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芙蓉と再会してから一週間、黄はまだ難民キャンプに滞在していた。
芙蓉が参加していた外国からの支援活動――流石に医療行為は無理だが、物資や食糧の配給を手助けしたり、独自(勝手にとも言う)に難民たちに力仕事の手伝いをしたり、言葉も通じていない子供たちの遊び相手になったりと、気ままに過ごしていた。
最初は胡散臭いと遠巻きにしていた大人たちも、真っ先に子供たち――親を内戦や越境で失った子まで――が懐いた様子を見て徐々に態度が軟化し、今ではすっかり受け入れてしまっている。
海外支援のグループまで懐柔させた事に最初は芙蓉も驚いていたが、初日の夜に聞いた黄の能力を考えれば納得も出来る。
黄は10年前のあの時、黄金の光――魏怒羅の力に呑まれ、現在で言う"G"になった。
元々"巫師"としての素養があったのだろうとは桐生教授の言である。
そして滅多に事例が無いらしいが、複数の能力を持っていた。
一つ目は"天空"の力。
何にも遮られる事の無い場所であれば遺憾無く能力を発揮でき、逆に密閉された空間では能力が著しく制限されるというもの。
二つ目は"浸透"の力。
上の条件下で生者の心――欲を奪い取り自分の力とするもの。
但し攻撃的な欲望に限り、更に己の欲望が希薄になるという後遺症有。
三つ目は"攻撃"の力。
上の能力で得た力で己の肉体を活性化させ、文字通り攻撃力へと転換させる力。
二つ目と三つ目が魏怒羅の力らしい。
そして"巫師"の力。
女性の場合は巫子という呼ばれ方をするこの能力は少なからず他にもいるらしいが(現に芙蓉もそうだ)、そんなトリビアはともかく置いといて。
その潜在的に持っていた能力のせいで、あの時消滅する筈だった金色のドラゴンをこの身体の中に吸収してしまったらしい。
つまりあの金色のドラゴンはただの器であって、=魏怒羅ではないらしい。
………まぁ、結局巫師の能力でその"魏怒羅"も吸収してしまったらしいので、いわば黄は魏怒羅にとって金色のドラゴンの立ち位置にいる事になるが。
"魏怒羅"、"最珠羅"、"婆羅護吽"、そして"呉爾羅"は、元来肉体を持たぬいわば精神体が本体なのだという。
魂すら持たぬ"能力(G)"の結晶のようなモノなのだと。
実体が無い故に悠久の時に存在し、遥か彼方――それこそ無限の宇宙の果てまで行く事が出来る。
だが逆に、彼らがその膨大なる能力を使うにはある条件が存在する。
それは皮肉な事に、彼らが彼ら自身の過去に置き去りにしたモノ――"肉体"と"魂"であった。
それが以前は偶然か必然か、4人共選んだ肉体が怪獣だった。
現在は、判明している限りでは2人が人間――黄と芙蓉の肉体と魂を器としている。
そして彼らが精神体であるという事は即ち………
『貴女がこやつの器か、はじめまして』
「あ、はい、はじめましてこんにちは」
【貴殿が彼の……………苦労したでしょうね】
「気持ちはわかるが遠い目すんのやめろぉぉおおおおっっっ!!!泣きたくなって来るから!!」
能力であり存在そのものであり心(精神)である2人の"G"は、自我を有して体内に共生していた。
傍から見たら二重人格か独り言にしか見えない切なさはあるが。
因みに彼らが新たな肉体を求めて解放された瞬間に最も適した"巫師(子)"の身体に憑依すると相場が決まっていた為、例えあの場にいなくても同じ状況下にあったであろうというのは、最珠羅の言だ。
一週間前再会したその時、情報交換の際に区別する為に、それぞれに"黄昏"と名付けられた魏怒羅、そして"紺碧"と名付けられた最珠羅が黄と芙蓉にそれぞれ挨拶をした。
テレパシーのようなもので黄昏たちと会話する事も出来るが(当然ながら他の人には聞こえない)、宿主たる2人の身体を借りて表に出て来る事も出来る。
その際、否それも含めて、彼らの能力を使う時、黄の場合は黄金に、芙蓉の場合は青藍へと瞳の色が変化するのだ。
「そういえば、なんでお前らは"そう"なったんだ?」
ほぼ完全に強制で、しかも事後承諾だった黄たちとは違い、芙蓉は最初からこの状況を受け入れているように見える。
「たまたま仕事で訪れた先がね、"インファント島"だったのよ」
"守護神"の伝説が残る最南端の島。
そこで御神体を見付けた時から、彼女の運命の歯車は回り始めた―――――