本編


翌朝

特捜課。木内が捜査資料などを片手に、引き継ぎの手続きを行っていた。


「……じゃあ、確かに引き継いだぞ。」
「任せろ。」
「それにしても凶器不明ってどういう事なんだ? 本当に凶器の目星はつかないのか?」
「…なんでその事を知ってるんだ? 俺はまだ凶器不明とは言ってないし、捜査資料にはまだ目を通していないだろ?」


この瞬間、一樹の不用意な発言によって特捜課の空気が凍った。
勿論、一樹が昨日ハッキングして得た情報だとは言える筈もない。


「…今のは聞かなかった事にする。」


察した木内は早々と部屋から出ようとする。そして去り際に凌の耳元で彼にしか聞こえない声量で言った。


「気をつけろ。遂にホシは警官を殺った、しかも凶器はパトカーのドアをも両断しているぞ。」
「…あぁ、分かった。」


凌は頷くのを確認した木内は特捜課から退室した。


「それで、君達はどうするんだ?」


倉島が部下三人に問い掛ける。


「一先ず現場周辺の巡回から始めます。「G」が無差別に犯行を繰り返している以上、自分達が巡回がてら囮になるのが一番かと。」
「囮ってオレもやるのか!?」


綾の言葉に信じられない様子で確認を取る一樹。


「勿論。それと東條君には絶対に同行してもらうから。」
「そのつもりです。」
「そうか…三人共、気をつけるんだよ。」
「はい。それと銃を忘れずに携行する事。」
「俺には必要ありませんよ。」
「ダメよ。自分の能力を過信しない方が身の為だから。」


凌の能力を知っている上で綾は申し出を却下した。


「オレは待機の方が…」
「22時半頃にここを発とうと思う。それまでに色々済ませといてね。」
「はぁ…」





警視庁地下駐車場。時間になった三人がそれぞれのコートを羽織り自動ドアを通過した。


三人の行く先には専用の黒い覆面パトカーが停車してあり、凌がキーの遠隔操作でロックを解除すると皆、乗り込んだ。
凌が運転席、綾が助手席、一樹が後部座席に座る。これはもう三人の定位置だ。凌はキーを差し込みエンジンを起動させると覆面パトカーを発進させた。


「…言っておくが「G」と遭遇したらオレは即行で逃げるからな。」
「分かってる、「G」は俺が始末する。」
「それはそれは心強いお言葉で。」
「だけど今回の「G」、かなり手強いかもしれない。訓練してきたとは言え、勝てるかどうか…」
「…私も加勢しようか?」
「いえ、綾さんも戦わせる訳にはいきません。」


何か妙な空気になりかけた車内に耐え兼ねた一樹は話題を変えた。


「…なぁ、前から聞きたかったんだけど、お前が自分の能力に気付いたきっかけってあるのか?」
「どうした? 急に。」
「あ、私もそれ聞きたい。」


綾を味方につけた一樹の顔が得意げになったのをバックミラー越しに見えた。そして車がトンネルに入った所で凌は忘れられない過去を回想し始めた。


「……あれは3年前だった。当時SITの突入班に所属していた俺は立て篭もり事件の通報を受けて仲間と一緒に出動した…」

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