番外編 孤高の空


ロドリゲスの命を受け、フルメタルミサイルを装備した戦闘機やD-03弾を載せた爆撃機が離陸した頃、入れ違いで滑走路に着陸した輸送機があった。輸送機には国防総省のエンブレムが施されいる。


十数分後、第4ハンガーで引き続き待機するハワードとスコットに近付く者達がいた。軍服に白い腕章を付けた憲兵だ。
憲兵とは、軍隊内部における警察のような兵科である。


この基地に限った事ではないが憲兵は存在自体が目立ち、周りに居た誰もが何事かと目を向ける。ハワードは自分に近付いてくる憲兵に視線をやると、長と思われる階級章を付けた男と目が合った。嫌な予感がした。


「………」


憲兵は腕を組んで壁にもたれ掛かるハワードの目の前で立ち止まる。


「国防総省のコンロイ・ファーゼンバーグ少佐だ。ハワード・レイセオン少尉だな。」
「…ああ。」
「我々と来てもらう。」


ハワードと一緒に居たスコットがすかさず口を挟む。


「こんな非常事態にでありますか? この基地は見ての通り作戦行動中です。パイロットは基地から離れられません。」
「言い方が悪かったな。レイセオンを密偵容疑で拘束する。」
「!」
「……」


スコットは思わずハワードに振り向く。
ハワードはかけられた嫌疑に無言で否定した。
勿論ハワードはスパイ紛いな行為など働いていない。そうすると考えられる可能性は一つ。普通の人間ではないと気付いた軍が罪状を口実に自分を拘束し、研究施設にモルモットとして監禁するのではないか。


「証拠は挙がっている。色々な意味で、我々は君を見逃す訳にはいかんのだよ。」


コンロイは意味深に笑みを浮かべながらハワードへ迫る。その笑みは感情を自ら捨てた無慈悲な殺人鬼めいていた。


……その者から悪意を感じる。気をつけるんだ。


"彼"の言葉を聞くと、次の瞬間には憲兵に背を向けて走り出していたハワード。
何故"彼"を信じたのか。逃げようとしていた自分の行動に後押しをする発言をしたからなのか、自分の人格が吸収されつつあるからなのか。考えるのは後にして、追ってくる憲兵数人からとりあえず逃げる。


「奴が逃げた。各班は武器を使用して取り押さえても構わない。必ず生け捕りにしろ。」


コンロイは無線機で各憲兵に通達すると部下の憲兵を連れてハワードを追う。


「ハワード…」


残されたスコットはどうする事もできず、ただ佇む。


「………」


ハワードの容疑が未だ信じられず、スコットは彼との過去を追憶する。
ハワードには相棒として、仲間としての距離を置かれていたが、転属当初から自分は懸命に接してきた。相棒を失ったばかりの彼は実力不足の自身を呪い、訓練に訓練を重ねて追い込んでいた。他人から見て過剰としか思えない訓練や自主トレーニングを制止したりもした。
素っ気なくて不器用で、無愛想な性格だが、軍を裏切るような男ではないと思っていた。己の信念に準じて生きていると思っていた。
ハワードがREDと接触して生還してから、彼からはやっと相棒として認識され始めた気がしていた。その矢先に先程の密偵容疑。何かの間違いかもしれない。だが彼は否定もせず逃げた。
ハワードが売国奴だったかもしれない事実に、戸惑いや驚きを通り越して虚脱感しか湧き上がらなかった。
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