本文
「………黄?」
そこにいたのは確かに黄だった。
絶対に間に合うような距離にいなかった筈だとか、芙蓉たちに当たる筈だった銃弾をその身に受けた筈だとか、そんな事よりも(いや全く"そんな事"ではないのだが)奇異な光景が眼前に広がっている。
ただでさえ長身の身体は明らかに不自然な場所に――川面ギリギリの空間に"立ち"
怒りが具現化したようなオーラを纏い――陽が沈みかけている中に幻想的にすら見えるそれは、黄金色の粒子の姿
極めつけは、その広い背中に生えた純金の翼――鳥のような羽ではなく、虫のような翅でもなく、蝙蝠や翼竜が持つような皮膜だった
「ホ…」
「『そいつらをとっとと連れて行け。これぐらいの事、任されてやる』」
振り向いた瞳は金色(こんじき)に輝き、それはそれは楽しそうで嬉しそう、平たく言えば悪役面の真っ黒い笑みを浮かべていた。
身体に当たった銃弾が体内に入り込む事なく水面に落ちていくのを、金色の瞳で冷たく見据える。
黄が"知っている"スペイン語が対岸から聞こえ、そちらへと歩き出す。
川面ではない、彼が歩いているのは水面から僅か10㎝程上の空中だった。
「化け物」や「Gだ」等と叫んで銃撃を浴びせ掛けられたが、抵抗も防御もする事もない。全て皮膚に当たった時点で跳ね返っていた。
冷ややかすぎる視線を与える事すら馬鹿らしいとでも言うように、冷笑を湛えながら歩み続けた。
進むにつれて、銃弾で撃ち抜かれた死体が前方に浮いているのが目に入る。
「『やはり人間とは度し難い生き物よな…』」
何の感情も浮かべない瞳が、文字通り屍山血河の中にかろうじて息をしている者――瀕死の重傷を負い、周りの死体の仲間入りを果たそうとしている子供が映った。
その子供の目の前でピタリと足を止める。
「『子供、生きたいか?
生きて何とする?ただ安寧の地を求めて、大人や他人の手を借りて存在するだけか?
何とも虚しい人生よな、それは』」
嘲るような酷薄な笑みと台詞を浴びせると、蚊の鳴くような掠れた声が聞こえた。
「生きたい。
生きて強くなって家族や皆の仇を取りたい!
僕らの国がいつか平和になるように頑張りたい!!
ここで何も出来ないまま死ぬなんて嫌だ!!!」
「『よく行った子供。
気まぐれで少しだけ手を貸してやろう』」
黄昏の腕が、水面から子供を引き上げる。と、一瞬にして子供の姿が掻き消えた。
その状況を正確に理解しえたのは芙蓉だけだったろう。何故なら、彼女の元に一瞬にしてその子供が移動していたのだから。
"天空"を司る力は確かに黄昏のものだ。
だが彼の背中に生えている翼は、芙蓉にも見覚えがあった。
それは僅か15年前まで南極にて氷漬けきされていた、龍王のソレに酷似していた。
「『黄天の中に"力"が入った時、以前の器とその本来の持ち主も取り込んだ。
つまり、"俺"が黄昏(G)の能力、そして黄天(人間)の能力を使えるように、あの龍王(怪獣)の能力を使えるって事だ』」
対岸――ロリシカ領内に到達した頃には、纏っていた服はボロボロになっていた。
だが、破れた服の隙間から見える皮膚は既に人のモノではない。
髪と瞳、そして背中の翼と同じ、純金の色をした鱗と化していた。
例え砲弾やミサイルを撃ち込まれても傷一つ付かない鱗で全身を覆われていては、注射針やメス等がたちうち出来る筈がない。
「『最近身体が鈍って仕方なかったんだ、丁度いい、肩慣らしに手伝って貰おうか』」
"彼"の力は彼だけのモノではなかった。
黄昏が持つ天空を司るGの力。
黄天が持つ人間としての肉体と機能、そして知識。
龍王が持つあの巨体と自身の技、攻撃力、防御力。
そして三者の精神と魂が共に存在して、初めて出来た存在が"彼"なのである。
"彼"が翳した掌底からほとばしる稲妻にも似た金色の光線が、先程まで虐殺の加害者だった者たちを逆に殺戮の渦に陥れ、死に至らしめていた。
"引力光線"と呼ばれるそれが元来龍王自身が保有していた技である事を知るのは、この場には芙蓉と紺碧しかいない。
侮蔑の眼差しを向けるでもなく、その屍をあたかも路傍の石の如く無視し、そのまま再び歩み始める。
ロケットランチャーや榴弾が飛んで来ても翼でやんわりと弾き飛ばし、爆風や熱が間近から襲って来ても煽られて身体が傾ぐ事はあっても顔色一つ変える事は無い。
被害らしい被害は纏う服が相変わらずボロボロになっていき、煤や砂埃が顔や身体に掛かるくらいだろうか。
増援が到着している事はわかっている。
多少人数が増えたところで、殺意や戦闘意欲を他者から吸い取り己の力の糧とするGの能力により関係は無い。むしろ好都合の部類に入る。
しかし問題は、
「『面白いが厄介な時代になった事よな』」
その場にいずとも、遠く離れた場所――地球の裏側にいてもボタン一つ押すだけで攻撃出来る文明にまで人類が発展した事か。
まぁ、それでも黄天と龍王の戦闘意欲だけで充分お釣りが来るものではあったが。
ふと頭を上げ空、否それより遥か先を見据える。
監視衛星がこちらへ向かおうとしている、流石にこの状態で"黄天"が極めて好戦的な"G"だという物的証拠を残すのはマズイという分別と常識くらいは"彼"にもある。
むしろいつか言い逃れ出来ないような証拠を突き付け、宣戦布告してこないか等と果てしなく物騒な期待をしている。とてもじゃないが仮にも守護聖獣と呼ばれたモノの思考回路ではない。
「『もう終わりか?つまらないな』」
何の気なしに芙蓉たちがいる対岸へ"視線"をやると、人々が恐怖に戦いた表情でこちらを伺っていた。
遠すぎてこちらの様子をはっきりと認識してはいないだろうが、夕闇に覆われようとしているこの時間帯では、"彼"が纏う黄金色の光はさぞかし映える事であろう。
神々しさよりも、先程までの行動により異形の者への畏怖の方が強く感じられているようだが。
「『俺は神でもなければ正義の味方でもない』」
向けられて来る視線の多くには、他力本願という名の期待が多分に込められていた。
確かに遠い昔、"彼"は神と呼ばれていたが、それは彼が強大な力を有していたからであって、気まぐれで起こした行動が偶々その時"彼"を崇め奉った者たちにとって都合が良かったからに他ならない。
時と場所によっては悪魔と呼ばれたのもまた、事実なのだから。
己の役目、または宿主の信念や行動理由以外で"彼"は行動を起こさないのだから。
だから、今回も
「『俺みたいな外的要因を頼るな。
自分たちの事は自分たちの力で解決しろ』」
「苦しい時の神頼み」なんて許さない。
"彼"は自分の意思と力で己の道を切り開こうとする者しか認めない。
頑張ってやり抜いて精魂尽きるまで闘い抜けば、気が向いた時に手を貸すかもしれない。"彼"はそういうモノだった。
燻った苛立ちを力へと変換させる事で多少は気持ちが収まったらしい。
地平線に太陽が沈みきったその瞬間、黄金色の瞳は同色の睫毛によって覆われ、翼が一つ羽ばたいたかと思えば、金色の粒子を残してその姿は掻き消えてしまっていた―――――
※※※※※※※※※※※※
騒動から3日後、芙蓉の元に現れた人影があった。
「ここ、引き払うのか?」
目深に被った迷彩柄のパーカーから覗く瞳の色は、宇宙から見た地球を思わせる青。
「紺碧の能力を使っちゃってそろそろ騒がれ始めているしね」
「俺のせいか?」
荷造りを終えようとしている芙蓉に間髪入れずに問い掛ける声は、彼が眠っていた時間を差し引いた年齢より幼く聞こえた。
「違うわ。あれは私の意思でした事だもの」
渡河に成功した人々は、皆命を落とす事なく難民キャンプの仲間入りを果たしていた。
それは芙蓉に「助けたい」という思いと、本人に「生きたい」と思う心さえあれば完璧に治癒してしまう紺碧の能力によるもの。
「そういえば、貴方いろんな所から追いかけられているのねぇ」
ギクリと男の身体が硬直する。
あの後どこから聞き付けたのか、インターポールやらFBIやら、様々な国の"そういう機関"の方々がこちらへ押し寄せて来たのだ。
明らかに黄天を探して。
男――黄天は芙蓉を見つけるまでの間、実に様々な国で騒動を起こしていた。
"G"に対して多種多様な思惑や思想を持つ者たちから目をつけられる程度には。
「迷惑かけたな。そんな一言じゃ済まないくらいに」
黄は既にもはや人間ではなくなっている。
南極でのあの瞬間から10年掛けて黄昏の能力、そして龍王の肉体と同化した。
"彼"がした事は確かに黄の意思でもあった。
「これからどうするの?」
「また気ままに旅を続けるさ。
その内また日本に行こうと思ってっけど」
最後の聖獣である大地の婆羅護吽。
現在どのような姿や思考をしているか定かではないが、少なくとも目覚める場所が日本だという事は推察出来る。
「そう…」
「ま、"来るべき時"が来るまでは"俺"のままでいるさ」
爽やかとは程遠い笑顔を浮かべる。
「ま、何かあったら俺を呼べ。
必ず助けてやっからよ」
芙蓉の褐色の髪をグシャグシャと掻き回し「再見(またな)」と呟くと、黄金色の粒子を残しただけで黄の姿は忽然と掻き消えてしまっていた。
そこにいたのは確かに黄だった。
絶対に間に合うような距離にいなかった筈だとか、芙蓉たちに当たる筈だった銃弾をその身に受けた筈だとか、そんな事よりも(いや全く"そんな事"ではないのだが)奇異な光景が眼前に広がっている。
ただでさえ長身の身体は明らかに不自然な場所に――川面ギリギリの空間に"立ち"
怒りが具現化したようなオーラを纏い――陽が沈みかけている中に幻想的にすら見えるそれは、黄金色の粒子の姿
極めつけは、その広い背中に生えた純金の翼――鳥のような羽ではなく、虫のような翅でもなく、蝙蝠や翼竜が持つような皮膜だった
「ホ…」
「『そいつらをとっとと連れて行け。これぐらいの事、任されてやる』」
振り向いた瞳は金色(こんじき)に輝き、それはそれは楽しそうで嬉しそう、平たく言えば悪役面の真っ黒い笑みを浮かべていた。
身体に当たった銃弾が体内に入り込む事なく水面に落ちていくのを、金色の瞳で冷たく見据える。
黄が"知っている"スペイン語が対岸から聞こえ、そちらへと歩き出す。
川面ではない、彼が歩いているのは水面から僅か10㎝程上の空中だった。
「化け物」や「Gだ」等と叫んで銃撃を浴びせ掛けられたが、抵抗も防御もする事もない。全て皮膚に当たった時点で跳ね返っていた。
冷ややかすぎる視線を与える事すら馬鹿らしいとでも言うように、冷笑を湛えながら歩み続けた。
進むにつれて、銃弾で撃ち抜かれた死体が前方に浮いているのが目に入る。
「『やはり人間とは度し難い生き物よな…』」
何の感情も浮かべない瞳が、文字通り屍山血河の中にかろうじて息をしている者――瀕死の重傷を負い、周りの死体の仲間入りを果たそうとしている子供が映った。
その子供の目の前でピタリと足を止める。
「『子供、生きたいか?
生きて何とする?ただ安寧の地を求めて、大人や他人の手を借りて存在するだけか?
何とも虚しい人生よな、それは』」
嘲るような酷薄な笑みと台詞を浴びせると、蚊の鳴くような掠れた声が聞こえた。
「生きたい。
生きて強くなって家族や皆の仇を取りたい!
僕らの国がいつか平和になるように頑張りたい!!
ここで何も出来ないまま死ぬなんて嫌だ!!!」
「『よく行った子供。
気まぐれで少しだけ手を貸してやろう』」
黄昏の腕が、水面から子供を引き上げる。と、一瞬にして子供の姿が掻き消えた。
その状況を正確に理解しえたのは芙蓉だけだったろう。何故なら、彼女の元に一瞬にしてその子供が移動していたのだから。
"天空"を司る力は確かに黄昏のものだ。
だが彼の背中に生えている翼は、芙蓉にも見覚えがあった。
それは僅か15年前まで南極にて氷漬けきされていた、龍王のソレに酷似していた。
「『黄天の中に"力"が入った時、以前の器とその本来の持ち主も取り込んだ。
つまり、"俺"が黄昏(G)の能力、そして黄天(人間)の能力を使えるように、あの龍王(怪獣)の能力を使えるって事だ』」
対岸――ロリシカ領内に到達した頃には、纏っていた服はボロボロになっていた。
だが、破れた服の隙間から見える皮膚は既に人のモノではない。
髪と瞳、そして背中の翼と同じ、純金の色をした鱗と化していた。
例え砲弾やミサイルを撃ち込まれても傷一つ付かない鱗で全身を覆われていては、注射針やメス等がたちうち出来る筈がない。
「『最近身体が鈍って仕方なかったんだ、丁度いい、肩慣らしに手伝って貰おうか』」
"彼"の力は彼だけのモノではなかった。
黄昏が持つ天空を司るGの力。
黄天が持つ人間としての肉体と機能、そして知識。
龍王が持つあの巨体と自身の技、攻撃力、防御力。
そして三者の精神と魂が共に存在して、初めて出来た存在が"彼"なのである。
"彼"が翳した掌底からほとばしる稲妻にも似た金色の光線が、先程まで虐殺の加害者だった者たちを逆に殺戮の渦に陥れ、死に至らしめていた。
"引力光線"と呼ばれるそれが元来龍王自身が保有していた技である事を知るのは、この場には芙蓉と紺碧しかいない。
侮蔑の眼差しを向けるでもなく、その屍をあたかも路傍の石の如く無視し、そのまま再び歩み始める。
ロケットランチャーや榴弾が飛んで来ても翼でやんわりと弾き飛ばし、爆風や熱が間近から襲って来ても煽られて身体が傾ぐ事はあっても顔色一つ変える事は無い。
被害らしい被害は纏う服が相変わらずボロボロになっていき、煤や砂埃が顔や身体に掛かるくらいだろうか。
増援が到着している事はわかっている。
多少人数が増えたところで、殺意や戦闘意欲を他者から吸い取り己の力の糧とするGの能力により関係は無い。むしろ好都合の部類に入る。
しかし問題は、
「『面白いが厄介な時代になった事よな』」
その場にいずとも、遠く離れた場所――地球の裏側にいてもボタン一つ押すだけで攻撃出来る文明にまで人類が発展した事か。
まぁ、それでも黄天と龍王の戦闘意欲だけで充分お釣りが来るものではあったが。
ふと頭を上げ空、否それより遥か先を見据える。
監視衛星がこちらへ向かおうとしている、流石にこの状態で"黄天"が極めて好戦的な"G"だという物的証拠を残すのはマズイという分別と常識くらいは"彼"にもある。
むしろいつか言い逃れ出来ないような証拠を突き付け、宣戦布告してこないか等と果てしなく物騒な期待をしている。とてもじゃないが仮にも守護聖獣と呼ばれたモノの思考回路ではない。
「『もう終わりか?つまらないな』」
何の気なしに芙蓉たちがいる対岸へ"視線"をやると、人々が恐怖に戦いた表情でこちらを伺っていた。
遠すぎてこちらの様子をはっきりと認識してはいないだろうが、夕闇に覆われようとしているこの時間帯では、"彼"が纏う黄金色の光はさぞかし映える事であろう。
神々しさよりも、先程までの行動により異形の者への畏怖の方が強く感じられているようだが。
「『俺は神でもなければ正義の味方でもない』」
向けられて来る視線の多くには、他力本願という名の期待が多分に込められていた。
確かに遠い昔、"彼"は神と呼ばれていたが、それは彼が強大な力を有していたからであって、気まぐれで起こした行動が偶々その時"彼"を崇め奉った者たちにとって都合が良かったからに他ならない。
時と場所によっては悪魔と呼ばれたのもまた、事実なのだから。
己の役目、または宿主の信念や行動理由以外で"彼"は行動を起こさないのだから。
だから、今回も
「『俺みたいな外的要因を頼るな。
自分たちの事は自分たちの力で解決しろ』」
「苦しい時の神頼み」なんて許さない。
"彼"は自分の意思と力で己の道を切り開こうとする者しか認めない。
頑張ってやり抜いて精魂尽きるまで闘い抜けば、気が向いた時に手を貸すかもしれない。"彼"はそういうモノだった。
燻った苛立ちを力へと変換させる事で多少は気持ちが収まったらしい。
地平線に太陽が沈みきったその瞬間、黄金色の瞳は同色の睫毛によって覆われ、翼が一つ羽ばたいたかと思えば、金色の粒子を残してその姿は掻き消えてしまっていた―――――
※※※※※※※※※※※※
騒動から3日後、芙蓉の元に現れた人影があった。
「ここ、引き払うのか?」
目深に被った迷彩柄のパーカーから覗く瞳の色は、宇宙から見た地球を思わせる青。
「紺碧の能力を使っちゃってそろそろ騒がれ始めているしね」
「俺のせいか?」
荷造りを終えようとしている芙蓉に間髪入れずに問い掛ける声は、彼が眠っていた時間を差し引いた年齢より幼く聞こえた。
「違うわ。あれは私の意思でした事だもの」
渡河に成功した人々は、皆命を落とす事なく難民キャンプの仲間入りを果たしていた。
それは芙蓉に「助けたい」という思いと、本人に「生きたい」と思う心さえあれば完璧に治癒してしまう紺碧の能力によるもの。
「そういえば、貴方いろんな所から追いかけられているのねぇ」
ギクリと男の身体が硬直する。
あの後どこから聞き付けたのか、インターポールやらFBIやら、様々な国の"そういう機関"の方々がこちらへ押し寄せて来たのだ。
明らかに黄天を探して。
男――黄天は芙蓉を見つけるまでの間、実に様々な国で騒動を起こしていた。
"G"に対して多種多様な思惑や思想を持つ者たちから目をつけられる程度には。
「迷惑かけたな。そんな一言じゃ済まないくらいに」
黄は既にもはや人間ではなくなっている。
南極でのあの瞬間から10年掛けて黄昏の能力、そして龍王の肉体と同化した。
"彼"がした事は確かに黄の意思でもあった。
「これからどうするの?」
「また気ままに旅を続けるさ。
その内また日本に行こうと思ってっけど」
最後の聖獣である大地の婆羅護吽。
現在どのような姿や思考をしているか定かではないが、少なくとも目覚める場所が日本だという事は推察出来る。
「そう…」
「ま、"来るべき時"が来るまでは"俺"のままでいるさ」
爽やかとは程遠い笑顔を浮かべる。
「ま、何かあったら俺を呼べ。
必ず助けてやっからよ」
芙蓉の褐色の髪をグシャグシャと掻き回し「再見(またな)」と呟くと、黄金色の粒子を残しただけで黄の姿は忽然と掻き消えてしまっていた。