本編







憐太郎達を乗せ、町中を飛び回るガメラをつがる市の人々が見つめる。




「あれって・・・亀?」
「お母さん!おっきな亀が空飛んでるよ!」
「そうねぇ。すごい強そうで、優しそうよね。」
「『G』って、あんなのもいるんだなぁ・・・」
「なんか、あの亀が蜘蛛みたいな『G』を倒したって話らしいぜ?」
「マジかよ!じゃあさ、あいつって俺達の味方なんじゃね?」
「・・・まさに守護神、じゃのぉ・・・」




言葉は違うものの、人々の中にガメラを敵視する者はいなかった。
そんな人々の中に、大切そうに黄色い薔薇を持ったままガメラを見る、晋の姿があった。




「・・・れ、憐太郎!それに紀子ちゃん、遊樹君に城崎君まであんな所に・・・!」


――・・・しかし、あの 「G」が憐太郎の言う「ガメラ」なら、大丈夫な気がするな。
最近、「G」に対しては警戒心を持つ風潮だが、ああいう「G」がいてもいい気がする。
せめて、この花を持って欲しかったのが心残りだが・・・これは私の行動力の遅さだな。
それに、憐太郎がやりたい事を成し遂げれたのには間違いない。
あの子も、立派な男になったんだな・・・




去り行くガメラにいつかの・・・未来の憐太郎との姿を重ね、晋は万感の思いでガメラと憐太郎をいつまでも見ていた。










「司令官!」




青森駐屯地。
静寂を破り、突然部屋の中に入って来た1人の隊員の口から、第9師団の面々にもガメラの事が伝えられた。
予想だにしなかった事態に、司令室は再び騒然となる。




「巨大『G』が、先程の巨大『G』によって倒されただと!?」
「はい!これを!」




隊員は手に持っていた小型テレビを机に置き、アンテナを立てて電源を付ける。
少しのチューニングの後、画面には緊急報道を伝えるニュース番組が流れた。




『繰り返します。先程、青森県・つがる市に怪獣が現れたとの情報が入って来ました。怪獣は昨日の巨大生物と交戦した後、これを粉砕。只今、町を飛び回っているとの事で・・・」
「ほ、本当だ・・・!」
「まさか、そんな・・・」
「ふむ・・・『G』同士が対立する事もあるのか・・・」
「・・・危険だ。まことに危険だ!もしこの『G』が町で暴れれば、甚大な被害になる!司令官、今すぐこの『G』に対しての攻撃許可を!」




誰もが唖然とする中、逸見は副師団長に対して攻撃命令の交渉を持ち掛ける。
彼の偏ったまでの『G』への対抗心は、断固とした物であるようだ。




「・・・いや、それは止めておこう。」




が、副師団長はテレビ画面を見ながらやんわりと逸見の申し出を断った。




「なぜ!今まさに町中を飛び回っているだけでも危険性が高いのですぞ!それなのに・・・」
「逸見一佐、とりあえずまずはニュースを見てくれ。」




副師団長に言われ、逸見はテレビ画面を覗き込む。
ガメラ出現を伝えるニュース番組は変わっていなかったが、アナウンサーの横には何かの影が写された、巨大な写真が追加されていた。




『この写真は地元住人が撮影した、空を飛ぶ怪獣を捉えた写真です。なお、未確認ながらこの怪獣の手に数人の人影を見掛けたとの情報もあり・・・』
「だ、そうだ。人がいるんだったら、攻撃なんて絶対に不可能だ。」
「『G』に誘拐されたと言う可能性も・・・」
「逸見一佐、少々頭を柔らかくして考えるんだ。凶悪なだけなら誘拐行動なんてしないだろうし、単純な破壊が目的なら、こんな人々に上手く影響が及ばないような行動はしない。」
「うっ、ですが・・・!」
「それに俺、亀って地味に好きなんだ。この写真を見る限り、怪獣は亀みたいな姿をしているらしいし、どんな怪獣なのか見に行きたいくらいだなぁ。」




飄々とそう語り、副師団長は逸見の意見を受け流す。
困惑した逸見は、自分に賛同する者はいないかと部屋中を見渡すが、その誰も怪獣への敵対心は持っていない様子だった。




「・・・っ!」




唇を噛み、拳を握り締めて逸見はテレビに映る黒い影・・・ガメラをただ睨んだ。






所変わって、岩木川河川公園前。
合流したGnosis一同は、この場所から空の彼方へ消えたガメラと憐太郎達を見ていた。




「今思い出しても、凄かったなぁ・・・」
「もう、ほんまですよ!是非リーダーにも見せたかった・・・!」
「オレは爆発や光しか見えなかったし、もっと早く来りゃ良かったな。」
「リーダー、自分達は政府から『G』の片鱗である四神の一体・玄武を研究に使う為に捕獲を頼まれ、ここに来た筈です。このまま見逃して、良いのですか?」
「あぁ、そんなんが目的だったな。けどな、そんな事より大事な事が出来ちまった以上は、そうも言ってらんねぇよ。」
「大事な事?」
「二年前のあの時、玄武はもうじゃりん子達の『ガメラ』になっちまった。そうしたのはオレ達、だったらそれを最後まで見守ってやるのが、オレ達の使命だ。」
「紀子さんについては、玄武とのリンクで体が重態にならない限り、爾落のエキスを注入しなくても特に問題はないわ。本当に問題が無いかを確かめる為に、あえて自由にするのもいいと思わない?蓮浦さん。」
「引田まで、そんな事を・・・だが、リーダーの命令だ。自分は従う。」
「すまねぇな、蓮浦。」
「紀子ちゃんなら大丈夫よ、蓮浦。彼女は強いし、それに紀子ちゃんには能登沢君がいるわ。まだ小学生だけど、大人にだって負けない意志と行動力のある、ボーイフレンドがね。」
「能登沢って確か、昨日の坊主・・・なっ!?ボーイフレンドだとぉ!?」
「ええ。外に丸聞こえな大声で告白するものだから、お陰でわたしもあの子が宿屋に来た時、部屋に入るに入れなかったわ。」
「くーっ!やっぱ紀子ちゃんと、そういう関係やったなんて・・・って、ああっ!」
「どうした?」
「思い出した!その子、どっかで見た事あるってずっと思っててんけど、俺達が亀ヶ岡遺跡について聞き出してた時にぶつかりそうになった、あの子や!」
「あぁ、あの子か。岸田もよくそんな事を覚えていたよね、兄者。」
「そうだな、弟よ。さて、調査が終わったんなら俺は早く録画したダイゴロウが見たい。宇宙海賊ザノン号がアメリカのホワイトハウスに攻撃を仕掛けようとして、それを阻止しようとしたダイゴロウがどうなったのか、ずっと気になって仕方ないんだ!」
「兄者も、ダイゴロウについては本当によく覚えているよね・・・」




Gnosis達が口々に話し合う中、空を見上げ続ける験司に蛍がそっと肩を寄せ、手を握った。




「お、おい・・・」
「いいじゃない。能登沢君には負けるけど、私達もずっと離ればなれだったのよ?」
「ってか、昨日の夜もオレにくっつきっぱなしだったじゃねぇか!なのにまだ足りねぇのかよ!」
「当たり前よ!だって、私・・・験司の傍になら、いつまでもいたいわ。」
「・・・ほんと、お前ってこんなに甘えたがり屋だったっけ・・・か。」




やや不本意そうな言い方と態度をしながらも、験司は蛍の手を握り返す。
言うまでも無く、その様子は彼なりの照れ隠しであるようだ。
験司の本心を悟った蛍は頭を験司の肩に預け、験司も一切文句を言わなくなった。




「・・・これからも、オレ達がレンと紀子を守るぞ、蛍。」
「そうね、験司・・・」
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