本編











それから暫くの後、憐太郎達はGnosisが滞在する宿屋に到着していた。
今は庭園の木々の木陰から、中の様子を窺っている。




「紀子、どの部屋にいるんだろ・・・」
「そんなの、片っ端から探すしか・・・」
「駄目だよ!手当たり次第に部屋に入って、違う人がいたらその時点でもうアウトなんだよ?見張りに誰か1人は、絶対にいるはずだし・・・」
「うっ・・・で、でもよ、このままじっとしてても変わらねぇじゃんか。」
「とにかく、様子を見るんだ。誰か出て来た時に部屋の中を見て、守田さんを探せば・・・」




と、その時部屋の襖が空き、中から験司と蛍が出て来た。
一瞬驚きながらも、3人は少し見える部屋の中を必死に覗き込む。




「・・・あっ、閉まっちゃった・・・」
「たったあんだけの間に見ようなんてやっぱ無茶じゃんかよ、透太!」
「でも、ぼく達はうかつに中に入れないんだし、それに・・・光先生が出て来るなんて・・・」
「・・・大丈夫、中に変なベッドがあった。きっと紀子のだよ。」
「「えっ?」」




今まで見せた事の無い、憐太郎の洞察力の高さに驚く2人。
2人の場合、今だGnosisや蛍に対しての動揺があった為に冷静な対応が出来なかったのだが、紀子を取り戻す事だけに考えを特化した憐太郎は特に焦る事なく、襖が開いた瞬間から中の様子を見ていたのだ。




「国家機密組織なんて言ってる人達が、普通の病人じゃない紀子を連れて宿屋にいるわけないよ。きっと、貸し切りにでもしているんだ。」
「あ、あぁ・・・」
「と、とりあえず、守田さんはあの部屋の中にいるんだね?」
「うん。きっと紀子はあの部屋の中さ。」
「よっしゃ!そうと決まれば乗り込むぜ!」
「抜き足差し足、でね。」




「抜き足・・・」
「差し足・・・!」
「しのび、あし・・・」




3人は紀子のいる部屋に向かい、一歩一歩左右を確かめながら歩いて行く。
せっかちな拓斗が少々前に出てしまっているものの、それでも乱れる事なく呼吸を合わせられるのは流石と言った所である。




「抜き足・・・」
「差し足・・・!」
「しの・・・?」




と、ここで先頭を行っていた拓斗が突如動きを止めた。
続く憐太郎、透太もそれにつられて止まる。




「うわっ!ど、どうしたんだよ、拓斗?」
「い、いや、なんかいきなり右と左から目の前にあの人達がよ・・・」




そう言う拓斗の横に移動した2人の前にいたのは手に無線機を持ち、腕組みをしながら仁王立ちをする角兄弟だった。
誰なのか分からない拓斗と透太をよそに、憐太郎の顔は青ざめていく。




「誰だ、あの人?宿屋の人か?」
「うーん、あんな人いたっけ・・・?」
「あ、あのさ、2人共。あの人、確かGnosisの人・・・」
「「・・・ええっ!?」」
「弟と分かれて警備をしていたら、まさか弟と一緒にねずみ達を発見するとはな。」
「ここは立ち入り禁止って言いたいけど、昨日の子がいるって事はそれを知っての事だよね?」
「や、やべぇ・・・」
「もうバレちゃった・・・」
「昨日、蓮浦さんに僕達Gnosisに関わるなって言われたばかりなのに。」
「とにかく、ここは何人たりとも通すわけにはいかない。帰って貰おう。」




威圧感を漂わせながら語り掛けて来る角兄弟に、拓斗と透太は下を向いてしまう。
だが、憐太郎は怖じ気付く事なく角兄弟を見つめ続ける。




「・・・そんなに入って欲しくないって事は、その部屋に紀子がいるんですよね?」
「・・・こ、答える必要は、無い。」
「もう顔に出てるよ、兄者・・・折角の雰囲気が台無し・・・」
「仕方無いだろう!誰かに嘘を付いたら、ダイゴロウに怒られるんだぞ!」
「僕達の仕事って、基本嘘を付く事じゃないか!今さら何言ってるんだよ兄者!」
「「・・・今だ!!」」




勝手に口論を始めた角兄弟へ、下を向いていた拓斗と透太がいきなり飛び掛かった。
2人の不意打ちに兄弟はよろめき、手に持っていた無線を落としてしまう。




「拓斗、透太!」
「レン、早く行け!!」
「こんな時もあるかもって思って、レンだけは行かせようって拓斗と・・・」
「くっ・・・不意打ちなんて卑怯だぞ!」




慌てて起き上がった角兄弟は無線機を取ろうとするが、すかさず拓斗と透太がそれを奪い取る。
取り返そうと迫る角兄弟を、毎日の遊びで鍛えた身軽なフットワークでかわしながら、2人は憐太郎に向かって叫ぶ。




「行けぇ!!レン!!」
「守田さんを迎えに行くのは、君じゃないと駄目なんだ!」
「・・・ごめん!拓斗!透太!」




小さく、だが2人をここに置いて行く事の悔しさをにじませた頷きを一つした憐太郎は、宿屋へと走って行った。




「つかまえ・・・!」
「させ・・・」
「るか!」
「「ぐぇっ!」」




タイミングよく左右へステップし、角兄弟を転倒させる2人。
そして2人は、走り行く憐太郎を万感の思いで見つめていた。




「ガツンとやって来いよ・・・レン。」
「しっかりね・・・」
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