第一章 寄生思念


「!!」

 美弥音は感づいた。世莉は物陰に隠れながらじっと攻撃のチャンスをうかがっている。美弥音がその場所に攻撃しても、世莉は次の場所に身を隠す。

「なるほど……戦いに感じては、私より上手という事……ならば。」

 もう一度、世莉のいる方に目を向ける美弥音。何をしても、決して当たられる事はない。そう確信していた世莉。

「これなら……っ!!」

 美弥音は世莉が回避出来ないような大きさの波動を放った。流石に回避できない。世莉は結界で波動に耐えるしかない。

「剛!」

 防御の為の結界。これならなんとか耐えられる。しかし、身動きが取れなくなった。美弥音は、世莉に回避する間を与えないような間隔で波動を放つ。

「あなた……強い!いつまでも、そうしていて!」
「こいつ……」

 結界が破られるのも時間の問題だった。美弥音の波動は少しずつではあるが、世莉を押し出していた。

「そろそろ、終わりにしますよ!!」

 美弥音が次に繰り出した波動。今までに無い強さだ。世莉の結界では、防ぎきれないだろう。

「くっ……」

 これまでだ。世莉の結界にヒビが入った。


「世莉!!」

 世莉に向かっていた波動は、世莉の結界を破った瞬間に消えた。美弥音の波動から解放され、世莉は安堵した。

「誰!?」

 美弥音は声がした方に振り向いた。そこには、車から降りた翔子と桐哉がいた。

「あの人……」

 美弥音は覚えていた。自分を介抱してくれた桐哉の事を。それだけに、今の自分の姿を桐哉に見られたくなかった。

「……桐哉、車の中に隠れていろ。」
「翔子さん……」
「任せておけ。美弥音を殺す真似はしない。私が倒すのは、寄生虫だけだ。」

 世莉の隣までやってきた翔子。煙草を取り出し、火を付ける。美弥音は翔子を警戒する。

「あなた……爾落人じゃない……」
「やれやれ、お前まであの男みたいな事を言うんだな。爾落人である事が、そんなに上等なのかい?」

 火の付いた煙草を美弥音に差し向けながら話す翔子。

「いいだろう。久しぶりに私の力を見せるとしよう。」

 煙草を前に出し、それで宙に四角形を描く翔子。すると、その四角形が形になって現れる。

「!?」

 四角形は、空間の裂け目の出口だった。そこから放たれたのは、さっき消えた美弥音の波動だった。

「!?」

 美弥音は、その波動と逆の波動を放ち、波動を打ち消した。

「自分で自分の攻撃を消すとはね……」
「あ……あなたは……」
「私の力は転移。この空間の裂け目から別のエネルギーを発する力。さっきはお前の波動を転移させてもらったんだよ。」
「そうか……あなたも本気でやらなきゃいけないのよね……」

 美弥音は両手を高く掲げ上げた。すると、物陰から次々に、大きな影が姿を見せた。

「ん?お前らは……」

 巨大な虫の群。レギオンだった。

「なるほど……世莉が倒したレギオンの群の残りはショッキラスに寄生されていたのか。逃げおせた一匹だけが世莉と戦ったという訳か。」
「翔子……お前……」
「世莉、先にお前にこいつらの始末を頼んでおいて正確だった。レギオンの弱点はわかっている。世莉。」
「ああ。」

 無数のレギオンが世莉と翔子を囲む。そんな状況でも余裕の表情をしている2人。

「美弥音!お前にこれから見せてやるよ!戦いに長けた私たちの力を!」
「よし、始めようか。世莉!!」

 囲んでいるレギオンの群から、対になって飛び出した世莉と翔子。そして、翔子はもう一度空間の裂け目を描いた。

「お前たちの、大好物だ!受け取れ!」

 空間の裂け目から、翔子は吹き抜けの天井に向かって電磁波を放った。電磁波の直撃を受けた天井は、一定のパターンの光を発した。

「!?」

 美弥音は驚いた。今の今まで世莉と翔子を向いていたレギオンは、光っている天井を向いた。

「何故だ!?」
「レギオンの習性を勉強してから使うべきだったな。ショッキラス。あの発光パターンは、レギオンを攻撃的にする電磁波の波長パターンと同じなんだ。つまり、そろそろレギオンは……」

 奇声を上げながら天井に向かうレギオン。全てのレギオンが天井に張り付き、発光している物を攻撃している。

 世莉は既に、レギオンを囲むように結界を張っていた。そして、力を加えながらゆっくりと握り潰して行く。

「!」

 世莉は一気に結界を拳大の大きさまで縮小させた。その瞬間、押さえきれなくなった結界が爆発した。レギオンの体を動かしていたガスが辺り一面に溢れる。レギオンの体の殻は、粉々に砕け散っていた。

「そんな……あんな数のレギオンを……たったそれだけの事で全滅させた?」
「容易いものさ。相手の事を知った上での戦闘はな。」
「もう十分だろう。世莉、やれるか?」
「ああ。動揺しているコイツなら、容易いものだ。元々、コイツは同じ能力者と戦うのは初めてだったんだ。戦いに馴れていないコイツは、さっきみたいなごり押ししか能が無かった。それだけだ。」

 じわり、じわりと美弥音に迫る世莉。美弥音、いやショッキラスは恐怖に脅えている。

「畜生!!」

 再び、世莉に波動を放つショッキラス。しかし、それはすぐに世莉に消されてしまう。

「な!!」
「さっきは、まさかあんなごり押しで来るとは思わなくてな、つい油断してしまったよ。でも、もう問題は無い。」
「何故?」

 いくら撃っても、消える。世莉はショッキラスの心理状態までもコントロールしている。

「私の能力は結界。つまり、空間に境界を作る能力とも言えるんだ。だからさ、お前の力も、境界の中に閉じ込めてしまえば怖くなんか無いのさ。」
「嘘だ!!」

 ショッキラスは更に連発する。しかし、もう攻撃が世莉に届く事は無かった。

「さっきの礼をする必要があるな。」

 世莉は小さな結界をいくつも作った。それを凝縮させ、エネルギーを貯める。

「粛!滅!破!」

 凝縮されたエネルギーが一気に、美弥音に放たれる。

「うっ!!」

 大きく吹き飛ばされた美弥音。世莉は更に、両手両足に結界を張り、美弥音に向かう。

「死ネ!!」

 螺旋状の波動を一気に放ったショッキラス。直撃を受けたらひとたまりも無い圧力で世莉に向かう。

「!!」

 世莉は飛び上がり、螺旋波動を踏み台にして飛び上がった。結界が世莉の足を守っていた事でそれが可能となっていた。

「ナ!?」

 ショッキラスが動揺している間に、世莉はショッキラスの後ろを取った。そして、美弥音に寄生していたショッキラス本体を掴む。

「何!?」
「空間は嘘を付かない。実体を隠しているお前の本体を掴むのも簡単なんだ。」
「コノ……」
「じゃあな。」

 ショッキラス本体を両手で掴み取り、結界に閉じ込める世莉。そして、そのまま結界を潰した。
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