本編
某コンビニの店長室。
「荒木君、これはどういう事かな?」
椅子に座る店長が一通の封筒を手に持ちヒラヒラさせながら問い掛ける。
「…辞表です。」
「分かってるよ。何で辞めるのって聞いているの。」「私はもう、ここにいる理由はありません。」
「…納得できない。」
「私はもう決めました。」
荒木の断固とした態度を見た店長は少し思案した後、仕方なし言った。
「あれの事、警察に通報してもいいんだよ? 証拠もあるし。」
「!、……」
荒木の瞳の奥が揺らいだのを感じ取った店長はトドメの言葉を投げた。
「じゃ、今夜も待ってるよ。美香ちゃん。」
荒木は何も言い返せず、「失礼します」と断り俯きながら店長室を後にした。
店長はねっとりとした視線で見届け、彼女の辞表を破り捨てた。
深夜の都内通り魔事件現場周辺の道路をパトカーが巡回していた。
夜な夜な通り魔が出没するとなれば警察がマークするのは至極当然な事なのである。
運転席に座る警官は雨が降り始めた事に気付き、ワイパーのスイッチを入れた。
「…なぁ、大丈夫だよな?」
「何ビビってんだ、俺たちゃ警察だぜ? 警官を狙う人間なんてフィクションでしか聞いた事がない。」
「そりゃそうだけど…」
不安が残るまま警官が再び運転に集中した時、人型の何かがパトカーのボンネットに仁王立ちした。
運転席の警官は慌ててブレーキを踏みパトカーを急停車させる。
「何だあれは!?」
警官二人はパトカーから飛び出しその何かを目視しようとする。
その警官に的を絞った何か――「G」は高くジャンプして宙返り、着地様に警官を両手の刀でパトカーのドアごと両断した。
断末魔の悲鳴を上げる事も許されなかった警官は上半身が道路に落下し、遅れて下半身が力無く倒れる。
それぞれの断面からは噴水の様に鮮血が溢れ出し、辺りは文字通り血の海となった。
警官の最期を目撃したもう一人の警官は呆気に取られながらも震える手で身につけている警棒を手にする。
続いて「G」は素早い身のこなしで警官の懐に潜り込むと……躊躇いもなしに警官に斬り掛かり両断する。
返り血を浴びた「G」は気にも留めず姿をその場から立ち去った。
雨は「G」の痕跡を洗い流すかの如く強くなった。