番外編 孤高の空


人間の思惑など知る由もなく、アリゲラは深度300mの海中を悠々と海遊していた。


だが己に接近する2つの物体にアリゲラは気がつかず、それは至近距離で爆ぜた。体表でそれが炸裂した事により身体が空気圧に殴られる。


全くの不意打ち。


自分の置かれた状況を把握したアリゲラは緊急浮上する。段々と海面を照らす透き通った太陽光が身体を照らし、間もなく海中と大気の境界線を突破した。


しかし、海上には護衛艦2隻、駆逐艦1隻、イージス艦2隻が展開していた。さらに静止衛星軌道上の軍事衛星と地上のレーダーサイトにも捕捉される。


『ミサイルランチャー展開。』


イージス艦にて、垂直発射管がミサイル発射態勢に入った。艦内放送でオペレーターの音声が流れて緊張感が高まる。


「目標、捕捉。」
「暫時衛星リンク確立。」
「ランチャー1、発射準備よし!」


ブリッジの艦長はJCSの作戦通りに指示を出す。


「撃てッ!」


垂直発射管から真上に撃ち上げられた2発のステルスミサイル。ミサイルは断続的な爆音を上げながら天空へ上昇していく。その弾頭は、確実に目標を捉えて。


それから数十秒後、もう1隻のイージス艦からも時間差でステルスミサイルが2発発射された。










「ミサイルランチャー展開、仰角50゚」


地上各地や沿岸部にはミサイル発射車輌と護衛の対空車輌の部隊が展開していた。


「衛星リンク同調。」
「レーダーサイトインフォメーション受信。目標入力。」
「発射準備完了。」
「…発射!」


車輌後部トレーラーのミサイルパックが開いたかと思うとステルスミサイルが飛び出した。射出と言う言葉が似合うか。燃料に点火された際の爆音に、周辺にいた兵員が耳を塞いだ。


ミサイルは産みの親であるはずの人間にはお構いなしに白煙を残して飛び去っていく。


海中から退避したアリゲラは空中を我が物顔で飛行する。謎の襲撃を受けた海中を脱出した事により危機は去ったと思われた。
しかし、アリゲラはいきなり爆風に覆われる。ステルスミサイルの第一波だ。


アリゲラは驚愕した。先程の魚雷には接近に気付いたが、今回は存在すら気付かなかったのだから。


怯えるアリゲラを尻目に、ステルスミサイルは次々と着弾していく。その爆発は確実にアリゲラに直撃するが、ダメージは微々たるものだった。


次第にこの状況に慣れたアリゲラは元の態勢を取り戻し、自分の認識する"敵"に直進する。


『「G」、急速接近。』
『機長、待避しろ! エアリー分隊は待避するまで「G」を引き付けろ!』


強力なレーダー機材を積んだAWACS機だった。
AWACS機は情報処理に特化しているがスピードや機動性を犠牲にしている。自衛の為にミサイルは積んでいるが、それでも被弾率は大して変わらない。そのために護衛の戦闘機がつく場合がある。さらに旅客機を改造している都合上、ステルス化は不可能なのだ。


自分と同じ、レーダー波を放つ飛行物体は敵。アリゲラの周辺はミサイルの時間差攻撃により絶えず爆発しつつも、自身は本能に従って動く。
対して護衛のステルス戦闘機2機はアリゲラにヘッドオンしながら迎撃態勢に入る。


『エアリー2、「G」とチキンレースだ! どうせ奴に我々は捉えられん!』
『ハッ! どうだ? 見えない敵に襲われる気分はよぉ!?』


追い打ちを掛けようとアリゲラの顔面にミサイルをぶつけようとロックするエアリー分隊。


『エアリー1、FOX2!』
『エアリー2、FOX2!』


パイロットは勝ち誇った笑みを浮かべながら操縦桿の発射ボタンを押した。
戦闘機から放たれた小型のステルスミサイルが正面きってアリゲラに突入する。


しかしARHだったミサイルは発信されたレーダー波をアリゲラに逆探知される。アリゲラは胸のパルス孔から光弾を連射して弾幕を張り、ミサイルを破壊した。


『!?』
『馬鹿な!?』


ミサイルと同じくレーダー波を逆探知されたステルス戦闘機。アリゲラは続けて弾幕を張り撃破を試みる。


エアリー分隊は各自散開して回避運動を取ったが、ミサイルでも航空機関砲でもない未知の攻撃を初見で避けるのは不可能に近い。


案の定、エアリー分隊は機体に光弾をモロにくらい空に散った。
アリゲラはエアリー分隊の亡骸である爆煙を突っ切ってAWACS機に迫る。


『回避、間に合いません!』
『クッ……!』
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