本文
目が覚めたら、10年の歳月が流れてました(はぁと)
「って、信じられっかぁぁあああああっっっ!!!!!」
とは、2020年1月17日、10年の昏睡状態から目覚めた黄天の第一声である。
10年間も寝たきりだったとはとても思えない勢いでベッドから飛び降り、たまたま見つけた鏡を見てまたもや絶叫する。
「ぬぁんじゃこりゃぁぁあああああああっっっ??!!!」
鏡に映っていたのは漆黒だった筈の髪がキンキラキンになり、説明が正しければ40歳になっていなければならない筈の(元は30歳)、どう頑張っても20代半ばに見えれば御の字の青年――黄天の姿がそこにあったのだから。
※※※※※※※※※※※※
なんとか冷静になった頃にされた説明によると、あの棚氷の崩落後、黄は"この姿"で発見されたのだという。
東斗も当然捜索されたが、結局見つける事は出来なかったらしい。
身体の異変はそれだけではなかった。
10年間、今のJRA(違う)だかいう会社に所属する研究棟(最初は病院だと説明されたが)の一室にいたらしいのだが、生命維持の為に点滴を刺そうとしても針が刺さらず、傷を付けるどころか髪の毛一本すら抜く事が出来なかったという。
髪も爪も伸びず、垢すら出ない。流動食すら受け付けないのに眠ったまま生き続ける。
完全なる"不変"の存在――さぞかしいい標本だった事だろう。
まぁ、解剖したくても出来なかったようだが。
昔だったら超能力者だとか魔術師だとか呼ばれていた人間や、UMA(未確認生物)や怪物、怪奇現象の一言で片付けられたであろう事があの時を契機に"G"と呼ばれるようになった事も知らされた。
そして黄自身の身体の変化もそのG――というか南極で発見された例のアレだと結論づけられていたが。
因みにあの2頭は棚氷の崩落と共に何処かに消失していた。
ある意味とんでもない置き土産を残して。
棚氷の崩落の瞬間、膨大なエネルギーの放出と共に、地球温暖化によって溶けた氷とフロンガスによって開いたオゾンホールが再生、復活したのだ。
それだけではない、例の場所を中心とした半径100m内の大地・大気・海洋における"人間による"汚染が全て浄化――否、消失していたのだ。
そしてその後の調査でやはり原因はあの2体の怪獣ではないか、という結論に至った。
それを知らされた翌日、黄天は研究所から姿を消した―――――
※※※※※※※※※※※※
「モルモットにされるって判りきっているのに残る馬鹿が何処にいる」
芙蓉にこれまでの経緯を聞かれ、きっぱりと断言する黄。
今年の10月で45歳になる筈の男の姿は、25歳に若返った5年前から全く変わっていない。
人間の三大欲求(食欲・睡眠欲・性欲)が失われた身体は反面、どんな環境にも適応出来るが、先立つ物とパスポートが使えなければ国外逃亡すら事実上不可能だった。
他に事情を知った上で協力を仰げる人間は一人しか思い浮かばなかった。
そもそも南極に行く最大の原因となった人物、桐生篤之教授しか。
10年の間に大学を辞め、過去にも確かに存在していたGを、知らずに研究を行っていた実績を買われ、黄がいた研究機関とは別の機関に顧問として所属しているらしい。
余談だが現在の研究テーマは"四神"と"アトランティス"だとか。
突然現れた(しかも容姿が変わり若返った)元・教え子に彼は驚かなかった。ある程度は予想していたのだろう。
そして黄の身に何が起こったのか、起こっているのか、本人よりも詳しく知っていたのもまた、彼だったのである。
あの時南極に行ったのは、ある南太平洋の島々に伝わる伝説もきっかけの一つだった。
南太平洋の島々の原住民が守護神という意味で使う単語と、護国聖獣の一翼を担う水を司るモノ。それが全く同じ名前と姿を持つモノだったのである。
そして"守護神"に関する島々に伝わる伝説がほぼ同じ内容である事、
南下するに従って壁画等にしるされた年代が、日本の護国聖獣伝説の約2千年前を基準に、4千年、6千年…と2千年おきに伝わっている事、
守護神の伝説はインファント島という絶海の孤島までしか無かったが、以南の島々でなお、似たような伝承がやはり2千年毎に伝わっている事、
その伝説の内容が、護国聖獣伝説のように(但し最珠羅と婆羅護吽に該当するモノは伝えられていなかった)金色の光と漆黒の闇を象徴する二つのモノが、時に全てを滅ぼし尽くす勢いで殺し合い――戦い合う、ではなくだ――守護神が甚大な被害を受けた環境の傷跡を浄化する、という事、
妥当に考えれば最南端の島から伝説が派生し、2千年ずつ時間をかけて新たな島へと伝説が北上して伝わっていき、その過程で多少脚色されて伝説に最珠羅と婆羅護吽が追加されたであろう事、
最初は南極であの2頭と出会った時、その解釈に確信を持ち、ここから伝説が始まったのだと判断した事、
そして真実が実は真逆であった事を、黄が眠っている間現れた当事者であり第三者に教えて貰った事を、桐生教授から聞く事が出来た。
結論から先に言うと、2000年前の日本が最初の土地だった。
そこにいたのは、確かに4頭の怪獣――魏怒羅、最珠羅、婆羅護吽、そして伝説に破壊神として記されているあの呉爾羅と名付けられた怪獣だった。
だがこの時の戦闘で婆羅護吽が戦線から離脱し、以降の伝説から姿を消してしまう。
ここで特筆すべきなのは、呉爾羅が時空を越える能力を持っていた事だ。
己だけではなく魏怒羅と最珠羅も巻き込み、死闘を繰り広げながら2000年の時間とほんの少し南へと空間を移動し、それを幾度も幾度も繰り返した。
魏怒羅と呉爾羅の闘いは災厄として伝えられ、後始末をしながら二頭を追いかけ続けた最珠羅が守護神(モスラ)として伝えられた。
だが途中、最珠羅の肉体が限界と寿命を訴え、こちらも戦線離脱してしまう。
それでもなお、戦闘を止めない二頭が辿り着いたのは、南極。
飛び越えた時間は3万8000年、現代から数えて丁度4万年前の過去。
双方共に力は十二分に残っていたが、幾度も繰り返した無茶なタイムトラベルと激しい戦闘により、肉体はボロボロ、限界を訴えていた。
彼らにとって、肉体の死はなんの問題もなかった。
魂魄すら持たない、自我(精神)=力である彼らにとって、肉体とはそれを収め、高め、扱う器に過ぎなかったのだから。
だがしかし、だからこそ、力が残っている内に、魏怒羅は呉爾羅を天然の牢獄ーー氷河へと封じ込めた。
己の肉体と共にーーーーー
5万年は有に極寒の地に閉じ込められている筈だった。
予定より1万年早く氷解したのは、偏に人間が起こした地球温暖化という名の外的要因によるモノである。
※※※※※※※※※※※※
「教授にその説明をしたのが、南極調査隊メンバーの一人だって教えて貰った。
誰かまでは教えてくれなかったから、しらみつぶしに探して回ったんだ」
会話している内にとっぷり日も暮れて、焚火を囲みながら黄は芙蓉に一枚の写真を渡す。
探査船上で迎えた2010年の元旦、ニューイヤーパーティーの折に撮影した集合写真。
桐生教授に貰ったというそれは当然黄と芙蓉も写っており、内半数近くの被写体の顔にペンで丸が描かれていた。探しだし確認した証拠なのだろう。
「…どうして私だと思ったの?」
「まぁ実際に会ってみるまで確証は無かったけどよ。
当事者って事は4人の内誰か、呉爾羅と魏怒羅は南極にいたアレだとすると、残りの最珠羅か婆羅護吽。
お前らしき人物が伝説に記された最珠羅が使ったとされる能力を使ってるって噂を聞いたんでな」
「偶然似たような力を持つ能力者だとは思わなかったの?」
黄は一瞬キョトンとした表情をした後、わざと作った人の悪い笑みを浮かべる。
「わかるさ、俺も同類らしいからな」
「って、信じられっかぁぁあああああっっっ!!!!!」
とは、2020年1月17日、10年の昏睡状態から目覚めた黄天の第一声である。
10年間も寝たきりだったとはとても思えない勢いでベッドから飛び降り、たまたま見つけた鏡を見てまたもや絶叫する。
「ぬぁんじゃこりゃぁぁあああああああっっっ??!!!」
鏡に映っていたのは漆黒だった筈の髪がキンキラキンになり、説明が正しければ40歳になっていなければならない筈の(元は30歳)、どう頑張っても20代半ばに見えれば御の字の青年――黄天の姿がそこにあったのだから。
※※※※※※※※※※※※
なんとか冷静になった頃にされた説明によると、あの棚氷の崩落後、黄は"この姿"で発見されたのだという。
東斗も当然捜索されたが、結局見つける事は出来なかったらしい。
身体の異変はそれだけではなかった。
10年間、今のJRA(違う)だかいう会社に所属する研究棟(最初は病院だと説明されたが)の一室にいたらしいのだが、生命維持の為に点滴を刺そうとしても針が刺さらず、傷を付けるどころか髪の毛一本すら抜く事が出来なかったという。
髪も爪も伸びず、垢すら出ない。流動食すら受け付けないのに眠ったまま生き続ける。
完全なる"不変"の存在――さぞかしいい標本だった事だろう。
まぁ、解剖したくても出来なかったようだが。
昔だったら超能力者だとか魔術師だとか呼ばれていた人間や、UMA(未確認生物)や怪物、怪奇現象の一言で片付けられたであろう事があの時を契機に"G"と呼ばれるようになった事も知らされた。
そして黄自身の身体の変化もそのG――というか南極で発見された例のアレだと結論づけられていたが。
因みにあの2頭は棚氷の崩落と共に何処かに消失していた。
ある意味とんでもない置き土産を残して。
棚氷の崩落の瞬間、膨大なエネルギーの放出と共に、地球温暖化によって溶けた氷とフロンガスによって開いたオゾンホールが再生、復活したのだ。
それだけではない、例の場所を中心とした半径100m内の大地・大気・海洋における"人間による"汚染が全て浄化――否、消失していたのだ。
そしてその後の調査でやはり原因はあの2体の怪獣ではないか、という結論に至った。
それを知らされた翌日、黄天は研究所から姿を消した―――――
※※※※※※※※※※※※
「モルモットにされるって判りきっているのに残る馬鹿が何処にいる」
芙蓉にこれまでの経緯を聞かれ、きっぱりと断言する黄。
今年の10月で45歳になる筈の男の姿は、25歳に若返った5年前から全く変わっていない。
人間の三大欲求(食欲・睡眠欲・性欲)が失われた身体は反面、どんな環境にも適応出来るが、先立つ物とパスポートが使えなければ国外逃亡すら事実上不可能だった。
他に事情を知った上で協力を仰げる人間は一人しか思い浮かばなかった。
そもそも南極に行く最大の原因となった人物、桐生篤之教授しか。
10年の間に大学を辞め、過去にも確かに存在していたGを、知らずに研究を行っていた実績を買われ、黄がいた研究機関とは別の機関に顧問として所属しているらしい。
余談だが現在の研究テーマは"四神"と"アトランティス"だとか。
突然現れた(しかも容姿が変わり若返った)元・教え子に彼は驚かなかった。ある程度は予想していたのだろう。
そして黄の身に何が起こったのか、起こっているのか、本人よりも詳しく知っていたのもまた、彼だったのである。
あの時南極に行ったのは、ある南太平洋の島々に伝わる伝説もきっかけの一つだった。
南太平洋の島々の原住民が守護神という意味で使う単語と、護国聖獣の一翼を担う水を司るモノ。それが全く同じ名前と姿を持つモノだったのである。
そして"守護神"に関する島々に伝わる伝説がほぼ同じ内容である事、
南下するに従って壁画等にしるされた年代が、日本の護国聖獣伝説の約2千年前を基準に、4千年、6千年…と2千年おきに伝わっている事、
守護神の伝説はインファント島という絶海の孤島までしか無かったが、以南の島々でなお、似たような伝承がやはり2千年毎に伝わっている事、
その伝説の内容が、護国聖獣伝説のように(但し最珠羅と婆羅護吽に該当するモノは伝えられていなかった)金色の光と漆黒の闇を象徴する二つのモノが、時に全てを滅ぼし尽くす勢いで殺し合い――戦い合う、ではなくだ――守護神が甚大な被害を受けた環境の傷跡を浄化する、という事、
妥当に考えれば最南端の島から伝説が派生し、2千年ずつ時間をかけて新たな島へと伝説が北上して伝わっていき、その過程で多少脚色されて伝説に最珠羅と婆羅護吽が追加されたであろう事、
最初は南極であの2頭と出会った時、その解釈に確信を持ち、ここから伝説が始まったのだと判断した事、
そして真実が実は真逆であった事を、黄が眠っている間現れた当事者であり第三者に教えて貰った事を、桐生教授から聞く事が出来た。
結論から先に言うと、2000年前の日本が最初の土地だった。
そこにいたのは、確かに4頭の怪獣――魏怒羅、最珠羅、婆羅護吽、そして伝説に破壊神として記されているあの呉爾羅と名付けられた怪獣だった。
だがこの時の戦闘で婆羅護吽が戦線から離脱し、以降の伝説から姿を消してしまう。
ここで特筆すべきなのは、呉爾羅が時空を越える能力を持っていた事だ。
己だけではなく魏怒羅と最珠羅も巻き込み、死闘を繰り広げながら2000年の時間とほんの少し南へと空間を移動し、それを幾度も幾度も繰り返した。
魏怒羅と呉爾羅の闘いは災厄として伝えられ、後始末をしながら二頭を追いかけ続けた最珠羅が守護神(モスラ)として伝えられた。
だが途中、最珠羅の肉体が限界と寿命を訴え、こちらも戦線離脱してしまう。
それでもなお、戦闘を止めない二頭が辿り着いたのは、南極。
飛び越えた時間は3万8000年、現代から数えて丁度4万年前の過去。
双方共に力は十二分に残っていたが、幾度も繰り返した無茶なタイムトラベルと激しい戦闘により、肉体はボロボロ、限界を訴えていた。
彼らにとって、肉体の死はなんの問題もなかった。
魂魄すら持たない、自我(精神)=力である彼らにとって、肉体とはそれを収め、高め、扱う器に過ぎなかったのだから。
だがしかし、だからこそ、力が残っている内に、魏怒羅は呉爾羅を天然の牢獄ーー氷河へと封じ込めた。
己の肉体と共にーーーーー
5万年は有に極寒の地に閉じ込められている筈だった。
予定より1万年早く氷解したのは、偏に人間が起こした地球温暖化という名の外的要因によるモノである。
※※※※※※※※※※※※
「教授にその説明をしたのが、南極調査隊メンバーの一人だって教えて貰った。
誰かまでは教えてくれなかったから、しらみつぶしに探して回ったんだ」
会話している内にとっぷり日も暮れて、焚火を囲みながら黄は芙蓉に一枚の写真を渡す。
探査船上で迎えた2010年の元旦、ニューイヤーパーティーの折に撮影した集合写真。
桐生教授に貰ったというそれは当然黄と芙蓉も写っており、内半数近くの被写体の顔にペンで丸が描かれていた。探しだし確認した証拠なのだろう。
「…どうして私だと思ったの?」
「まぁ実際に会ってみるまで確証は無かったけどよ。
当事者って事は4人の内誰か、呉爾羅と魏怒羅は南極にいたアレだとすると、残りの最珠羅か婆羅護吽。
お前らしき人物が伝説に記された最珠羅が使ったとされる能力を使ってるって噂を聞いたんでな」
「偶然似たような力を持つ能力者だとは思わなかったの?」
黄は一瞬キョトンとした表情をした後、わざと作った人の悪い笑みを浮かべる。
「わかるさ、俺も同類らしいからな」