本編











「憐太郎、ちょっとトイレに行って来るけど、あまり遠くに行ったら駄目だよ?」
「はーい。」




10日前、憐太郎は晋と共に亀ヶ岡遺跡にいた。
学校の宿題で歴史的建造物へ行った感想を書く事になり、その為に少し遠出ながら来たのだが、この遺跡は各所に立つ土偶のモニュメントと、出土品を展示する「縄文館」以外に特に何も無く、この遺跡を代表する遮光器土偶や翡翠製勾玉が出土した谷の周辺は立ち入り禁止、遺跡と聞いて大抵の人が想像する石室も無く、憐太郎は少々肩透かしを食らっていた。




「はぁ・・・」




土偶のモニュメントに背を掛け、溜め息をつく憐太郎。
何処を見渡しても草木が殺風景に広がっているばかりであり、彼にとっては退屈でしか無かったが、それは憐太郎にある考えを浮かばせる。




「ほんと何も無いなぁ、ここ・・・」


――・・・でも、もしかしたら立ち入り禁止の所には石室とかあるのかも・・・
父さんもトイレに行ったし、周りには・・・




再度辺りを見渡し、憐太郎は周囲に誰もいない事を確かめる。
今、自分が誰にも見られていないと確認した彼の取った行動、それは立ち入り禁止のエリアへの立ち入りだった。




「大丈夫、ちょっとだけ、ちょっとだけ・・・」




林の中を進み、谷のある方向に憐太郎は進む。
してはいけないと頭では分かっていながらも、その先にある未知の場所への好奇心を、憐太郎は抑えられなかった。




「ここ、長いなぁ・・・早く抜けて・・・!」




いつしか駆け足になっていた憐太郎だったが、林を抜けた瞬間にすぐ足は止まった。
林の先にあったのは、僅かな地面も無い暗く巨大な穴だったからだ。




「うおっとっと・・・!」




一瞬落ちそうになるも、何とか憐太郎は体のバランスを取り戻し、奈落の底への落下は免れた。
どうやら、ここが谷らしい。




「ふーっ、危なかった・・・ここが土偶とかが出て来た谷か。どっかに降りれる所はっと・・・」




谷に落ちないようにしながら、憐太郎は谷沿いに歩いて下れそうな場所を探す。
しかしその最中、憐太郎は予想しなかったものを見つけた。




「あれって・・・洞穴?」




憐太郎の視線の先にある岩壁には人一人余裕で入れる大きさの穴が空いており、穴の前には多少の足場が、その隣の岩壁はちょうど手足を掛けられそうな形になっていた。




「多分、あそこで土偶とかを掘り出してたんだ。じゃあ、まだなんかあるはず!」




好奇心に支配された憐太郎は何の迷いも無く岩壁を下り、洞穴に入って行った。
中は無論の事真っ暗で、憐太郎は洞穴の入り口にある電灯を付け、視界を確保する。
この洞穴の電灯はリンクしているのか、入り口の電灯を付けただけで洞穴の先の電灯が同時に付いた。




「何があるんだろうな~。土偶とか、まだ残ってたらいいな~。」




ひたすら真っ直ぐの下り道が続く洞穴を、鼻歌混じりで憐太郎は進む。
今の彼には、洞穴の先にある出土品しか頭に無い。




「・・・あれは?」




と、憐太郎の足がいきなり止まる。
彼の前にあったのは、地面の下で自然に出来るとは思えない程に大きく開けた空洞だった。
空洞の中にも電灯は幾つも掛けてあり、左右には火をくべる為の物であろう柱の列が縦に、奥には亀の甲羅の様な形をした巨大な岩が置いてある。
まるでさながら、何かを祀る祭壇の様な趣きだ。




「何だろう、ここ・・・こんな所あるって、パンフレットに書かれてなかったよね・・・?」




空洞の存在に疑問を抱きつつ、憐太郎は中に入って空洞を見渡すと、奥の岩に近づく。
よく見ると、岩の上にはまた甲羅に似た形の石が置いてあり、憐太郎はそれを手に取って眺める。




「この石、亀みたいな形してるな・・・でも、なんかかっこいい。」




石を気に入った憐太郎は何のためらいも無くそれをズボンのポケットにしまい、空洞を去って行った。










それから元の場所に戻った憐太郎は晋に怒られつつ、持ち帰った石を秘密基地で眺めていた。




「うーん、何度見てもかっこいいな~。でもほんと何なんだろう、この石・・・」




壁にもたれ、まじまじと石を見る憐太郎。
と、その時石が突如紅い光を発した。




「うわああっ!」




突然かつ、凄まじい光に憐太郎は石を前に投げ捨ててしまう。
それでもなおも石は閃光を増し続け、目も開けられない程に強い光が納屋中を包んだ。




「・・・!」




やがて光が収まっていき、憐太郎は恐る恐る閉じた目を開く。
そして光が収まり、そこにあったのは石とは別の物だった。




「・・・えっ・・・?」




そう、石が消えて代わりに巨大な亀がいたのだ。
不意に現れたその非常識・・・場違いな光景に思わず言葉を失う憐太郎だったが、少しの沈黙の後に小さく、こう言った。




「・・・ガメラ・・・?」
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