番外編 孤高の空
『スカイハンターが墜ちた…』
自機のレーダーでアリゲラを捕捉したメビウス中隊。作戦空域を外周してミサイル攻撃が止むのを待っていた中隊だが、AWACSの危機に予定より早く空域に侵入したのだ。
だが間に合わなかった。アリゲラはミサイル攻撃をものともせず、想定外のスピードで安全圏の護衛機とAWACSを撃墜したのだ。
『各機に通達。ステルスの護衛機が墜ちた時点で、同じ我々も安全ではない。「G」は予測以上に速く今からでは撤退が間に合わないと思われる。よって作戦通りミサイル攻撃後、二手に分かれて速やかに離脱する。』
メビウス中隊の1番機、メビウス1はAWACSに代わって指示を出す。
ステルスの護衛機が墜ちた今、JCSのアリゲラの生態に関する予測は外れた。ならば早急に撤退する必要があるが、逃げ切れない。ならば装備を消費して機体を軽量化し、スピードと機動性を上げる判断に至ったのだ。
メビウス1はフットペダルを蹴り込んで方向舵を微調整し、アリゲラの背後を取る形で中隊が飛行する。
ミサイルの射程に入ったと同時にアリゲラを纏う爆発が止んだ。ミサイルの時間差攻撃が終了したのだ。これからは本来の作戦通り戦闘機からのミサイル攻撃に移行する。
『各機、レーダーロック。』
AWACSが墜ちた今、衛星による誘導アシストを受けられずにミサイルを使う事になる。アリゲラにはARHで十分に追尾できるだろうが気付かれずに着弾するかは心許なかった。
『メビウス1、FOX2!』
中隊は装備している全ミサイルを発射すると、それらの末路を確認せず4機編隊に分かれる。
一斉発射されたミサイルは全速力でアリゲラを追尾した。
アリゲラはレーダー波から存在を察知すると胸部からの波動でミサイルを誤爆させ、レーダー波を放ち続ける中隊を追う。
アリゲラはとりあえず最短距離にいた1番機の居る4機に目をつけた。
『隊長ッ!』
『お前達は先に帰投しろ。「G」は我々が引き付ける。』
『メビウス2、了解ッ!』
『メビウス4、了解。』
『メビウス6、了解。』
『メビウス8、了解。』
メビウス1は3番機と5番機と7番機を率いて雲の中を突っ切る。4機はこの僅かな時間で並列の編隊を組んで雲から出た。
アリゲラはパルス孔から光弾を乱射して攻撃する。後方からの光弾を辛うじてかわす4機。メビウス1は操縦に専念するが、キャノピー越しに光弾が機体を追い抜いていくのを横目で見て手に汗が滲む。
直後にメビウス1の隣を飛んでいた3番機がエンジン部に被弾した。機体全体を包む爆発によりパイロットも運命を共にしてしまう。
『ランディ!』
『クソッ!』
『……!』
思わず3番機の本名を叫んでしまった。場合によっては自分が撃墜されていたかもしれない状況はこれからも続く思われ、早急にアクションを仕掛ける必要がある。
『各機、フォーメーションを維持。合図で急降下後、急上昇を敢行。』
『メビウス5、了解。』
『メビウス7、了解。』
今から行おうとしている空中機動はかなり危険な行為となる。しかし上手くいけば突破口になるかもしれない。かなりの勇気が要るが意を決して敢行する。
『ピッチダウン!』
メビウス1は操縦桿を前に倒して機首を地表へ向けるとアフターバーナーに点火して加速する。直後に凄まじいGがメビウス1を襲った。体中が操縦席に張り付けられたように重い。
スピードを上げた3機を追って、アリゲラは翼を可変翼の要領で鋭角に畳んで加速した。
苦しい中、レーダーでなおも追撃してくるアリゲラを確認してほくそ笑むが、それはすぐに消えた。間もなくして呼吸がままならなくなり意識が遠くなる。まるで肺を含む臓器が背もたれに押し付けられる感覚だ。
追撃するアリゲラの光弾が外れて地表に着弾するのが見える。地表に激突する恐怖と光弾が直撃する恐怖がメビウス1の正常な判断力を乱す。
さらに高度計が警告のアラームを発するが無視してさらに降下する。地表が迫ってきたのを薄れゆく意識の中確認した時、力を振り絞って操縦桿を引いた。
『ピッチアップ!』
メビウス1と7番機は低高度を急上昇。しかし、5番機が機首を上げきれずに地表に機体を叩き付けた。
『ステュアート!』
『……!』
続いて上昇しきれなかったアリゲラも5番機を追うように地表に激突し、砂塵が舞い上がる。
アリゲラは沿岸地帯に墜落した為に地表震源の地震が発生、その副産物で小規模の津波も起こった。
『今の内に振り切れ!』
『了解。』
1番機と7番機はこの隙にフルスロットルとアフターバーナーで最高速度を出すと空域を離脱した。