番外編 孤高の空


離陸したネクスト。基地へ方向を取り一気に加速する。


もはや一体化同然のハワードはネクストの視覚を通して自分も視認できている。それによりネクストの見る情報がハワードの視覚にも直接流れ込んできた。
まずハワードに伝えられた光景は、戦闘機に乗っている時より速く流れる雲と大地。コックピットのHUDを介さないその光景は新鮮で、直接自分自身で空を飛んでいるような感覚は大きな感動を覚えた。戦闘機で飛ぶ感覚とは違うそれは、緊迫した場面とは言えハワードにとって至福の時とも言えた。


感動も束の間、アリゲラと遭遇した。本能で敵とみなしたであろうアリゲラは、交戦中の戦闘機をそっちのけでネクストに向かう。


……食いついたな。どうするんだ?

……空中戦に持ち込む。

……空は奴のテリトリーだ。大丈夫なのか。

……私は仮にも飛翔の「G」でもある。張り合う自信はある。


アリゲラは光弾を乱射してくるがネクストは冷静に上昇して回避する。アリゲラもそれを追いながら光弾を撃ち続けるが、ネクストは意図も簡単に全弾回避した。


しばらく上昇して地上からを距離を取り、高高度の空中フィールドに到達した2体。邪魔をする存在はない。後はどちらかが死ぬまで闘い、決着を着けるだけだ。


先に仕掛けたのはやはりアリゲラだった。ネクストの上を取ったアリゲラは広範囲に拡散させた光弾をいくつも放つが、対するネクストは無駄のない動きで光弾の雨を掻い潜りながら矢尻型の光弾を撃つ。


しかし互いの攻撃が命中する事はなかった。


ネクストは光弾でアリゲラを牽制しつつ背後を取るも、アリゲラは尻尾で一から生成した球体状の光弾を放つ。


ネクストは正面から迫る球体光弾をバレルロールで回避した。しかし外れたはずの球体光弾は反転してネクストを追尾する。
それを察知したネクストも三日月型の鋭利な光弾を射出して相殺した。


その後もしばらく、光弾の応酬によるドッグファイトが続いた。


『ブラスト小隊、ブラストリーダーよりHQ。対象は我々よりも速く、戦闘に介入できない。指示を乞う。』


戦闘空域に到着した戦闘機1個小隊だが、次元が違う空中戦にただ傍観するしかない。パイロットから見る「G」による空中戦は、航空機では不可能な高速機動で言葉を失う程のレベルだ。もはや人間の介入が許されない空中戦だった。


『先程長距離ミサイルを発射した。「G」から距離を取れ。』
『ブラストリーダー了解。』


アリゲラは翼を畳んでほんの一瞬で加速、白い大気の輪が放出され爆発的な速度に達しネクストに迫る。
対応が遅れたネクストはアリゲラの翼ですれ違い様に切り裂かれるが、ネクストも接触した際に腕のカッターでアリゲラの左翼付け根を斬りつけた。


……ッ!

……大丈夫か?


「G」の空中戦も、戦闘機のそれと似ていた。1つの要素を除いては。
それは直接接触する格闘である。
戦闘機の鋼鉄の機体は衝撃に脆く、戦闘中に機体同士が接触すればひとたまりもなく破壊されてしまう。しかし強靭な肉体を持つ「G」は別であった。
勝敗を分かつまで戦闘は継続される。燃料と言う概念すらあるのか疑わしい「G」のそれはいつ終わりを迎えるのかも分からない。


……気にするな。君は戦うんだ。


今の一撃はノーダメージに近いネクスト。だがハワードにも相応のダメージがフィードバックされた。それもあって早急に決着を着ける必要があった。だが空中戦にノウハウがないネクストは土壇場で模索しながら戦うしかない。


……ただ単調な動きでは埒が空かない。俺の思う通りに動けるか?


不利な状況にハワードは咄嗟に語りかける。


……戦術があるのか。

……ああ。ずる賢い人間が考えた、狡猾とも言えるマニューバ(空中機動)がな。


ハワードの考えが自身の思考を通じて、ネクストの神経がそれを受け取る。相違なく意志疎通された情報はネクストに完璧なイメージを与えた。そのイメージは、同じ空を翔ける者としてのアドバイスとも言えた。


『ミサイル、戦闘空域に到達。着弾まで、31…30…29…』


ネクストはアドバイスに従って爆発的加速を敢行、釣られてアリゲラもスピードを上げて対抗した。


『目標、加速! ミサイル、着弾せず!』
『軌道修正をリアルタイムで更新。燃料が尽きるまで追わせろ。ブラスト小隊は可能な限り監視せよ。』


ネクストの体表に水滴が付着し、軌跡が飛行機雲となる。アリゲラも同じ現象が起きているからか飛行機雲は2つ発生し、地上からは容易に戦闘を観測しやすくなっていた。


アリゲラはネクストに追い付こうと我が身を削って加速を続ける。
しかし頃合いを見計らったネクストは急減速。制動が遅れたアリゲラはネクストを追い抜いていく。


オーバーシュート。


皮肉にもあの時ハワードを陥れたテクニックを、ハワード自身がネクストに伝授したのだ。


アリゲラを前方に捉えたネクストは瞬時に片手の掌に意識を集中させ光の輪を形成、軽く振りかぶって射出する。


それは音速を何倍も超える速さで大気を切り裂き、滑らかな曲線を描いてアリゲラの左肩口に命中。それに伴い左翼が本体から切り離された。


……見事だ。


まともに攻撃を当てたネクストにハワードの純粋な感想が漏れる。
左翼を失ったアリゲラはどうにかバランスを保って落下の勢いを殺そうと奮闘したが、その隙に迎撃を免れたミサイルが着弾。バランスを崩されたアリゲラは今回だけ、地球の重力には逆らえなかった。形はどうあれ、軍がアリゲラに一矢報いた瞬間だ。


また、ネクストにも飛来したミサイルは、迎撃の光弾により爆発。ネクストはアリゲラを追って急降下した。
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