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2009年の8月、昔の恩師に呼ばれ、およそ5年振りに黄は日本に降り立った。
元々は名前を見ればわかるように中国人で、香港の大学に通っていたのだが(その時は黒髪だった)、3年生の時に半年間、交換留学生として日本の大学に在籍していたのである。

「スミマセン聞き間違えた可能性があるのでもう一度言っていただけますか?」
「研究調査の為に南極に行くから君にも同行して欲しい」

ぶっちゃけ直接講義を受けたのは数える程しか無いが、興味本位でちょくちょく顔を出していた考古学教室の教授(因みに以前は助教授だった)である桐生篤之氏に突然言われ、不覚にも硬直してしまった。
考古学の研究と南極がどうしても繋がらなくて、脳内はプチパニック状態だった。
黄の職業はこれでも傭兵をやっているので、警護として参加する事には何の問題も無いが、頭を捻り出してから正味5分後、ようやく教授の研究内容を思い出した。



それは《有史以前に痕跡を残す怪物たち》―――――

つまり伝説や神話に登場する怪物の存在証明だとか何だとか。


例えばスフィンクスやケルベロス、ドラゴンや東洋の龍、日本で言えばヤマタノオロチ等々…

伝説等を鵜呑みにせず、多少誇張や尾鰭背鰭が付いている事を前提に、怪物として後世に伝えられた何か、その正体を探る事を目的として研究しているのだ。




その研究内容の中で何故か南極に行く羽目になった原因は日本の古い神話(聞けば日本神話より古いらしい)、"護国聖獣"が関わっているらしい。
黄も学生時代講義で習った筈だが、如何せん一度きりだったのでぶっちゃけよく覚えていない。
そんな彼に桐生教授が説明したところによると、



黄金色に光り輝く龍王、魏怒羅。
夜空に舞う極彩色の虫、最珠羅。
地底に潜む紅蓮の狗、婆羅護吽。

それぞれ天、水(海)、大地を司り、闇(魔)がこの世現れる時顕現し、それを討ち祓うのだという。


調べて行く内に、似たような伝説が他にも(主に南太平洋に)存在し、それを辿って行く内に南極という極論が出たらしい。

そして三ヶ月後の文化の日、天然資源調査団と環境学術調査団という異色の(というかありえない)組み合わせで構成された南極探査隊に同行する形で出発したのである。

当時はまだ駆け出しだったが医師として同行した三島芙蓉と、黄天が出会ったのは出発する直前だった。




共にいたのは三ヶ月にも満たないが、悪友と呼べるまでの関係になった相手もいる。
名前は東斗。
細身だが190㎝はある長身の持ち主で、漆黒の髪と瞳。端正な顔立ちは名前からの先入観からかアジア系に見えるが日本人と断言は出来ない。むしろ何処の国に行っても自然と溶け込めそうな雰囲気を醸し出していた。
黄と同じように警護として参加していたが、それ以外の素性を全くもって語ろうとしなかった。

毎日顔を合わせる度に喧嘩、殴り合い、器物破損etcetc…
別に嫌いだったとか反りが合わなかったとかそういう事ではなく、暴れr…じっとしていられる性分ではなく身体を動かす事が黄も東斗も好きだった、そんな子供みたいな理由が大部分を占めていたが。



他のメンバーやクルーとも打ち解け、船上で年を越し(派手な花火大会をしてキャプテンに叱られた)南極大陸に到達したのが2010年1月。
そこで彼らはとんでもないモノを発見する―――――





南極の透明度の高い氷に閉じ込められた2頭の巨獣。



一方は全身を漆黒の鱗で覆われ鋭い爪と牙を持つ、直立二足歩行型の恐竜。

もう一方は逆に全身金色だったが、まるで西洋の伝説に出て来るようなドラゴンとしか形容のしようがない姿をしていた。



三つ首・一対の翼、二本の足と尾…



「天の聖獣、"魏怒羅"…」
茫然と呟く教授の言葉に誰も反論出来なかった。
何故なら、ドラゴンの姿があまりにも"護国聖獣伝記"に記されていた姿と寸分違わぬ物だったから。



メンバーの一人の興奮気味な声によって15分間の放心状態から抜け出した。
黒い恐竜の方が、1930年代後半に初めてインドで発掘されたゴジラザウルスの化石に骨格が似てると言うのだ(どうもその彼は恐竜マニアだったらしい)。



その日は(白夜だったが)時間も遅いという事で宿営地に戻り、調査は翌日改めて、という事になった。
宿営地に帰る際写真を撮り、世紀の大発見に名前が無いと不便だという事で、桐生教授が第一発見者代表という事で二頭に名前を付けた。



黒い恐竜にはゴジラザウルスから拝借して

MonsterKing‐Godzilla
怪獣王 ゴジラ


金色のドラゴンには聖獣から取って

DoragonKing‐Gidorah
龍王 キングギドラ





後にこの怪獣たちの頭文字から、世界中に出現する異能を持つモノを、"G"と呼ぶようになる。




その日の夜、何故か眠れずに黄は巨獣たちの元へと行った。あたかも何か呼び寄せられたかのように。
だがそこには先客――東斗がいた。
「何やってんだ?」
「俺はコイツを探してここまで来たんだ」
振り返りもせずに、喜悦と哀愁がないまぜになった複雑な表情を浮かべた東斗の視線の先には、黒い恐竜がいた。

恐竜と言うにはあまりに巨大で(目測でも最低50mはあった)、まがまがしささえも感じられるその造形は、彼等が氷漬けにされた年代を考えると馬鹿馬鹿しい限りだが、あたかも原水爆のキノコ雲を連想させる。

「ってお前、コレがここにある事知ってたのかよ?!」
ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!!


返事は聞く事が出来なかった。
物凄い轟音と共に棚氷が崩落し、2人もそれに巻き込まれたのだから。

黄が最後に見た光景は、巨獣が覆われた氷の崩落、
氷の亀裂に落ちて行く友人、
そして自分に向かって迫り来る黄金の光の渦だった―――――




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