本編











夕刻、秘密基地を出た3人は通学路に戻っていた。
興奮を隠せない拓斗と透太と、それを嬉しそうに見る憐太郎。
同じ秘密を共有した事により、3人の仲は更に深まった様子だ。




「ほんと、今日は最高だったぜ!明日もまた連れてってくれよな、レン!」
「うん!もちろん!」
「こういうのを、『奇跡体験』って言うんだろうな・・・!」
「僕達はまさにその奇跡を、一緒に持ち合った特別な仲なんだね。」
「『隠し事』を持ち合う仲でも、あるけどね。」
「心配すんな!ガメラの事は絶対に誰にも話さねぇ、おれ達3人でガメラを育てようぜ!」
「あんな秘密があったのなら、気安く言えるわけ無いよ。」
「分かった!僕、拓斗と透太と友達になれて本当に良かった!これからも僕達はずっと友達だよ!じゃっ!」
「「あばよ!!」」




とても満足な表情をしながら憐太郎は2人に手を振り、走り去って行った。
返す2人の声も興奮からか、いつもよりも甲高くなっていた。




「・・・レンの奴、すげぇ嬉しそうだったな。」
「無理無いよ。ぼくがレンの立場だったら、嬉しくて仕方ないもの。」
「こう、3人だけの秘密ってのがいいよな!特別感があってさ!」
「そうだ・・・・・・?」
「ん、どうした?」




返事を言いかけながら、透太は何故か途中で止めて突如右の道を見る。
気になった拓斗も、透太と同じ方向を見た。




「ねぇ拓斗、あの人って・・・」
「・・・光先生!?」




2人が見たのは、私服姿で慌てて辺りを見渡す担任・蛍だった。
どうも探し物をしているようだが、切羽詰まったその様子からはただ事では無い事が伺える。




「あんなに慌てて、何してるんだろう?」
「とりあえず、聞きに行ってみようぜ。」
「うん。」




2人はすかさず蛍の元に向かい、彼女に話し掛けた。




「「先生ー!」」
「あっ、遊樹君に城崎君?もう下校してたのに、ここで何してるの?」
「先生こそこんな慌てて、何やってるんですか?」
「えっと・・・ちょっと探し物よ。」
「探し物は先生を見た時に分かりました。先生は何を探してらっしゃるんですか?」
「ほ、本当に些細な探し物だから心配しないで。さっ、もう夜も近いんだからご両親が心配する前に家に帰りなさい。」
「は~い・・・」
「先生、どうしても見つからなかった時はぼく達にも相談して下さいね。それでは。」
「うん、ありがとう。それじゃあね。」




何故か理由を濁し、2人を帰らせた蛍は有名なブランド物の鞄から携帯を取り出すと、何処かに電話を掛けた。




――ごめんなさい、遊樹君に城崎君。
でもこの問題は、貴方達が関わっちゃいけないの・・・



「・・・もしもし、私よ。」






その頃、憐太郎は自宅の花屋に帰っていた。
気分良く玄関に入って靴を脱いでいると、居間から晋が憐太郎のいる玄関に来た。
いつもは居間で憐太郎を出迎えている晋なだけに、玄関まで来るのは珍しい。




「おかえり、憐太郎。」
「ただいま!・・・あれ、お父さんが玄関に来るなんて珍しいな?」
「今日は早く憐太郎に伝えたい事があるんだ。何だか嬉しそうな憐太郎も、更に嬉しくなるに違いないよ。」
「僕が・・・?それってなぁに?」
「今日の昼に電話があってね・・・紀子ちゃんがここに帰って来るって。」
「・・・!」




晋のその言葉を聞いた瞬間、憐太郎は手に持った鞄を落とし、ひどく驚いた顔つきを見せると全身を震わせる。
しかし、それは驚きなどでは無く・・・震える程の喜びの感情だった。




「・・・紀子が、帰って・・・!」
「明日の昼にここに来るそうだよ。いきなりだからまた日を置いてからでもって・・・」
「やっ、たぁーーっ!!」




両手を高く挙げ、歓喜の叫びを上げる憐太郎。
その声は勿論周囲にも筒抜けで、近隣の家に済む誰もが「フラワーショップ のとざわ」の方角を見た。




「れ、憐太郎、声が・・・」
「ねぇ!明日帰って来るようにしてよ!僕なら全然問題ないからさ!」
「で、でも憐太郎も学校があるし、もし店が忙しくなったら・・・」
「お願い!一生のお願い!ちゃんと学校にも行くし、忙しくなったら手伝うよ!だからお願い!」
「分かった、分かった。明日来て貰うように電話しておくから、頼むから騒がないで・・・」
「やったぁ!ありがとう、お父さん!」




憐太郎の絶叫を間近に聞いて目眩すら覚えながら、晋は憐太郎の必死な頼み込みに応えて電話を掛ける。
一方の憐太郎は狂喜乱舞しながら鞄を置きに二階へ上がり、相手の応答を待つ晋は深い笑みを浮かべてその様子を見ていた。




――・・・憐太郎が学校の事以外であんなに喜んでるの、初めて見たよ。
無理も無い、6年間も離ればなれだったんだから・・・
良かった良かった。本当に良かったよ・・・






夜、憐太郎のテンションは就寝前になってようやく落ち着いた。
しかしまだ「収まって」はいないからか、布団の中に入りながら窓から夜空を見ていた。
夜空は雲一つ無く、都会よりは多めに光る星々と三日月が輝いている。




――・・・ずっと、僕は待っていたんだ。
この日を、紀子が帰って来る、この日を・・・




ずっと胸の奥底に秘めていた張り裂けんばかりの思いを、心の中で吐露し続ける憐太郎。
いつしか彼の頭の中は、幼少の頃に遡っていた。
突如として奪われた、輝かしい日々に・・・
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