番外編 孤高の空
大西洋某所
アメリカ領海内海中
日の光が届かない暗い深海を潜航する潜水艦。目的は一つ。
「深度300m、距離4マイル、方位12度。アリゲラを捕捉しました。」
観測員の言葉に、ブリッジの艦長は佐官仕様の帽子を被り直すと、備え付けの有線マイクで全ブロックに音声放送を繋いだ。
「達する。これより本艦は、敵性「G」殲滅作戦の初撃を敢行する。本作戦はこの一撃で決まると言っても過言ではない。全乗組員の奮起に期待する。」
放送が終わると同時に艦内全ブロックが赤い照明に照らされ、警報が鳴り始める。
間もなく通信員はロドリゲスの攻撃命令を受信した。
「艦長、攻撃命令が下りました。」
「機関停止、慣性航行始め。魚雷発射管起動、1番魚雷撃てッ!」
まずは、スクリューで潜水艦の位置を特定されないように機関部を停止させる。
続けてタイムラグを感じさせない乗組員の動作。潜水艦前表面に展開された小さな発射管から、飛び出した魚雷はアリゲラに向かう。
「2番魚雷撃て!」
続けてもう1発が放たれる。
発射からしばらくして潜水艦が揺れた。爆発の余波だ。すぐに音紋照合された戦果がスピーカーから伝えられる。
『1番魚雷命中!』
「……」
初撃は命中したが艦長の表情は険しいままだ。さらに、2度目の震動はない。
『2番魚雷外れました!』
「ソナー!」
「…アリゲラは海面へ向かっているようです。」
ヘッドホン型の機器を装着した観測員がソナーを注視しつつ報告した。
「何故だ…呆気ないぞ…」
人間、物事が上手く進みすぎると警戒するものである。艦長もそれと同じ人種だったようだ。
彼は順調な状況から事態の不穏さを感じ取っていた。