‐Getter‐ 能登沢憐太郎のある一日
「じゃあ、次のページを開いて~。」
順番的には・・・拓斗と透太の出会いよりまず、光先生との出会いからだよね。
ちょうど4年生になってから僕のクラスの担任になって、みんなからちやほやされてた中、すぐ僕に話しかけてくれたんだ・・・
『はじめまして、能登沢憐太郎君。これから1年間、よろしくね。蛍先生とか、そんな感じでもいいから。』
『はい・・・』
『・・・聞いたわ。大好きだった幼馴染みの女の子と離ればなれになって、お母さんも死んで・・・辛いのね?』
『!』
『お母さんの事は、ゆっくり傷を治せばいいから。私も聞いて欲しい事はいくらでも聞いたりするし、私に出来る事なら何でも協力するわ。
でもね・・・幼馴染みの女の子との事は、きっと能登沢君が自分で乗り越えられる。』
『えっ?』
『別れは心の骨折みたいなもの。折れたら痛い・・・でもね、くっついたらもっと強くなるの。だからくっついた時の為に、他の所も強くしてみない?またいつかその子に会えた時、元気で頼もしい能登沢君を見せられるように。ねっ?』
なんで誰とも話さない僕なんかにって言われてたし、よくよく考えたら会ったばっかりなのに変に詳しかったし・・・
けど、今なら分かる。光先生が紀子と験司兄ちゃんの知り合いだったからなんだね。験司兄ちゃんから僕の事を聞いて、きっと・・・
あの事件の時は正直怖かったけど、験司兄ちゃんはやっぱり僕の事を思ってくれてたんだ・・・
「じゃあこの計算の答えを・・・能登沢君、答えて。」
「はっ!え、えっと・・・く、クレッシェンド!」
「・・・能登沢君、クレッシェンドは小学生が習う言葉じゃないわよ。」
あっ、やっちゃった・・・
みんなからまた笑われちゃったよ・・・
でも、光先生と出会う頃の僕からすればこの光景も信じられないだろうなぁ・・・
「能登沢君?もしかしたら貴方は天才なのかもしれないけど、授業はちゃんと聞きましょうね。」
「そうだぞ~!レ~ン!」
「うらやましいよ~!」
もう、先生も拓斗も透太も・・・
やっぱ恥ずかしいや・・・
でも嫌じゃないのは、僕を思ってくれてるのが分かるからかな。
『じ、じゃあ、聞いてください・・・
僕、おとうさんにがてで・・・』
『いいわよ。この時は私をお姉さんだと思って、なんでも言ってちょうだい。
絶対大丈夫。能登沢君なら・・・』
昼休み、今日も拓斗・透太と久々のサッカー勝負。
あの事件以来だし、今日も勝つぞ!
「ようしゃはしねぇぞ!レン!透太!」
「それはこっちのせりふさ、拓斗!」
・・・そういえば、2人と初めて勝負をした・・・と言うか2人がいきなり話しかけて来た時も、こんな感じだったよね。
始業式から少しして、2人が引っ越して来て、それで・・・
『おい!3人でゴールしょうぶしたいから、おまえこい!』
『えっ、ちょっと!』
『あさもしたけど、自己しょうかいするとぼくは城崎透太。こっちは遊樹拓斗。よろしくね。』
『じゃなくて、やめてよ!』
『なんだよ!せっかくひとりでさみしそうだからさそってやってんのに!』
『とりあえず、やってみない?食わずぎらいはよくないよ?』
『いいからほっといてよ!ひとりでいいんだよ、ひとりで・・・!』
『こら!遊樹君も城崎君もやめなさい!能登沢君は辛い事があって、誰かと話すのも大変なくらい心が疲れているの。
でも、能登沢君もせっかく2人が誘ってくれたんだから、そんな事言わないでまずやってみない?』
『光せんせい・・・』
『ちえっ!せんせいは能登沢にひいきしてずるいって!おれ、能登沢とあそびたいだけなのに!』
『わけは分かりましたけど、ちょっとふこうへい、です!』
『そうね・・・じゃあ、これからサッカーで勝負して、遊樹君が勝ったら2人とサッカー友達になる。憐太郎君が勝ったら、もう無理矢理サッカーに誘わない・・・の条件でどうかしら?』
『えっ!?そ、そんな・・・』
『よっしゃ!のったぜ!』
『光せんせい!なんで、なんで!なんでかってなことをするんですか!』
『ごめんなさい、能登沢君。でも、嫌なら全力でやって遊樹君を見返すくらいやればいいの。能登沢君が今やるべき事は、何かを全力でやってみる事。能登沢君が、心の骨折を乗り越えた時の為なのよ・・・』
「うおおおっ!!」
「まずい、ぬかれたっ!」
「レ~ンッ!!透太ぁ~!!じゃがりこはおれがいただきだ~!!」
やばっ!ちょっと昔の事思い出してたら抜かれた!
大丈夫、まだ間に合う!
「させるかあぁぁぁぁぁっ!!」
・・・そうそう、あの時もこう叫んだっけ。
それで・・・
『はあっ、はあっ・・・』
『ぜい、ぜいっ・・・どうだ、おれのかちだ・・・』
『勝負あり!この勝負、遊樹君の勝ち!』
『おおっ・・・!』
『・・・ま、まけちゃった・・・!
いやだ・・・もう・・・』
『・・・能登沢。おまえ・・・すっげーじゃん!!』
『えっ・・・?』
『すごいよ、能登沢くん!拓斗にあんなにずっと追いつけるなんて!やっぱし、食わずぎらいしなくてよかったんだ!』
『・・・これ、は?』
『能登沢君。貴方は今、遊樹君と城崎君に褒められてるのよ。能登沢君が凄いって。
人はね、自分を受け入れてくれる他人がいる場所があれば、それだけで幸せになれるの。私も昔、バドミントン部にいた時に大怪我した事があって、入院してる間は辛かったわ。でも怪我が治って帰って来た時、クラブのみんなが私を受け入れてくれたのが、凄く嬉しかったの。
そしてきっと、遊樹君と城崎君が貴方の「場所」になってくれるわ。』
『せんせい・・・』
『ねぇねぇ、つぎはぼくとやってよ!ぼくも、能登沢くんとサッカーしたい!』
『いーや!つぎもおれとだ!能登沢はきっと、もっとすげえんだ!げんかいまでやってやるぜ!いいだろ?能登沢!
『・・・レンでいいよ。』
『じゃあ、おれも拓斗でいい!』
『ぼくも、透太ってよんで。』
『・・・うん!じゃあ、いくよ・・・拓斗!透太!』
『・・・良かったわね。能登沢君。私は信じてたわ。貴方なら出来るって。だって、あの子とあの人が今も信じてる男の子なのだから・・・』
「くそ~、きょうはまけた~!」
「へへっ!これでじゃがりこはいただきだぜ!」
・・・そしてあの時の通り、負けちゃった。
なんとなく、そんな気がしたけど・・・あ~あっ、勝ちたかったなぁ。
「レン!透太!明日もおれが勝つからな!」
「明日は拓斗と君に勝つからね、レン!」
「・・・のぞむとこ!」
こうやって拳を当てあえる、僕を待っててくれる大切な場所、親友。
光先生が言ってた事、今なら全部分かるよ・・・
ありがとう。光先生。拓斗。透太。