本編











日も沈み始めた頃、自衛隊員を喰い尽くし、河川公園を出たクモンガは次の餌を求めて住宅地に向かっていた。




キャキャァッ・・・




「やべぇ・・・公園から出るぞ、あいつ。」
「もう、散々人喰ったやないか・・・」
「気づいてるだろうが、ずっと関西弁になってるぞ、岸田。」
「そんなんどうでもえぇねん!こいつをなんとかするんが問題やろ!」
「確かにその通りだ。だが・・・!」
「それは、おれ達も聞きてぇって感じだなぁ・・・」




クモンガが起こす惨劇を監視し続けていたGnosis達も、どうしようも出来ない事実を嘆く。
しかしそれを知る事も、聞き入れる余地も無いクモンガは大量の餌がいる人口密集地に迫って行く。










「ねぇ!早く戻ろうよ!怪獣が来ちゃうわよ!」
「そ、そうだよ兄さん。母さんに父さん、今ごろ僕達を探してるよ・・・」
「でも、あいつを置いていけねぇよ!あいつは俺達の友達だろ!」




その頃、誰もいなくなった住宅地のマンションの前に、3人の小学生がいた。
腕白な雰囲気を持つ中学年の男子を、少し病弱げな中学年の女子と彼の弟である小柄な低学年の男子が静止しようとしているが、中学年の男子は言う事を聞きそうにない。




「って言うか、お前らも来なけりゃ良かったじゃねぇか!俺だけでも行ってたのに!」
「だって、兄さんの事が心配だから・・・」
「あんた1人にしたら、何するか分からないじゃない!それに・・・私も心配なのよ・・・」
「・・・分かったよ。俺の足、引っ張んなよ!」




3人はマンションに入り、急いで階段を上がって三階にある部屋のドアを開ける。
表札には「蘭戸」と書かれており、ここが彼らの部屋らしい。




「リチャード!迎えに来たぞ!」




腕白な男子はそう叫びながら部屋の奥に向かい、床に置かれたサークルを掴む。
中には一匹のゴールデンハムスターが、おがくずに埋もれながら眠っていた。




「兄さん、リチャードは・・・?」
「大丈夫だぜ!ほら!」
「あっ、リチャード!」
「よかった・・・よかったよぉ・・・」
「よし、早く戻るぞ!」




部屋を出た3人は階段を降り、マンションの前に出る。
だが、そこで彼らの足が止まった。




キャキャァッ・・・




「あっ・・・」
「か・・・かっ・・・!」
「怪獣・・・!」




そう、彼らの目に見える程にまで、クモンガが迫って来ていた。




「くそ、早く逃げるぞ!」
「で・・・でも兄さん、あっ・・・足が・・・」
「ったく・・・!おい、ちょっとリチャード持っててくれ!」
「えっ、う、うん!」




少年は少女にサークルを渡すと弟の前でしゃがみ、後ろ向きに手を差し出した。




「ほら、おんぶしてやるから早く来い!」
「う・・・うん!」




クモンガへの怯えから、震えて動かない足を涙を流しながら必死に動かし、彼はその小さな体を兄の背中に委ねた。
兄は少し腰を曲げて立ち上がり、少女と共にクモンガから逃げようとする。




キャキャァッ・・・




だが、クモンガにとっては子供であろうと自らの空腹を満たす餌である事に変わり無く、全ての足を曲げて高く跳躍したかと思うと、彼らの後ろに着陸した。




「「うわぁっ!」」
「きゃあっ!!」




着陸時の衝撃で起きた微震に、2人はその場で転んでしまう。
だが、それでも2人は弟とサークルだけは手放さなかった。




「に、兄さん!」
「う、うっ・・・」
「んの、野郎・・・!」




2人は弱々しく立ち上がるも、背後からは一気に距離を詰めたクモンガが無情なまでに迫る。




「・・・おい、あそこに子供がいるぞ!」
「あっ、ほんまや!」
「くっ・・・おれ達Gnosisも、見ている事しか出来ねぇのかよぉ・・・!」




キャキャァッ・・・




「ううっ・・・!」
「くそぉっ・・・!」
「誰か・・・助けて・・・!」








「待てぇーっ!!」




と、そこに雄叫びのような声と共に、2人の子供が少年達とクモンガの間に割って入る。
彼らよりも少し大きい、高学年の少年少女・・・憐太郎と紀子だ。




「お、おい!あれって!」
「紀子ちゃんと・・・昨日の男の子!?」
「どういう事だ・・・?」






「こいつは、僕達が食い止める!」
「だから、早く逃げて!」
「お・・・おう・・・」
「さぁ、こっちへ!」
「遅れんじゃねぇぞ!」




拓斗と透太に付き添われながら、少年達はクモンガから逃げて行く。
一方でクモンガは突如目の前に現れた2人に驚く事も無く、標的を2人に変えて驀(ばく)進を続ける。




「紀子、ガメラは?」
「・・・駄目!応えてくれない!」
「このままじゃ、あいつに喰われるだけ・・・!」




キャキャァッ・・・




「・・・だけど!」




迫るクモンガへの脅えと、未だ応えない玄武への不安に紀子が駆られる中、そんな思いを微塵も感じさせない憐太郎は紀子を自分へ抱き寄せ、勾玉を握った。




「レン・・・?」
「僕は諦めない・・・!紀子だけに辛い思いなんて、させない!君は僕が・・・僕とガメラが守る!」




憐太郎が心からの願いを叫んだ瞬間、勾玉から激しい緑色の閃光が放たれた。
閃光は目と鼻の先にまで迫っていたクモンガを押し飛ばし、クモンガは逆さまに転び、昏倒した。




「・・・!」


――・・・この光、全部レンの思いの力・・・
でも、どうして?
どうして巫子じゃないレンが、勾玉に力を込められるの?
この勾玉には「G」を体に受け入れられる巫子、しかもアトランティス人の遺伝子が残った、四神に選ばれた特別な巫子じゃないと使えない筈なのに・・・
巫子になれるのは、穢れ無き乙女だけ・・・だからレンは、絶対になれない。
でもこんなにも強い力、私も出したこと無い!




憐太郎の思いを受けて異常なまでに輝く勾玉を見て、驚愕する紀子。
Gnosisであり、巫子である彼女にすら、この理由は分からずにいた。




――・・・はっ!
待って!もしかして、あの時に・・・!
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