本編
「ねぇ、れん~!ちょっとまってよ~!」
「おそいよ、のりこ!もっとはやくはしってよ!」
こんこんと降りしきる雪の中、何処かの坂道を雪ん子のような服を着た少年と少女が走っている。
坂道にも雪は一面に積もっており、夜でありながら街灯を反射して辺りを白く照らしていた。
「だ、だって、はしったらころんじゃうもん!ころんだらいたいじゃない!」
「ん~、もう!だったらぼくがひっぱってあげる!」
少年は立ち止まり、少し道を引き返すと、少女の手を掴んで走りだそうとした。
しかし後ろから聞こえて来た声に、2人はすぐまた立ち止まる。
「そんなに急がなくてもこれから見るもんは逃げやしねぇよ、じゃりん子ども。」
「「げんじにいちゃん!」」
人影・・・験司と呼ばれたその青年は手にランプを持ち、慌てる事なく少年少女を迎える。
2人は今日、この青年に喚ばれて少し遠くにある、この先の丘まで来ていたのだった。
「ったく、案内人のオレを差し置いて先々行きやがって。迷いてぇのか?」
「だってすごいもの、みせてくれるんでしょ!はやくみたいもん!」
「でも、れんったらはやすぎよ!」
「で、でも・・・」
「ははっ、紀子の言う通りだな。次勝手に突っ走ったら、オレ達は知らねぇからな。」
「・・・はぁい。」
それからしばらく丘を登っていると、何かの光が見えて来た。
光に呼ばれ、少年は再び走り出してしまう。
「あっ、れん!」
「先行ったら知らねぇって、言わなかったかー!」
「もうこのさきでしょ!ぼく、まてな・・・」
後ろの2人に返事しながらもう一度前を振り返った少年だったが、突然返事を止めて足を止める。
次いで2人が少年に追い付き、少女は少年が止まった理由を知った。
「わぁ・・・!」
彼らの前に広がっていたのは、暗闇の中で無数に瞬く街の光だった。
小高い丘から眺めているからこそ見える、それはまるで空に輝く星の光が地上で光っているようであった。
「すごいきれい・・・」
「あれがオレ達が住んでる町だ。こう見ると全然違うだろ?」
「うん・・・ほうせきみたいに、ひかってる・・・!」
「・・・あっ、そうだ!ガメラにもみせないと!」
何も言わずに見とれていた少年だったが、ここでふと何か思い立ち、厚く着込んだ服の中に手を突っ込み、そこから何かの顔が姿を現す。
服の中にいたのは、小さいミドリガメだった。
「あっ!ガメラ、つれてきてたの?」
「こいつにもみせてあげたくて。ぼくとガメラはともだちなんだ、いつでもいっしょさ!」
「お友達を連れて来るのはいいけどよ、この寒さはそいつにとっちゃきついだろうから、あんまり出すなよ。」
「うん!」
暫しの間、街の光を眺める一行。
少しの沈黙の後、青年が話を切り出した。
「・・・なぁ、お前ら。」
「んっ、どうしたの?」
「もしもオレがこの町からいなくなったとしたら、お前らがこの町を守ってくれるか?」
「えっ?」
「もしもの話だ。だけどまぁ、お前らにはまだ考えもできねぇ話だったか・・・」
少し辛そうな顔付きをしながら、青年は漏らす様に言う。
一見冗談っぽく言ってはいるが、その真剣な眼差しはそれを否定している。
「・・・だいじょうぶだよ!」
「レン・・・?」
「だって、ここがだいすきなげんじにいちゃんがいなくなるなんてありえないもん。もしそうなっても、のりことガメラさえいればぼくはなんだってできるさ!」
「れん・・・!」
「・・・ははっ、だったらこの町も安心だな!こんなじゃりん子にも守って貰えるなんてよ!けど、それを聞いて安心したぜ。」
「ぼくとのりこと、ガメラにまかせてよ!ねっ、のりこ!ガメラ!」
「うん!」
青年の目は安堵の感情に変わり、少年少女は希望だけを胸にまた町の光を見つめていた。
「ずっと、ずっとぼくたちはいっしょだよ!のりこ!」
「うん!そうだね、れん!」
肩を寄せ合い、永遠の約束をする2人。
しかし、この2人が互いへの本当の気持ちに気付く日は、そう遠くはなかった。
幼い2人を無情にも引き裂いた、あの出来事。
翌年の2010年、後に「G」と呼ばれるそれが南極に現れた時であった・・・