本編







それから学校を出た憐太郎達は学校の近くにあるコンビニに寄り、約束通り各人がアイスを持って出てきた。
だが、もちろん憐太郎はアイス代を一切払っておらず、彼の分は拓斗と透太が割り前勘定で支払った。




「は~、やっぱりスーパーカップのバニラ味は美味しいな~。」
「おれはガリガリ君のソーダ味がよかったのによ・・・」
「仕方無いさ、ぼくもアイスは爽のチョコレート味って決めてるけど、勝ったのはレンだし。」
「いや~、ごめんねごめんね~。」




溶けない内にカップに入ったアイスを食べながら、帰路に着く3人。
彼らの家は別々の場所であるが、比較的家の位置が近い影響で途中までの道は共通しており、別れ道となる公園までは一緒に帰っている。
帰り道は決して近い距離では無いものの、直ぐ様アイスを食べ終え談笑しているだけで、分岐点の公園にはすぐ着いてしまう。




「だろ!それでさ・・・あっ、もう着いた。」
「今更だけど、別に家は近いわけじゃないのに、あっという間に感じるよね。」
「だよな。これが授業の時にあればいいんだけどよ。」
「ははっ、そうだね。じゃっ、また明日!」
「「あばよ!」」




拓斗と透太に手を振りながら、憐太郎は公園から見て右斜めの道へ走り去って行った。
憐太郎を見送った拓斗と透太は2人で帰り道へと向かおうとするが、そこで透太が足を止める。




「そういやさ、拓斗。」
「何だよ。」
「最近のレンって、何で川に向かう道から帰ってるんだろ?」
「えっ、まぁ確かに言われてみればそうだよな。うーん・・・いつも同じ道から帰るのに飽きたから、違う道から帰ってんじゃねぇか?」
「だけど、ぼくと拓斗の知ってるレンってそんな事に飽きるっけ?それがどうも疑問なんだ。」
「そうだけどよ、じゃあ何で・・・あっ!まさかレンの奴、おれ達に黙ってこっそりガールフレンドとっ!」
「・・・もしそうなら、ぼく達は何も聞かない方がいいかも。」






2人の推測をよそに、憐太郎は駆け足で川の方へと向かっていた。
50m走で一位が取れそうな勢いで走る憐太郎は侵入防止の柵を乗り越え、あっという間に川に着くと川沿いの小石で出来た岸を渡り、やがて岩肌の側に小さく佇む古い納屋に辿り着く。
この納屋は数年前に憐太郎がこの付近を歩いていた時に見つけたもので、誰も使っていない事を確認し、そのまま自分の秘密基地にしている。




「ああ~、ごめんな~。早く鍵開けるからな~。」




誰かに話し掛けるかの様な独り言を呟き、焦りながら納屋の扉に付いた南京錠を解く憐太郎。
急いで扉を開けた、その前にいたのは・・・




「よっ、ガメラ。」




何とも大きい亀が、ひっくり返っていた。
ガメラと呼ばれたその亀はミドリガメに似た姿をしながら大きさはワニガメを超え、甲羅は葉を貼り付けたような特異な形をしており、腹には炎を思わせる形状の紋章が入っている。
憐太郎が入って来るやガメラは重い体をじたばたとさせ、憐太郎も急いでガメラを起こす。




「もう、ひっくり返った出迎えはこれで何回目だよ。ほら、今日はこれを食べてな。」




憐太郎は鞄から袋を取り出し、中に入った植物の葉をガメラに差し出す。
ガメラはそれをためらい無く食べ、後は自分で食べられるように憐太郎は残りの葉をガメラの前に置いた。
この「餌」はいつもなら学校や近くの公園等から取って来るのだが、今日は拓斗・透太との約束があって取りに行く時間が無く、納屋の外に置いた非常食を与えている。
ちなみに納屋の外に置いている理由はずばり、ガメラが食べ尽くしてしまうからである。




「今日、友達とちょっと遊んでてさ。休みの日になったら、ゆっくりお前と遊んでやるからな。」




食欲旺盛な食べっぷりで葉を食べるガメラの頭を憐太郎は指で撫で、ガメラもくすぐったそうな動きをする。
その様子を見つめる憐太郎の表情は、まるで弟を可愛がる兄にも似た心境を表していた。




――・・・ガメラと出会って、もう一週間くらいか。
ほんと、不思議な出会いだったな・・・



憐太郎の脳裏に、いつしかガメラと出会った時の光景がフラッシュバックしていた。






土偶のモニュメントが立つ何処かの茂み。
何かを祀る祭壇の様な、大きな洞穴。
その中央に安置された、亀の形をした石を掴む憐太郎。
それを納屋に持ち帰り、そして石が驚く憐太郎の前で紅く輝く・・・






「・・・分かってる。ガメラが、今で言う『G』だって。でも、それでも僕は君と初めて会った時に何故か懐かしさを感じたんだ。小さい頃にずっと一緒だったみたいに。あの子と遠くへ行った筈の『ガメラ』が、ここにいるみたいに。」




何かを思い出しながら、哀愁混じりの笑顔を見せる憐太郎。
それを見たガメラは憐太郎を心配する素振りを見せるが、大丈夫と言わんばかりに憐太郎はガメラの頭を撫でるのだった。
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