本編











二年前、亀ヶ岡遺跡。
憐太郎が後のガメラとなる石を見つけた隠し洞窟の祭壇に、Gnosis達の姿があった。
この洞窟はGnosisがアトランティス人が残したとされる、超古代文明の碑文に書かれたほんの僅かな記述から、四神の魂を封じた祭壇を探り当てた末に出来た物であり、祭壇は四神の存在及び未来の人間からの干渉を封じる目的で出入口を無くし、亀ヶ岡遺跡の地下に置かれていたのだった。




「・・・よし。やるぞ、紀子。」
「はい・・・」




験司に呼ばれ、両手で何かを手に持った紀子がゆっくりと、祭壇の中心にある巨大な石に向かって歩いて行く。
それを見る誰もが例外なく、緊張の面持ちで紀子を見ていた。




「・・・依代、置きます。」




石の前に立った紀子は両手に持った物を、慎重に石の上に置いた。
それは少し大きめのミドリガメ・・・かつて紀子がこの町を離れる時に憐太郎から託された友達、「ガメラ」だった。




「確かに玄武は巨大な亀みたいな姿をしてましたけど、成功するんでしょうかね?」
「厳密には蛇も絡み付いているぞ、岸田。」
「でもよ、もし蛇も持って来たら依代にする亀が襲われそうだよなぁ。」
「それにわたしはあの子にとって、あの亀だからこそ意味があるのだと思うわ。」
「幼なじみから貰った、大切な亀・・・巫子って思い出も捧げないといけないんだね・・・兄者。」
「辛いが、そうだなぁ。弟よ・・・」




Gnosis達がそう言い合っている間に紀子は勾玉を握り締め、目を瞑って勾玉に力を込める。
勾玉は僅かに光り、それを首から外して石にかざす。
その刹那、洞窟中に振動が起こり、勾玉の中の光がまるで炎が燃えるかのような形に変わる。
そして石の丁度ガメラのいる辺りがみるみる内に陥没して行ったかと思うと、祭壇全てを包む紅い閃光が瞬いた。




「・・・!」




あまりにも強い光に、ついGnosis達は目を閉じて顔を逸らす。
やがて光を感じなくなり、目を開けて恐る恐る石を見てみるが、石に変化はなかった。
陥没した所が、何故か埋まっていた点を除いて。




「・・・これで終わったのよね、験司。」
「あぁ。あの亀の・・・ガメラの体と命を取り込んで、いつか玄武は目を覚ます。それまでの監視は頼んだぞ、蛍。」
「えぇ・・・験司に会えないのが辛いけど・・・頑張るわ。」
「辛いのは、オレも同じだ・・・それにこの町には、オレと紀子がGnosisになる為に置いて行っちまった、能登沢憐太郎ってのがいる。そいつの事も、頼んだぞ。」
「分かったわ。貴方と、紀子ちゃんが大事に思っている子だもの、ちゃんと教え・・・導いて行くわ。」




験司と蛍が約束を交わし、Gnosis達がこの不可解な現象に驚く最中、紀子は依代を取り込んだ石を黙って見ていた。
訓練に明け暮れる日々の中、かつて多感だった感情の起伏が希薄化していた紀子の心に、一つの変化が生じた時であった。




「・・・レン・・・」










――・・・あの時、私達は体を失った玄武に体を取り戻させる為の依代として、ガメラを取り込ませた。
あの時は四神と依代が近い形の方がいいから、取り込ませただけだった。
だけど・・・だから、レンがこうして勾玉に力を込められるのかもしれない。
玄武に・・・ガメラに必要だったのは、私だけじゃ無い。
レン、貴方だったのね。




二年前の記憶からこの現象の理由を探り当て、紀子はふっと微笑む。
それに気付いた憐太郎は願いの光を保ちながら、紀子に顔を向けた。




「どうしたの、紀子?」
「・・・レン、私は貴方にまだ嘘を付いていた事があるの。貴方から貰ったガメラが・・・今何処にいるのかを。」
「ガメラが?東京の君の家にいるんじゃないの?」
「違うのよ。ガメラはね・・・玄武の中にいるの。」
「玄武?・・・って事は、ガメラがガメラ!?」
「ふふっ。変な言い方になるけど、そうなるわ。二年前、私達は貴方が玄武を見つけたあの洞窟に行って、玄武にガメラを取り込ませたの。そうしないと、玄武は復活出来なかったから。だけど・・・それが二年経っても玄武が目を覚まさずに、貴方の前に現れた理由なの。ガメラには・・・レンが必要だったのよ。」
「・・・やっと、分かった気がする。なんで玄武のガメラと会った時に、初めて会った感覚が無かったのか。姿は変わっても、ガメラが僕に会いに来てくれたんだ。2日前にガメラがそわそわしてたのも、君がいたから。」
「そうよ、レン。それと二年前のこの出来事が、私に気付かせてくれた。私は、レンと一緒にいたいって・・・」
「僕なんて、ずっとそう思い続けてたよ。けど、それはこれを終わらせてからだ!」




キュキャッ・・・




再び正面に眼差しを向け、憐太郎が叫んだ先には起き上がったクモンガがいた。
憐太郎と紀子への怒りか、目を赤くしたクモンガは閃光をもろともせずに少しずつ2人へ向かって行く。
だが、2人はクモンガに対して全く怖じ気づく事無く、瞳を閉じて心を一つにし、勾玉に思いを込める。




「・・・助けに行こうって思ったけど、なんだかぼく達は邪魔みたいだね。」
「ったく、勝手に2人の世界に入りやがってよ。」
「あの・・・あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃんって、もしかして付き合ってるんですか!?」
「お前な、こんな時にそんな事聞くなよ!」
「まぁまぁ、兄さん・・・」
「ん~、まぁ、そうなんじゃねぇか?」
「物凄い声で告白もしてたし・・・ね。」
「うそ~!す、凄いわね、リチャード・・・」




数時間前の宿屋における憐太郎の紀子への叫びを思い出しながら、拓斗と透太は少年達を連れて憐太郎と紀子から離れて行った。




「「・・・!」」




キャキャァッ・・・




クモンガがもはや眼前にまで迫ったその時、憐太郎と紀子の瞳が同時に開かれる。
そして2人は固く繋いだ互いの手の中の勾玉をクモンガへ差し出し、クモンガを退けさせた。




「僕と君・・・いや、僕らであいつを倒すんだ!行くよ、紀子!」
「分かったわ、レン!お願い、私達の『G』!」
「「ガメラ!」」







同刻、青森駐屯地。
指令室に集った誰もが、「G」捜索隊から連絡される惨状に愕然としていた。
連絡が途切れて30分、もはや捜索隊から連絡が来る事は無い。




「・・・捜索隊からの連絡が途絶えて、もうすぐ30分になります。」
「そうか・・・やはり、全滅してしまったか・・・」




副師団長は帽子を取り、「G」の為に散った亡き隊員達に黙祷する。
他の隊員達も静かに黙祷を捧げる中、ただ1人拳を握り締め、絶望感漂う中でも意思が揺らぐ事のない男・逸見が声を上げた。




「・・・副師団長!早く第二捜索隊を派遣しましょう!」
「逸見さん!」
「この状況で何を言っているんだ、あんたは!」
「私は再三警告した!『G』を駆逐しなければ、とんでもない事が起こると!だから私は実戦活動を持って、『G』に対処したかったのだ!それが出来ないのなら、『G』を食い止めるしか無い!」
「なら、無駄な事だと分かっているのに、何故また無駄な犠牲を出そうとするんですか!」
「そうだ!むざむざ犠牲を増やす気か!」
「黙ってろ!貴様らは、『G』を放置するのが最善だとほざくのか!」
「待て、逸見一佐。ここは・・・」




と、そこに捜索隊からの無線連絡を知らせる機械音が指令室に響いた。
騒然としていた指令室が一気に静寂を取り戻し、捜索隊との連絡を担当する隊員はすかさず無線のスイッチを入れて連絡を取る。




「こちら指令室、どうぞ!」
『こちら・・・小高!只今、河川公園!』
「そちらはどうなっているのか、報告せよ!」
『巨大「G」は私を除く・・・捜索隊を補食し、住宅地に進行!』
「何だって・・・」
『そ・・・そして先程、先程・・・!』
「先程、何が!」
『・・・川から第二の巨大「G」が出現・・・!円盤状に変化して河川公園を飛び去り、猛スピードで住宅地に向かって、飛行中!』
「第二の・・・巨大『G』!?」
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