本編





「「レン!」」




勇気を振り絞り、憐太郎が紀子に本心を言おうとしたその瞬間、外から拓斗と透太の声が聞こえて来た。
その大声に緊張を無理に解かされた憐太郎は全身に電流が走ったかの様に体を震わせるが、すぐに肝心な所で邪魔された怒りも芽生え、窓を開ける。




「拓斗に透太!?今日は来ないって言ってたじゃないか!何でこんな時に限って・・・!」
「すまねぇ!お前の事邪魔する気無かったんだけどよ、大変なんだよ!」
「ガメラが・・・ガメラがいなくなっちゃったんだ!」
「・・・!?」






彼らの口から語られた衝撃的な事実に、憐太郎は紀子を連れて外に出た。
それから憐太郎は秘密基地に向かいつつ、2人から話を聞いていた。




「今日はお前と守田さんの邪魔しない約束してたから、さっき透太連れてガメラの様子見に行ったんだよ・・・」
「そうしたら、秘密基地の中にガメラがいなかったんだ・・・昨日ちゃんと鍵を閉めてたし、秘密基地も全然壊れてなかったのに・・・」
「・・・まさか、誰かにガメラの事がバレた!?」
「でも、秘密基地は荒らされてなかったぜ?」
「いや、何かの手段を使ってガメラを抵抗出来なくして、それから連れて行ったのかも・・・」




3人が色々な推測をする中、紀子は浮かない表情をしていた。
ガメラの存在が他人に知られて焦ると言うよりも、何かこの事件に心覚えがあるような、そんな表情だった。






それから4人は数十分走り続け、秘密基地に到着した。
開けっ放しの扉に付いた南京錠は破壊されずに解錠されており、中の様子は全く変化が無かった。
ただそこに、ガメラがいない事を除いて。




「・・・やっぱり、いねぇ・・・」
「ガメラ、誰に連れていかれたの・・・?」
「・・・誰にも言ってないはずなのに、こんな所に誰も来ないはずなのに・・・なんで、なんでガメラはいなくなっちゃったんだ・・・!」
「・・・」
「・・・よく思い出せ。部外者でそいつの行方を知ってるやつがいるだろ、レン。」




と、そこへ唐突に聞こえて来た、何者かの声。
憐太郎達は声が聞こえた方向・・・背後に振り向き、声の主を確認する。




「えっ・・・?」
「だ、誰だ!」
「・・・嘘、だろ・・・」




拓斗と透太が全く未知の存在を見た反応をしたのに対し、憐太郎は違う反応を見せた。
それはまるで、声の主がここにいる事があり得ないような反応であり、彼の表情はまさにその驚きを体現していた。




「久しぶりだな、レン。」
「げ・・・んじ、兄ちゃん・・・」




そう、彼らの前にいたのはかつて憐太郎と紀子が慕っていた、行方知らずの男・・・浦園験司であった。
憐太郎の記憶の中にいる高校生の験司は、目の前で成人になっていたが、それでも顔つきと、トレードマークのギザギザ頭はそのままだった。




「い・・・今まで、何をしてたの?何処へ行ってたの・・・?」
「『G』を探しに。」
「えっ?」
「言った通りだ。オレはこの6年、『G』を探す為に世界中を巡ってた。国家機密特殊部隊『Gnosis』の隊長としてな。そしてレン、お前は『G』に関わっちまったんだよ。約1万2千年前に現れた『G』から生まれた怪獣・・・『玄武』にな。」
「・・・」
「げん、ぶ?」
「東西南北の『方向』を司ると言われてる架空の神様、『四神』の北を担う神様だよ。でも、まさか玄武って・・・」
「そこのじゃりん子、よく知ってたな。お前らはレンの友達か?」
「は、はい。」
「って言うか、あんたはレンとどういう関係なんだよ!」
「ちょっとした昔の仲だ。なぁ、レン。」
「う、うん・・・」




動揺から、たどたどしい口調で験司の質問に答える憐太郎。
突然かつ、衝撃の再会を考えれば当たり前の反応であるが、一方で紀子はそんな様子を全く見せない。




「お前らが匿ってたあの亀は玄武だ。デカいにしてもあんな形の亀、現実にいるわけがねぇからな。それに『G』を解明する上でも玄武は貴重な存在だ。と言うわけでオレ達Gnosisが預かる事にした。」
「な・・・なっ、なんでここの事を知ってるんだよ!それに・・・」
「言ったろうが。部外者で知ってる奴が1人いるってな。」
「部外者・・・?」




その台詞と共に前へ歩み出した人物、それは紀子であった。




「の・・・紀子?」
「・・・ごめんなさい。拓斗君、透太君、レン。出来れば、貴方達にこの嘘を知られたくなかった・・・だけど、貴方達が玄武に関わったばかりに、言わないといけなくなった・・・」
「ど、どういう事なんだよ、紀子。嘘って・・・」




験司の隣に立ち、憐太郎達の方を向いた紀子は、一瞬後悔の表情を見せたが、それを消し去るかのように冷酷な表情を変えると、淡々とした口調で話し始めた。




「私が嘘を付いていたのは、6年前から。そう、私が入院した時。」
「えっ・・・?」
「あれから嘘だったのよ。私に心臓の病気なんて最初から無い。私が倒れたのは『G』の出現によって私の体が『巫子』に目覚めて、その影響で体調を崩したから。ずっと面会謝絶だったのも、それを調べる為にGnosisが面会謝絶にするように手配したからよ。」
「・・・じゃ、じゃあ東京へ行ったのは・・・?」
「Gnosisの隊長になって、紀子に『巫子』になる為の訓練を受けさせる為だ。だからオレは、はなっから行方不明になんてなってねぇんだよ。」
「そ、んな・・・」




自分が信じていた、思い込んでいた事全てを否定する紀子と験司の言葉を、憐太郎は半ば受け入れられずにいた。




「私が帰って来たのも、一週間前に覚醒しながら行方が分からなくなった玄武を探す為。亀ヶ岡遺跡の祭壇に安置されていた筈なのに、反応が無くなったからすぐに回収出来なかったけど・・・」
「そ、それって・・・」
「レンが、ガメラになった石を見つけた所・・・!?」
「そうよ。この『勾玉』を使って直接探す必要が出て来たから、私はここに行く事にしたの。まさか、こんな所で貴方達に匿われていたなんて予想もできなかったけど。」
「部下に聞き込みをさせたり、オレと連絡したりしてようやく玄武の行方を割り出したわけだが、一番頑張ってたのはあいつだがな。」
「あいつ・・・?」




と、そこにもう1人、何者かが納屋に入って来た。
その人物を見て憐太郎だけで無く、拓斗と透太までも驚愕の反応を示す。




「・・・光、先生?」




納屋に入って来たのは、見紛う事無い、蛍だった。




「『Gnosis』副隊長、光蛍。玄武が発見された二年前から、監視の為に新任教師と言う肩書きで、この町に留まって貰っていた。」
「せ、先生が・・・?」
「光副隊長がいたから、私も玄武を探しやすかったわ。この町にまだ玄武がいる事は分かってたから、後は場所を絞るだけ。それをここ一週間、光副隊長はやってくれたの。」
「・・・も、もしかして先生、2日前に探してたのって・・・」
「・・・そうよ、城崎君。貴方達の言う『ガメラ』を探してたの。」
「先生まで、そんな事してたなんて・・・」
「あんな嘘を付いてごめんなさい、遊樹君・・・でも、それが私の本当の仕事なの・・・」




拓斗と透太の目に映る蛍の姿は、教え子と偽りの関係を持ってしまった事への背徳感に満ちていた。
嘘付きながら、嘘を悔やむ彼女を見てどう反応すればいいかも分からない2人に対し、憐太郎はただ下を向くだけだった。




「レ、レン。どうしたんだよ。なんか・・・」
「・・・嘘だ。」
「レン?」
「何だよ、嘘なんて付いて。先生に験司兄ちゃん、紀子。そんな嘘に僕が騙されると思った?」
「何言ってんだ、レン。オレは・・・」
「いくらちゃんとした言い訳が思いつかなかったからって、『G』を出してまでこんな有り得ない話を信じさせようなんて、甘過ぎるよ。今更帰って来るのが恥ずかしいから先生まで巻き込んで、そうやって子供騙しの嘘を言ってるんだよね?」
「能登沢君・・・」
「レン、私は・・・」
「じゃあこの3日間、僕の前にいた紀子も嘘だったの?」
「えっ・・・?」
「昔みたいに僕と話して、僕とご飯を食べて、僕と一緒に寝てくれた紀子も、全部嘘だったって事・・・?いや、絶対に違う。嘘だったなんて、言わせない・・・!
違うって、言って・・・違うって僕に言ってよ!紀子!」
「・・・違う・・・!」




真実を信じまい、信頼を寄せる人達の事を・・・紀子を疑いたくなんてない。
そんな思いから憐太郎は必死に「嘘」を叫び、紀子は憐太郎に対して無意識にそう答えてしまった。




「そ、それだけは・・・違うわ・・・!」
「紀子・・・!」
「私は・・・レンの前でだけは・・・普通の女の子で・・・!」
「・・・部下をたぶらかすのもそこまでだ、レン。」




途切れ途切れながら、本心を伝えようとする紀子の言葉を遮ったのは、験司。
彼は腰から銃を取り出したかと思うと、それを憐太郎に向ける。




「「!?」」
「験司兄ちゃん!?」
「げ、験司!」
「どちらにしろ、『G』に関わったお前らをそのまま返すわけにはいかねぇ。結果によっちゃこいつを使う事になるが、それでもいいよな?」
「・・・」
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