本編
丘から光が発せられたと同時に、Gnosis達が待機する林でも異変が起こっていた。
「お、おい、これって!」
「まさか・・・!?」
「早く出よう、兄者!」
「そうだな、弟よ!」
首藤達が慌ててコンテナから出ると同時に、運転室の引田の様子がおかしくなる。
彼女が見ている室内のモニターにはコンテナ内にいるガメラの身体の様子が何本もの折れ線グラフになって示されており、どのグラフも画面を突き抜ける程に大きな変化を示していた。
「・・・えっ、嘘!?」
「どうした、引田。」
「見て、これ!」
「・・・何だ、この異様な数値は・・・!」
「今さっき、突然こうなったの!通常の何倍、いえ、何十倍にも膨れ上がってる・・・!」
「『爾落のエキス』が効果を現したのか?」
「それにしては急過ぎるわ!こんなに強く、これだけいきなりの変化が起こるなんて・・・!」
「深紗さーん!」
「おぉい!2人とも、早くここから逃げろぉ!」
「首藤、それに・・・」
「な、なんか、いきなり中がカーッってなったんだ!」
「カーッ?」
「兄者の説明は気にしないで下さい!とにかく、『玄武』に異変が!」
と、その時コンテナの隙間から赤い光が筋状となって漏れだした。
それは中のガメラが発する光があまりにも強いものであるからで、すぐ後にコンテナの各所に凹みが出来始める。
「コンテナが!」
「『玄武』が、巨大化している!?」
「ほら見ろ!だから早く逃げろって言ったんだぁ!」
急いでトレーラーから離れるGnosis達。
やがてコンテナは内側から崩壊し、目も開けられない程の閃光が林を包む。
「わあっ!」
「うっ・・・」
「・・・!」
視界を奪う閃光にGnosis達は目を手で塞ぎ、その場に立ち止まる。
暫しの間その状態が続き、謎の轟音と共に光は収まって行った。
「なっ、何だったんだ?」
「なにが起こって・・・って、ちょっとみんな!あれ見てぇや!」
興奮の余り関西弁になった岸田の驚きの言葉を聞いた隊員達は、すぐに岸田が指差す空を見る。
そこには光に包まれたまま、何処からかジェットを噴射して飛び去って行く何かの姿があった。
「空を・・・飛んでる?」
「そ、そんな馬鹿な!」
「とにかく、この事を早くリーダーに知らせましょう!何処に向かったかが分かるように、あれを追わないと!」
林を出た紅い光は西へと進んで行き、やがてクモンガのいる住宅街へと向かって行く。
その最中、光は憐太郎と紀子がいる丘を通り過ぎ、目も開けられない程の閃光が2人を一瞬照らした。
「うっ・・・」
今度は後ろによろめきそうになりつつ、憐太郎は微かに目を開ける。
あれ程眩しかった勾玉からの光は収まっており、紀子の胸元を照らす程度になっていた。
「こ、これは・・・」
「『G』にその身も心も捧げ、一体となる者。それが『巫子』。そしてあれこそが・・・」
憐太郎へ何かを促すかの如く、紀子は丘の先の町を指差す。
そこには先程の光が空中から一直線にクモンガへ向かい、そのまま直撃する光景があった。
キャキャァッ・・・
この体当たりは結構な威力があったのか、クモンガは後ろへ弾き飛ばされ、光は地上へ降りる。
そして光が消滅して行き、中から現れたものに憐太郎は驚愕した。
「・・・!」
「あれこそ四神・玄武。貴方の言う、ガメラよ。」
ひどく開かれた、憐太郎の瞳孔に写るのは確かに見紛える事の無いガメラだった。
しかしその体長は十数mを超え、甲羅や爪は何処か鋭い印象を与える形になっており、何よりここにガメラが突然現れたのが理解出来ずにいた。
「ガメ・・・ラ・・・?」
「早急に、『G』を攻撃するべきだ!」
一方、青森市・青森駐屯地。
陸上自衛隊第9師団が司令部を置くこの駐屯地の一室に、甲高い男の声が響いた。
「逸見一佐!」
「今さっき報告された事は、間違い無く『G』による破壊活動だ!これまで世界各地で『G』による怪現象が複数確認されているが、これは紛れも無い『G』による破壊活動!この得体の知れない存在を放置しておけば、甚大な被害が出るのは確実!今すぐにでも総理大臣の承認を得て、第9師団の出動を!」
師団長達も顔を揃わせるこの会議室で叫ぶのは、陸上自衛隊一佐・逸見亨平。
本来は来年度の予算について会議されていたのだが、その途中でつがる市のクモンガ襲撃の件が伝えられ、それを聞くや逸見がそう叫んだのだった。
「逸見一佐殿、とりあえずこの場では落ち着いて・・・」
「うるさい!」
「確かに貴方は『G』について人一倍の関心を持っていた。しかし、今は場を・・・」
「黙れ!」
「日本ではまだ『G』による破壊活動は行われていない!もしこの『G』に対しても専守防衛が適用されると考えると、今すぐは無理だ!」
「えぇい、うるさい!黙らんか!現に防衛庁の頃に、巨大生物が現れた時の事が仮想されている!その結果は『自衛隊法第88条によって災害派遣に基づき自衛隊員の出動を可能とし、もし巨大生物が破壊活動を行えば「有害鳥獣駆除」の名目で武器・弾薬の使用が可能』との結論が出ているんだ!」
俗に言う「タカ派」である逸見は静止する他の自衛官達の意見を跳ねのけ、力説する。
「とにかく、早く出動を・・・!」
「・・・話は分かった、逸見一佐。だからまずは落ち着こうか。」
そんな逸見を諫めたのは、この駐屯地の駐屯地司令を兼任している第9師団の副師団長であった。
「とりあえず、第9師団の出撃が可能かどうか防衛省に聞いてみよう。」
「で、では・・・」
「しかし、もしも承認が降りれば事は災害・海外派遣程度では無い、本格的な自衛隊の出撃になる。向こうも慎重な判断を下すだろうし、今すぐは恐らく無理だ。」
「ですが・・・!」
「これは私が決める事では無い、上が決める事だ。」
「・・・御意・・・!」
悔しさ混じりの拳を握り、逸見は静かに着席した。
副師団長が防衛省へ連絡を取ろうとする中、逸見は下を向きながら何かを呟く。
「・・・何処もかしこも、結局は放置か・・・!」