本編







「・・・!」




それと同じく、紀子の様子にも異変が現れ始めた。
瞳孔を開き、勾玉を握り締めながら何処か遠くにある「何か」を見るような、そんな反応を示したのだ。




「・・・!?」
「どうした、紀子?」
「・・・『G』が、現れた!」




そう言うや紀子は踵を返し、納屋の外に出る。




「ま、待って、紀子!」
「待つのはお前だ、レン!」




験司に銃口を突き付けられ、固まっていた憐太郎も突然納屋を出た紀子を追う為に動き出した。
すかさず験司は憐太郎を静止する為に憐太郎の足元へ銃を撃つが、憐太郎は止まらない。




「「う、わああっ!」」
「験司!」
「ごめん、験司兄ちゃん・・・!」
「止まれ、レン!次はお前の・・・」
「ごめん!でも・・・僕は紀子が心配なんだ!」




験司の威嚇射撃にも全く臆さず、憐太郎は紀子に続いて納屋を出てしまった。




「・・・ったく、あのじゃりん子が!」
「験司・・・」
「・・・あ、あの・・・」
「おれ達、は・・・」




恐る恐る、験司にそう尋ねる拓斗と透太。
だが、験司は黙って2人に銃を向けた。




「「!!」」
「・・・好きにしろ。」
「「・・・えっ?」」
「好きにしろって言ってんだ。お前らがこの事を黙ってるんなら、見逃してやる。」
「「ほ、本当に・・・ですか?」」
「それとも、こいつをもう一回使って欲しいか?」
「「い、いえっ!」」
「なら早く、ここから消えやがれ。オレの気が変わらねぇ内にな・・・」
「「は、はい!」」




銃口を突き付けられながら2人はおぼつかない足取りでドアへ走り、蛍に一礼してから納屋を去って行った。




「験司・・・?」
「・・・ちきしょう!」




2人が去るや否や、験司は銃を乱暴に床に投げ捨て、体を震わせる。
そんな験司に蛍は、優しく肩に寄り添った。




「験司・・・貴方、やっぱり・・・」
「なんで・・・なんで!レンが玄武に関わっちまってんだ!あいつだけは・・・あいつだけはこの事に巻き込みたくなかったのによ!」
「私もよ・・・験司。能登沢君だけは、絶対に関わって欲しくなかった。なのに・・・」
「・・・バチが当たったのかも、しれねぇな。これからオレ達がやろうとしている事を知った、神様かなんかがよ・・・」
「・・・罪深いわよね、私達は・・・」




共に任務を果たす内に、信頼が愛情へと変わって行った、験司と蛍。
いつしか恋人同士となった2人であるからこそ、互いの気持ちが分かり、彼らの「秘密」に憐太郎が関わった事の辛さが、余計に増してしまうのであった。






キャキャァッ・・・




つがる市郊外の建設現場を一変させた「それ」は、土の中から静かに姿を現した。
それはまさに巨大な蜘蛛の様な姿をしていたが、軽く数十mを越える体と六つの青い目は、それが通常の生物で無い事を一目で知らしめていた。
化け物のようなこの巨大な蜘蛛の正体は、遥か昔に現れた超古代の「G」が生み出した古き「G」、クモンガであった。




「何だ、さっきから地震ばかり・・・」
「ちょっと、あそこの土が盛り上がってるわ!」
「えっ?まさかそんなわけ・・・が・・・!?」
「く・・・くっ・・・!蜘蛛・・・!」




付近の人々もこの突然の事に驚き、様子を伺いに行くが、建設現場から現れるクモンガを見た誰もが、この場にいた事を後悔した。




「きゃ・・・きゃあああああっ!!」
「うわああああっ!!」
「逃げろ・・・!逃げろぉ!!」




恐れの悲鳴を上げ、人々は一斉に逃げ惑う。
まさしく「蜘蛛の子を散らす」かの様な光景であったが、クモンガはその目に人々を映すと、映る全ての者へ口から吐く糸を浴びせる。
強い粘性を持つ糸を受けた人々はいかなる抵抗をする事が出来なくなり、なす術の無い人々へクモンガは八本の足を悠然と動かしながら迫る。
そしてクモンガは覆い被さった糸ごと、自らの糧を捕食した。




キャキャァッ・・・




食事を終えても何千年分の空腹を満たせないのか、クモンガは民家を破壊しつつ中央部へ歩みを進める。
その道中には、憐太郎が住む町があった。






「・・・んっ?どうしたんだ・・・?」




クモンガの侵攻する音は遠くの場所にも響いており、店内で花を手入れしていた晋の耳にも聞こえていた。




「・・・!あれは・・・」




迫る未知の脅威に晋は不安を覚えたが、彼の体はクモンガの方向へと向かっていた。
彼の不安はクモンガが自分達を襲って来る事への不安では無く、憐太郎と紀子が襲われないか、と言う不安だったからだ。




――・・・憐太郎、紀子ちゃん・・・
何処に行ったんだ・・・!






その頃、何かに引き寄せられるように走る紀子とそれを追う憐太郎は川から大きく離れ、町外れの丘を走っていた。




「紀子!ちょっと待ってよ!さっきから、何処を目指してるの!」
「・・・」




後ろから何度も呼び掛ける憐太郎を無視し、紀子はひたすら走り続ける。
毎日のように拓斗と透太とスポーツに興じている憐太郎は決して運動が出来ないわけでは無いが、それでも目の前の紀子に中々追いつけずにいた。




――紀子・・・なんか、凄く早いなぁ・・・
昔からあんなに運動、出来なかったと思うのに・・・
これも・・・6年の差なのかな・・・




紀子との距離を、まるで彼女との心の距離のように感じつつ、憐太郎は更に加速しようとする。
しかし、加速を行う前に憐太郎の足が止まった。
道を抜けた眼前の頂上に、紀子が立ち止まっていたからだ。




「・・・!」
「はぁ、はぁ・・・やっと君に追いついた・・・って、ここは・・・!?」




膝に手を置き、息を整えた憐太郎が顔を上げて見たもの、それはかつて見た事のある光景だった。




「・・・この風景・・・間違いない。昔、君と験司兄ちゃんと行った、あの場所だ・・・!」




つがるの街を一望出来る、丘の頂上。
ここはかつて、憐太郎と紀子が験司に連れられやって来た、思い出のスポットだった。
辺りの様子は変わっていないが、違うのは夜では無く昼と言う事、そして広がる街の中に幾つかの炎と、巨大な生物がいる事だ。




「・・・あっ、あれって・・・」
「あれが、『G』。玄武と同じ、超古代の『G』が生んだ存在よ。」
「あんな化け物も、『G』・・・」
「『G』の形は様々よ。例えば4年前の北朝鮮・韓国で起こった革命事件、あれも間接的には『G』の力による影響。それに2010年より前にも蒲生村と言う小さい村で等身大の『G』が現れて・・・」
「そうじゃ無いんだ!そうじゃなくて・・・あんな、僕達の街を壊すような奴と、ガメラが一緒の存在なんて・・・!」
「・・・でも、それが事実。更に『G』は、時に人にも影響を与えるの。『G』の洗礼を受けて産まれた者の事を、古文書の一説から人は『爾落人』と呼ぶ。そして私も、それに近い存在。」
「えっ・・・?」
「見せてあげる、レン。私の正体・・・『巫子』とは、どんな存在なのかを。」




そう言うと紀子は目を瞑り、両手で勾玉を握り締める。
そして刹那、勾玉から緑色の閃光が発された。




「うわあっ・・・!」
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