本編


「それで…?」
「…俺は絶望の渦中、自分の能力に気付いた。助かりたい一心で慣れない力を使って…どうにかそいつを倒した。まさか自分が「G」と遭遇するとは思いもしなかった。その前に青森で巨大クモの「G」が出現したのは知っていたけど、実際に対峙すると自分の中で何かが変わった。」
「…ごめんなさい。」
「いえ。」


聞いてはいけないような話を聞いてしまった綾はバツが悪そうに一樹へ話題を振った。


「…宮代君は?」
「オレは単純だよ。初めてパソコンを使った時にキーボードに触れたまま文章を黙読したらそのまま入力されていたって訳さ。」
「綾さんも何かエピソードが?」


凌も赤信号で覆面パトカーを停めた時に聞いた。


「私は高校生の時に……ううん、私も偶然よ。」


綾の何か重い過去を感じた凌と一樹はこれ以上詮索しなかった。
それからしばらくして覆面パトカーは事件現場一帯に到着した。


「…それで、これからどうするの?」
「…皆で歩く。」
「え?」
「は?」
「今回の「G」は戦い慣れていなければ返り討ちに遭う。」
「へ? 待て待て待て、オレの能力は攻撃的じゃないんだ、オレは車で待機させるべきだろ!」
「だったら、1人でいる間に襲われたら自分の身は自分で守れよ?」
「…やっぱオレも行く。」「よし、出るぞ。」


凌はコートを脱いで車から降り、綾と不服そうな一樹と共に事件現場周辺を歩き始めた。


3人は道路を歩き、闇に潜む黒い影を待っていた。
時計の短針は今、12時を指している。


凌は今まで培った神経を研ぎ澄ましながら歩く。他の2人はそれの邪魔をしないよう、無言で辺りを警戒していた。


が、その集中力は野良猫の鳴き声に過剰に反応してしまい一旦途切れてしまう。


一同が気を取り直して再び歩き出そうとした時、凌は猛烈な殺気を感じた。彼は一樹を突き飛ばし綾を抱え上げるとダッシュしてその場から退避する。
刹那、さっきまで一同がいた場所の近くにあった道路標識が両断された。


「2人共下がれ!」


綾と一樹は危険を察知し「G」から距離を取る。特に一樹は普段見ない様な機敏な動きで離れた。


奇襲が失敗した「G」――ツルク。その姿は人の形、身長に近く、目は今まで惨殺してきた人間の鮮血を吸収したかの様に赤い。両手は刀になっており腕と刀の付け根には鹿に近い毛が生えている。


ツルクは自分の攻撃を回避した凌をゆっくりと見定める。
その凌は後ずさりつつ両手を指鉄砲に形作り二丁拳銃の要領で構え、銃口にあたる人差し指と中指を向けた。
すると何も兆候もなしに光弾が発射されツルクの肩に命中した。突然の反撃に驚くツルク。


続いて凌は手に光を宿らせ手刀の要領で振り下ろす。光の残像となった三日月状のカッターがツルクに向かい突進した。


ツルクはそれを宙返りして回避する。凌は着地の隙を狙い再び手銃で光弾を発射した。
しかしそれも前回り前転で回避すると今度はこちらに向かってきた。
凌は近付けまいと光弾を連射するが、ツルクは軽い身のこなしで光弾をかわし凌に斬り掛かった。


凌は寸での間合いで避け、後ろにあったガードレールが切断される。その際、刀がスーツを掠め袖が裂けた。
スーツの有様を確認する間もなく次の斬撃が襲い掛かり、凌は光弾を撃てない。


凌としてはるべく中距離戦に持ち込みたかったが、早くも接近戦に持ち込まれ苦戦を強いられようとしていた。

焦る凌は手から光の刃を形成した。
その刃は遥か昔の宇宙戦争モノで言えばフォースの騎士が使う光の剣と酷似している。


凌は光の刃でツルクの刀に応戦し始めたが、慣れない為か押され気味で戦況が悪い。
獲物の劣勢を本能で感じたツルクは両手で斬り掛かった。凌も両手の刃で受け止め、堪える。
膠着した状況が気に入らなかったツルクは強靭な脚力で凌を蹴り飛ばした。


倒れて怯む凌にトドメの一撃を斬り掛かろうとした時、ツルクは何者かの波動に弾き飛ばされた。
驚いた凌は波動を放った主を見る。綾だ。一樹も小銃で援護射撃していた。


突然の横槍に憤慨したツルクは綾達に向かい走り出した。


「!、逃げろ!」


凌に叫ばれるより前に逃げ出す一樹に、その場から動かない綾。綾は精神を集中させると能力を発動させた。


瞬間、ツルクは何かに押さえ込まれたかのように動きが止まり、もがき始めた。
綾の念撃により動きを封じられたツルクに、凌は再び手銃を形作り光を蓄積させる。銃口にあたる指先に光を集中させレーザーを発射した。


放たれたレーザーはツルクの左胸に貫通した。この時初めてツルクは断末魔とも解釈できる甲高い呻き声を上げた。
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