本編







つがる市では、巨大な「G」同士の闘いが行われようとしていた。




キャキャァッ・・・




起き上がったクモンガは突如現れ、食事の邪魔をしたガメラを見る。
ガメラも負けじとクモンガを睨み、威嚇しあう両者を憐太郎は困惑のままただ見ていた。




「なんで・・・なんで、ガメラがこんなに大きくなってるのか、分からない。なんで紀子がガメラを呼べたのか、分からない・・・」




先に仕掛けたのは、クモンガだった。
クモンガは一気にガメラに接近し、尖った前足の先端をガメラへ突き立てる。
ガメラは後退して何とか回避するが、クモンガはアスファルトに穴を作りながら前進し、ガメラを追い詰める。
そのスピードに追い付けずにガメラが一瞬、動きが遅れた所を狙い、クモンガはガメラへたたみ掛けた。




「・・・でも・・・」




クモンガの一撃は確かにガメラに当たった・・・が、上手くガメラは甲羅に全身をしまい、防御する事に成功した。




「・・・でも、負けて欲しくない・・・!大きくなっても・・・ガメラはガメラなんだ!」




クモンガがたじろいだ隙にガメラは甲羅から全身を出し、その場で跳躍してクモンガの前足にしがみついた。
クモンガはガメラを振り払おうと前足を上げては下げるも、ガメラは離れない。
更にガメラはその体勢から口を開くと、真っ直ぐの火炎をクモンガへ向けて吐いた。




キュキャッ・・・




巨大になっても昆虫なのか、ガメラの火にクモンガは苦しみ始める。
だが、それはクモンガの抵抗が強くしてしまう事でもあり、より強いクモンガの動きにガメラは必死に抗うも、遂に振り払われてしまった。
ガメラは空を舞い、うつ伏せの状態で商店街に叩きつけられる。




「っ・・・!」




と、同時に二体の闘いを黙って見ているだけだった紀子が突然うめき、腹を両手でさすった。
彼女の異変に気付いた憐太郎は、慌てて紀子を見る。




「の、紀子!」
「だ、大丈夫。ちょっとダメージが来ただけだから・・・」
「ダメージ?でも、紀子は何も・・・」
「これが、『巫子』になると言う事なの。巫子と四神は勾玉で繋がる事で、この地球の力を無尽蔵に引き出す事が出来る。けど・・・」




商店街の店の瓦礫から何とか這い出たガメラへ、間髪入れずクモンガの足が襲う。
右の足がガメラの横顔を殴り、隙が出来たガメラの横顔を、左足の爪が切り裂いた。




「ううっ・・・!」




ガメラの傷から緑色の血が流れ、紀子の顔の同じ場所にも傷が走る。




「紀子!?」
「・・・心配しないで。繋がった四神と巫子は、全てを共有するの・・・痛みや、傷も。」
「そんな!」
「この地球に宿る途方も無い力・・・『ガイア』の力を使う代償。験司兄ちゃんは、そう言ってたわ・・・」




傷を受けてもガメラは怯まず、クモンガへ火炎を吐く。
しかし、それが危険なものと知っているクモンガは飛び上がって回避し、着地と共に口から吐いた糸でガメラの体を包んで行く。
クモンガの糸が体中に絡み付いたガメラの動きが段々と鈍くなって行き、紀子の顔色もまた青ざめていった。




「うぅ・・・っ。」
「こんな・・・どうして紀子なんだ!なんで、ガメラがそんなの・・・!」
「ガメ・・・玄武も、私も『G』だから・・・そうとしか答えられない。けれど、これは最初から・・・6年前から覚悟していた事よ。だから、私は・・・」




ガメラの動きを固定したと判断したクモンガは糸を吐くのを止め、今度は尖った針を口から発射した。
針は一直線にガメラへと向かうが、粘着質の糸がガメラの回避行動を一つも許さず、針はガメラの首元に深々と刺さった。




「うああっ・・・!」




ガメラの痛みがダイレクトに紀子へ伝わり、悲鳴を上げる紀子。
彼女の首元に深い傷が走り、純白の肌は赤い血で染まる。
耐え難い痛みに紀子はバランスを崩して倒してしまうが、すかさず憐太郎が体を支えた。




「・・・レン・・・」
「紀子!しっかりして!」
「うん・・・さっきの針、毒が入ってたみたい・・・私の体の中、変なのが巡ってるのが・・・分かるわ・・・」
「毒!?・・・駄目だ、紀子!気をしっかり持って!今僕が病院に・・・」
「・・・いいの。普通の病院じゃ、絶対治せないから・・・」




病院へ連れて行こうとする憐太郎をそう止めた紀子の顔色は、完全に青ざめていた。
呼吸も乱れ、体に力が入っていないのが肩越しに憐太郎にも分かる程に、紀子は衰弱していた。




「・・・ふざけるな・・・!」
「レ、ン・・・?」
「・・・ふざけるなっ!どうしてガメラが・・・なんで紀子がこんな事をしないといけないんだ!紀子とガメラが、何をしたって言うんだ!たとえ相手が神様でも、こんなの絶対に許さない!僕は・・・僕は!絶対許さないぞぉっ!!」




無情と怒りを叫んだ憐太郎の手は、弱々しく光る紀子の勾玉を自然と掴んでいた。
勾玉の光は僅かに強くなり、ぐったりと動かないガメラの体がほんの少し、紅く光る。




キャキャァッ・・・




そんな現象はお構いなしと、クモンガはガメラにとどめを刺すべく、毒針を再び発射する。
毒針は確実にガメラの頭目掛けて進んで行ったが、その刹那にガメラから紅い閃光が瞬き、凄まじい灼熱と共に毒針も糸も、辺りの瓦礫をも吹き飛ばしてしまう。




・・・ァォォン・・・!




次にクモンガが見たのは手足の部分からジェットを噴射し、閃光を纏いながら自分へ突っ込むガメラの姿だった。
あまりに素早いガメラを回避出来なかったクモンガはガメラの突撃攻撃を受け、そのまま西へと向かって行く。




キュキャッ・・・




やがて見えて来たのは、十三湖より流れる一級河川・岩木川だった。
ガメラの目的を察知したクモンガは必死に抵抗するが、ガメラを振り払う事は出来ない。




・・・ァォォン・・・!




そしてガメラはクモンガもろとも、川の中へ突撃した。




「ガメラ・・・」




ガメラの取った捨て身の行動を、憐太郎は茫然と見つめる事しか出来なかった。
激しく波打つ岩木川の水面はやがて収まり、勾玉の光も消える。




「・・・」




それと同時に紀子の意識も途絶え、力無く垂れた頭(こうべ)がそれを憐太郎に知らせた。




「・・・はっ、紀子!しっかりして!」




憐太郎は紀子の体を地面に下ろし、その肩を何度も揺らして紀子の意識を取り戻そうとする。
だが、紀子が目を覚ます気配は一向に無い。




「しっかりするんだ!毒になんかやられちゃ駄目だ!こんな所で・・・」


――・・・まさか、紀子とガメラが一つになったから・・・?
もしかして、ガメラはさっき死んで、だから紀子も・・・!?
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