食べるといいよ。」
「あの……私……」
「遠慮しなくていいんだよ。僕は全然大丈夫だから。」
終始落ち着いた様子の少女。初めて会った頃の世莉と、どこか照らし合わせる桐哉。
「君、こんな時間にどうして?」
「……私、凄く寂しがった。」
「え?」
「私と向き合ってくれる方、ずっと探していたんです。」
「君……」
その瞳の奥には、確かに寂しさが映し出されていた。少女の清楚な雰囲気の半分は、そんな寂しさからでてくるものだったのかもしれない。
「家、遠いのかい?」
「はい……」
「今夜は泊まるといい。ベッド使っていいから。」
「……あなた、とても優しい方なんですね。」
「まあ、それがお前の欠点だと言われる事が多いけどね。」
話をしている間の少女の表情は穏やかだ。やはり、人との対話に飢えていたのだろう。
桐哉が気になったのは、体の所々についている痣だった。深入りする訳には行かないとは言え、その事が桐哉の頭から離れなくなってしまった。
翌朝、まだ眠っている少女を部屋に置いたまま出掛けなければならなくなった桐哉。一応、書き置きはしたが、それで少女が不快になりはしないかと考える桐哉だった。
そんな桐哉がやってきたのは、町外れの工事現場だった場所だ。建築を委託していた業者が倒産した為、工事の途中で放置されているビルだ。三階部分まで完成していて、人が隠れ住んでいてもおかしく無かった。