番外編 孤高の空
対策会議後、各部隊に指令書が渡されたのは、ハワードとスコットが救護施設の医者から異常なしの診断を受けた直後だった。
スコットはハワードと通路を歩いて宿舎に戻りながら指令書に目を通していた。
「お前の読み通り、俺達は待機らしい。」
「やはりな。…!」
「!」
ハワードは十字路の右から走って来た女性士官とぶつかった。服装から察するにオペレーターだろう。正確に検証すればあちらに過失があるぶつかり方だった。
「し、失礼。」
オペレーターは謝罪を口にすると早々と管制室へ去って行った。
この通り、基地内の動きが慌ただしい。途中、2人はこれまでも何度か整備員とぶつかりそうになっていた。
ミサイルの移動やミサイル発射車輌と戦闘機の点検。作戦前にやる事は山ほどあり、後方支援の軍人は今が一番忙しい。
ハワードは先程の事を気にも留めずスコットから指令書を受け取る。細かく攻撃の手順が記されていたそれは、一部が暗号文や専門用語で記されており部外者の手に回っても簡単に読めない仕様になっている。
ハワードは指令書を流し読みの感覚で目を通す。
『―――。』
ハワードが読み終わった頃に、基地内放送を知らせるブザーが流れる。これももう、今日だけで何度も聞いた。
『第01飛行中隊は1120までにブリーフィングルームへ。』
第01飛行中隊。通称、メビウス中隊。現在は残存数から骨董品となりつつあるF/A-22を愛用する、この基地の主戦力となる部隊である。メビウスの輪をモチーフにしたエンブレムは、どのような任務も無限に遂行する隊則を表現している。
「精鋭部隊の投入…ここ最近で大きい規模の作戦になるか。」
「すんなりと倒せればいいが……」
「無理だ。」
ハワードは即答で返した。スコットは苦笑いしながら問う。
「お前もそう思うか?」
「…今までの事例を振り返れば分かる。虫型とGROWの生物兵器も、日本に一時期頻出した巨大「G」も、結局倒したのは様々な「G」だった。近代兵器が「G」を倒した事例は指で数えられる程しかない。」
「せめてメーザー兵器は欲しいが陸軍から取り寄せるには時間がないからな…。ガンヘッドも対空装備はあれど飛行物体との高速戦闘には不利だからアリゲラとの相性も悪い。」
「この程度の戦力で本気で殲滅できるとJCSが考えているなら、無能としか言いようがない。」
「確かに。」
2人は通路の窓から滑走路脇の駐機スペースを一瞥する。そこからは輸送機の後部ハッチから地対空ミサイルが運び出されている光景が目に留まった。
軍にとって決戦の時は、2人がどう批判しようと確実に近付いていた。