短編 大自在天

そこにいたのは背の高い赤毛赤眼の男だった。
味方である筈のミステイカーすら巻き込み、殺戮を欲しいままにする男。
その動きを止めたのが人の肉体に怪獣の力を内包した男だったのは、皮肉と言うしかないだろう。

ドゴォォォォォッッッ!!!!!
「おっしゃあ、ストライク!!」

両断されて鉄屑と化していた装甲車を投げ付けた黄は、思わずポカンと目と口を開けて自分を見る相手に、へらりと笑って手を振って見せた。
「あーどもども、自衛隊の加勢に来たんで、そこんとこヨロシクー」


「デストロイアの複製人間?」
快く(不承不承)自衛隊の隊員から伝えられたのは、先程文字通りぶっ飛ばした男――Dの情報だった。
眉根を寄せる様に、まさか不利だとか無理だとか言いだすのでは、と周囲に嫌な予感が過るが、黄の返答は予想の斜め後ろを行っていた。
「……………デストロイアって何だ?」


黄は2010年から10年間、黄昏、そして魏怒羅の器として身体を書き換える為、昏睡状態に陥っていた。
それは言い替えれば、Gが発見されてからの10年間をリアルタイムで体験しなかった、という事にも繋がる。
恩師である桐生教授を筆頭に、様々な相手からその10年間の間に出現したGを説明されたが、正直全部なんて覚えている訳がない。
そして2020年以降も勝手気儘に世界中のあちこちを(文字通り)飛び回っていた為、『世界初のG』であるにもかかわらず、Gに対する知識幅は実は狭い。
これはその顕著な例だろう。
………笑えないこと甚だしいが。


「Destroyerっていうくらいだから、何となく能力については想像つくんだが」
酸素原子を崩壊させる、そのエネルギーをぶつける事であらゆるモノを破壊する、それが怪獣・デストロイアの能力である。
熱への耐性や無効化、どころか吸収し己のエネルギーとし活性化する性質を持つが故に、通常の火器類が一切通用しない相手。
赤毛の男は、そんなとんでも能力を持つ怪獣の力と特性を持ち合わせていると言うのだ。
「何その無理ゲー」
但し熱に強いその怪獣は、逆に寒さに滅法弱いという性質を併せ持つ。
尤も、寒さと言っても効果が顕れる温度は絶対零度、-273.15℃という超低温なのだが。

幸いにも自衛隊が保有してあった装備に、絶対零度まで対象を凍らせる事の出来る装備が存在していた。
問題は1度しか使えない消耗品なうえ、赤毛男の動きが素速すぎて捉えきれないという事。
そこへ現れたのが、同じく怪獣の力と体質を併せ持った黄天だという訳だ。
「ようはその冷凍兵器をアイツに当てるのに、俺に囮なりなんなりになってくれって事か」
返答はものすごいイラッとくる程イイ笑顔のサムズアップだった。
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