本編
「はぁ、それにしても暇だなぁ。」
一方、川付近の林の中。
迷彩模様のトレーラーを囲むように、数人の男達が立ち話をしていた。
彼らは数日前に、亀ヶ岡遺跡について人々に聞いて回っていた者達・・・つまりはGnosisのメンバーである。
「そうですね。リーダーと蛍さんだけ自由行動で、ずるいですって。」
「案外、デートに行ってるのかもなぁ?」
「それ以上言うな。これが自分達がリーダーに託された任務なんだ。」
秘密基地にいる験司と蛍に対する憶測を呟くのは、天然パーマと黒い肌、胸から下げた一眼レフが特徴的なカメラマン・首藤秀馬と、モダンな服装に様々なアクセサリーを全身に付けた今風の青年である、ドライバーの岸田月彦。
首藤と岸田を勇めるのは手にメモ帳とペンを持ったスポーツ刈りの記録担当、蓮浦賢造。
「蓮浦の言う事も分かるが、ここで待機しているのが暇なのも確かだよな、弟よ。」
「そうだね、兄者。じゃあしりとりでもしようか。」
親しげにそう話す角刈りで大柄の男2人は、調査員を担当する角兄弟。
兄の丈は赤のバンダナを、弟の歩は青色のバンダナを額に巻いているが、それ以外の兄弟の見分け方は無い。
「それは賛成だ、弟よ。おいみんな、どうする。」
「まぁ、そんな事しかやる事ねぇからなぁ。」
「オーソドックスだけど、暇潰しとしては良いっすね。」
「全く・・・」
「よぅし、じゃあ勝った奴に負けた奴が500円おごるのはどうだ?これなら俄然やる気になるだろう!」
「よっしゃ!絶対勝ったる!」
「関西弁になってんぞぉ、岸田ぁ?」
「じゃあ、言い出しっぺの僕から・・・」
「こら、貴方達!ちゃんと見張っていなさい!」
今にもしりとりを始めようとした彼らをトレーラーの運転室から静止したのは、ロングヘアーと白衣が目を惹く赤眼鏡の女性、医師の引田深紗。
彼女はGnosis最年長と言う事もあり、隊員達の実質まとめ役である。
「み、深紗さん!?」
「ちっ。ばれたか。」
「ちっ、とは何?首藤さん。それと本名で呼ぶのはいい加減にやめて頂戴、岸田さん。」
「な、何でもねぇよ。」
「わたし達の仕事はリーダーが帰って来るまで、このトレーラーの中の『玄武』の様子を見る事でしょう?わたしは手が離せないから、貴方達がちゃんと見ていて貰わないと。」
「引田の言う通りだ。仕事に戻るぞ。」
「へいへい・・・」
首藤は嫌々トレーラーの中へと戻って行き、岸田と角兄弟もそれに着いて行く。
しかし蓮浦だけはその場に残り、運転室の中の機械を覗き込んだ。
「どうだ、玄武の様子は。」
「そうね・・・全く変化無し。『爾落のエキス』は問題無く注入されているのだから、何か変化が起こってもいいと思うのだけれど・・・」
「まあ、このエキスは現時点で解析されている『G』の力を疑似的に再現した程度の物だ。効果は薄いだろう。」
「だからこそ、わたし達は玄武を持ち帰る必要がある。リーダーとサブリーダーは、何をしているのかしら・・・」
トレーラーのコンテナ内に入った首藤達は、コンテナの電源を付ける。
中には無数のチューブが体の至る所に差されたまま眠りに付く玄武・・・ガメラがいた。
「・・・やっぱし、なんも変わってねぇよなぁ?」
同刻、つがる市郊外の道路の脇を、作業員達が列を作って歩いていた。
彼らが目指すのはこの先にあるマンションの建設現場であり、昨日から全く連絡が付かない事を怪しんだ別の作業員達が様子を見に来たのだ。
「しかし、連絡も付かないなんて、何があったんですかね?」
「誰か1人でもいれば、電話に出ないなんて有り得ないんだがなぁ。」
「周辺住民に聞いても、事故の類は全く無かったようですし・・・」
「とにかく、現場に行くしかないだろう。」
作業員達が不可解な音信不通についてあれこれと推測する間に、建設現場に到着した。
現場は異様な程に静まり返っており、クレーン車やブルドーザー等が動いている様子は全く無い。
「無音・・・ですね・・・」
「建設作業をしているのに物音一つ無いなんて、おかしいぞ・・・」
この奇妙な光景を疑いつつも、作業員達は現場内に入って行く。
だが、彼らはすぐに「異変」の原因を目撃する事となった。
「う、うわっ!」
「こ、これって・・・」
「・・・糸?」
静寂に包まれた現場内、そこは無数の巨大な糸のような物が至る所に絡まる、不可思議な世界と化していた。
横幅がゆうに3mはある糸など存在するわけが無いが、そんな物がこの場所にだけ存在していると言うのも更に謎であった。
「く、蜘蛛の糸にしても大きすぎますよ・・・」
「だが質感や形状を見る限り、糸である事は間違いないようだ。」
「つまり、大きさだけ違う本物の糸・・・と言う事ですか?」
「ああ。」
「こ・・・これって、まさか『G』・・・?」
作業長の言葉に不安を感じた1人の作業員がそう言った刹那、突如現場内に地震が起こった。
「じ、地震!」
「ひとまず、急いでここを出るぞ!」
作業員達は直ぐ様現場から出ようとするが、何故か地震は現場から出る前に治まった。
作業員達は一旦立ち止まり、作業員の安全確保の為に最後尾にいた作業長は後ろを振り向く・・・が、その瞬間に彼はその冷静な人柄からは思えないような声を発した。
「うっ・・・ぐ、ぐうわああっ!!」
「作業ちょ・・・!」
その声と共に、彼の前から巨大な糸がおびただしい数の蛇の如く、襲い掛かって来た。
なすすべも無く作業長は糸に飲まれ、作業員が彼の声に振り帰った時、既にそこには糸の塊しか無かった。
「う・・・わああっ!」
「逃げろ、逃げろ!逃げ・・・!」
「ぎゃっ、ぎゃああっ!」
「わあああああぁっ!!」
恐怖の叫びを上げながら、作業員達はそこから逃げ出す間も無く糸の第二波に飲まれて行く。
作業長を含めて彼らが最後に見たもの、それは青く光る6つの点だった。
そして「それ」により、作業員達は二度とここから戻る事は無かった。
キャキャァッ・・・