第一章 寄生思念


 放課後になり、桐哉達は駅近くの喫茶店に入った。

「ここはいいよなぁ、安いし、店員も可愛いし。」
「なあ、本題に入ってくれないか?」
「ああ。そうだな。……井上明弘って先輩、お前知ってたよな?」
「ああ……お前と一緒にラーメンとか奢ってもらったよな。」
「実はな、その先輩と先週から連絡が取れないんだ。」
「そりゃ……大変な事なのか?先輩、あちこちに友人持っているから、一週間の遠出くらい、珍しく無いんじゃないか?」

 井上明弘とは、決して素行の良い人物ではなかった。何かと問題を起こしており、度々停学にもなっていた。

「いや、今回は只事じゃないんだ。手遅れになる前に何とかしなきゃいけないみたいなんだ。」
「どういう事?」
「ああ。俺が先週、先輩から受けた電話、多分それが先輩の最後の電話なんだけど、先輩、酷く脅えていてな、こう言ってたんだ。『殺される』ってな。」
「殺される!?」

 あまり楽観的に聞いていられる話ではない。事を急ぐ必要があるとすぐに思った桐哉だ。

「その、先輩がつるんでいた人達の連絡先、知っているのかい?」
「ああ。俺もその人達に連絡してみたさ、そしたら……」
「そしたら?」



「なるほど……お前もこの事件に行き着いたか……」

 桐哉はあの後、翔子の元にやってきた。翔子は3日ほど前、桐哉にある事件の事を少し漏らしていた。

「…………」

 翔子の事務所には、桐哉以外にもう1人客人がいた。翔子の情報提供人の刑事、汐見秀だ。桐哉とも何度か話していて、顔見知り程度に相手の事を知っていた。

「なるほど……君の先輩の友人が被害者だったとはね……驚きだ。」
「僕も、既に翔子さんがこの事件を知っていて、それの担当者が汐見さんだったとは……」
「世の中狭いという立派な証拠さ。」

 一週間前、街中のある空き店舗の中で、少年グループ数名の惨殺死体が見つかった。被害者は5名。

「と、マスコミに開示しているのはここまででね、ここから先がこの事件の不可思議なところで、北条さんにご相談に伺ったのさ。」
「汐見さん、この事件でまだマスコミに発表していない事って何ですか?」
「惨殺死体とだけ話したが、実は、体の一部が皆消失していたんだ。」
「消失?切断じゃなくて?」
「うーん……北条さん、この写真は……」
「駄目だ。一般人である円藤にその写真の刺激は強すぎる。」
「構いません。見せてください。」

 汐見から受け取った写真を見て、吐き気を催した。思わず写真を投げ出した桐哉。それを拾い上げ、呆れ顔をする翔子。

「う゛っ!!」
「な?言わんこっちゃない。」
「は…………すみません、想像と違っていたものでつい……」
「つい……じゃないだろ?お前は常に無茶極まりない」

 まず1人目は、顔が半分だけ無くなっていた。上半分とかでは無く、右半分がだ。2人目は腰が無くなっていて、上半身と両足が分断されていた。同じように、3人目は左の二の腕が、4人目は胸が、そして5人目は体の後ろ半分が無くなっていた。

「こんな風に切断できる人間なんかいないし、第一、そんな事をする意味が無い。とすれば、残る可能性は1つ。」
「まさか……「G」?」
「私が推測できる限りでは、これはデストロイアの仕業だと考えられるが、どうだ?」

 デストロイア。数ヶ月前に世莉が退治した「G」。口からの光線によってそのものの物質構造から破壊してしまう力を持っている。この死体がデストロイアにやられた死体だとしたら、全てのつじつまが合う。
 しかし、桐哉はある疑問にて、その説を否定しに出た。

「前に世莉から聞いた事があるんです。デストロイアは破壊欲の強い「G」であると。」
「破壊欲?」
「ああ……つまりこういう事ですよ汐見刑事。デストロイアは目の前の獲物をこんな中途半端な形で残してはおかないんです。前にデストロイア単体で現れた時、被害者は影も形も残っていなかった。世莉は、その空間に被害者がいたという事実だけで人が殺されていたと感じたんです。」
「つまりこういう事だな?円藤。こいつらをやったのはデストロイアに違いないが、デストロイアの意志じゃないと。」
「デストロイアは相手を消滅させる「G」だと世莉は言った。けど、これでは消滅というより……」
「ただの殺人、だよな。」

 煙草に火を付けながら話をしていた翔子。途中で汐見は、まともに話について行く事を諦めた。

「つまり、やっぱり我々一般人の手に負える話じゃないという事ですか。北条さん。」
「汐見刑事、席を外していただけませんでしょうか?少し、込み入った話をしたいので。」
「なるほど、わかりました。ただし、円藤君に危ない仕事はさせないよう、お願いしますね。」

 それだけを言い残し、事務所を後にした汐見。ここからが、翔子にとっての本題となる。
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