本編







「あの、さ・・・今日、僕ん家に来ない?」




昼休み後の掃除明け、憐太郎は教室で拓斗と透太にいきなりこう切り出した。




「レ、レン?」
「昨日今日となんか話して来ねぇと思ったら、どうしたんだよ。」
「ご、ごめん。ちょっと考え事してて・・・だからそのお詫びに、今日僕ん家に行かない?」
「レンの家に行くにしてもよ、ガメラはどうすんだ?」
「まさか、今日は行かないなんて・・・」
「そ、そんな事するわけないよ!ガメラの所にも行くけど、その前に僕ん家に来て欲しいんだ。」
「レンの家に?」
「ちょっと、2人に会わせたい子がいて・・・」
「「えっ?」」






「は、初めまして。守田紀子です。」




昼過ぎの能登沢家。
授業が5時間目までだっだお陰で少し早く帰れた憐太郎達は、能登沢家の居間にいた。
居間には散歩から帰って来た紀子がニュース番組を見ていたが、予想外の訪問客に驚きを隠せないでいた。
しかし、そんな紀子が先に挨拶をしたのも、拓斗と透太が先程から紀子を見たまま固まっているからであり、まるでガメラを初めて見た時のようであった。




「えっと、僕の友達の拓斗と透太。紀子に会わせたくて今日連れて来たんだけど・・・って、2人とも!何か喋ってよ!」
「「・・・」」




憐太郎に促されてもなお、硬直し続ける2人。
それもその筈、2人は目の前で首を傾げる紀子に見惚れていたからだった。
2人にとって、紀子との対面はガメラとの出会いに匹敵する衝撃だったらしい。




「え、えっと・・・レンのダチの、遊樹拓斗です・・・」
「同じく・・・城崎透太って言います、よろしくお願いします・・・」
「う、うん。よろしく。いつもレンと遊んでくれて、ありがとう。」
「いっ、いえいえいえ!そんな事、お安いご用ですって!」
「ほんと羨ましいなぁ、レンがこんな綺麗な人と知り合いなんて・・・」
「ほんとなぁ・・・!」
「・・・え、ええっ?」




そう言いながら憐太郎の腕に手を回し、憐太郎を玄関まで連れて行く2人。
あまりにも不意な2人の行動にずるずると連れて行かれる憐太郎と、その光景を不思議そうに見る紀子。
今朝の晋の話から一応は2人の事を知っていた紀子だが、先程からの彼らの行動については全く理解出来ずにいた。




「・・・拓斗君と透太君、変わり者なのね?」






「おい!どういう事だ、レン!」
「ど、どういう?」
「あんな美人さんと知り合いだったって事!」




一方、玄関に連れて行かれた憐太郎は2人から理不尽な問い詰めをされていた。
いつも落ち着いている透太ですらやけに興奮しており、憐太郎は2人のおかしなペースについていけない。




「え、えっと・・・前に言わなかったっけ?幼稚園の頃に離ればなれになった子の事・・・」
「ああ、あの話か・・・って!その子があんな綺麗な子だったなんて聞いてなかったぞ!」
「しかも、地味に年上!」
「最近のレンがおかしいから、ガールフレンドがいるのかって疑ってたけどよ・・・」
「まさか、こんな形で当たるなんてね・・・」
「ぼ、僕だって昨日久々に会って驚いたくらいだよ!こ・・・こんな綺麗になってたなんて。そ、それに紀子とはガールフレンドなんかじゃ・・・」




と、そこで言葉を止め、憐太郎はちらりと居間の紀子を見る。
内心は胸を張って肯定したいのだが、まだ今はその関係では無い事を思い出したのだ。




「・・・そんなんじゃ、ないよ。」






それから紀子を加えた4人は能登沢家を出て、町の外れに向かった。
目的地は勿論、ガメラのいる秘密基地だ。




「レン、今から何処に行くの?」
「秘密。来たら分かるよ。」
「そう・・・」
「まぁとりあえず、ビックリのものが待ってる事は保証しますよ。」
「ビックリのもの?」
「はい。きっと守田さんも、さっきのぼく達みたいになると思います。」
「そうなんだ・・・」
「あっ、そういえば守田さんって・・・」




後ろで3人が雑談する中、案内役の憐太郎は1人考え事をしていた。
それは今日の学校で蛍から言われて決意した、紀子への気持ちについてだ。




――明日、紀子は東京に帰っちゃう。
その前に紀子に言うんだ・・・もう一度、紀子の事が好きだって。
でも今日だけ・・・今日だけは昔みたいに紀子といたい。
この気持ちを伝えたら、きっと昔みたいの関係は無くなっちゃう。
だから、今日は・・・


「そうですよね~。やっぱり・・・って、レン!1人でボサっと歩くなよ!」
「へえっ、う、うん!」






数十分もして、4人は無事秘密基地に到着した。




「この川、入った事なかったけど・・・こんな感じだったんだ・・・」
「僕も入ったのは数年前だけどね。さてと、じゃあ入って。」




鍵を開けた憐太郎は後ろに下がり、拓斗・透太と共に紀子に秘密基地へ入るように催促する。
疑問符が浮かんだまま紀子はドアに手を掛け、ゆっくりと開いた。




「・・・!」




中には相変わらずひっくり返ったガメラがおり、これを見て驚く紀子の姿を見るのが憐太郎達の予定調和であった。




「・・・うそ・・・!?」




が、当の紀子は少々異なる反応をしていた。
ガメラを見て驚いたと言うよりも、「見つけた」反応をしたのだ。




「どう、紀子?」
「・・・えっ?う・・・うん。すごく大きくて、つい固まっちゃった。」
「でしょ!あいつを見て、びっくりしない人なんていないよね。あっ、早く起こさないと。」




憐太郎達は納屋に入り、ひっくり返ったガメラを起こす。
元の位置に戻ったガメラの頭を申し訳無さそうに憐太郎は撫でるが、ガメラは先程からずっと紀子の事を見つめていた。





「ごめんな~、昨日会いに来なくて・・・」
「完璧、無視だな。」
「まぁ、ご主人様が自分の事を忘れて他の事にかまけてたんだから、仕方ないよね。」
「うぅっ・・・」
「あっ、ごめんね。私が帰って来たから・・・」
「だ、大丈夫。僕が考え無しだっただけさ・・・」




肩を落とす憐太郎をよそに拓斗は鞄から餌の草を取り出し、ガメラの前に置く。
ガメラは黙々と草を食べるが、やはり時折紀子の事を気にしていた。




「それにしてもこいつ、さっきから守田さんの事ばっかり見てるよな。」
「初めて見るから、守田さんに興味があるんじゃない?でも、ぼくと拓斗が来た時はこんな反応しなかったよね・・・?」
「ガメラも面食いだな~。」
「えっ、ガメラ・・・?」
「あっ、紀子に言い忘れてた。こいつの名前、ガメラなんだ。」
「ガメラって、レン。ガメラならもういるでしょ?」
「「へっ?」」




非常に誤解を生む紀子の発言に、拓斗と透太は驚きの声を上げる。




「あっ、2人にも言い忘れてた。僕、小さい頃に亀を飼ってて、その亀の名前がガメラだったんだ。」
「亀飼ってたなんて、初耳だぜ?」
「言う必要無いかなって思ってたんだけど・・・まさか、紀子が来ると思わなくて。」
「守田さんが、何か関係あるの?」
「うん。昔レンが飼ってた方のガメラ、今私が飼ってるの。」
「紀子が東京に行く直前に譲ったんだ。向こうで1人になったら寂しいかなって思って。」
「なるほどね・・・」
「ほんと紛らわしいぞ、レン!なんでガメロンとかカメーバとか、違う名前にしねぇんだよ!」
「だ、だってこいつと初めて会った時、ガメラが帰って来たみたいな感じだったんだ・・・」




普通ならば、頭を疑われてもおかしく無い憐太郎の一言。
しかし憐太郎にとってはこれ以上の理由が無く、理由を聞いてもまだ疑問の表情の拓斗・透太とは別に、紀子だけは憐太郎のこの言葉を気にしていた。




「そうなんだ・・・なんだか、やっぱりレンって最近変わったなぁ。」
「そ、そうかな?でも、紀子が帰って来たらガメラも帰って来るから、また違う名前を考えないとね。」
「そ、そうだね。あっ、そういえばレンはガメラと何処で出会ったの?」
「うーん、出会ったと言うか・・・見つけたって言うべきかな?一週間くらい前にここから少し行った所にある亀ヶ岡遺跡に行って、そこで。」
「亀ヶ岡遺跡って、土偶で有名な遺跡よね?」
「うん。学校の宿題で歴史的な建造物に行った感想を書く事になって、父さんと一緒に行ったんだけど、ほんと何にも無くてさ。暇だからこっそり立ち入り禁止の所に入ったら、そこにあったんだ・・・」
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