本編


警視庁内。エレベーターがいつもと変わらぬ電子音と共にドアを開けると1人の女性が出てきた。


女性は長い通路を綺麗な姿勢で溌剌と歩く。やがて人気のない通路の行き止まりに辿り着くと【特殊捜査課】と標札が掲げられるドアを押し開けた。


部屋の中は広く、そのわりには中は閑散としており小型テレビや人数分の机、パソコンなど必要最低限の物しか置かれていない。


「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「おはようござい…ます、と。」


出勤してきた女性、二階堂綾を温厚そうな30代半ばの男性、倉島敏行係長とパソコンに熱中する男性が迎えた。


「宮代君、何をしているの?」


コートを掛け鞄を自分の机の上に置いた綾は、パソコンのキーボードに触れ何かに熱中している男性、宮代一樹に問う。


「いや……少しペンタゴンのデータベースをハッキングしてただけだよ。」


一歩間違えば国際指名手配されそうな同僚にため息をつき、綾は諭す。


「…あのね、いくら自分の能力がその筋に特化していても、無闇に乱用したら―――」


機械に触れるだけでコマンド入力無しに操作できる、これが宮代一樹が持つ電脳の能力だった。


「へいへい…」


反省の微塵も感じさせない一樹の返事と同時に、また違う男性が部屋に入ってきた。


東條凌。彼がこの物語の主人公であり、光撃の爾落人である。


「おはよう東條君。」
「あ、おはようございます綾さん。係長、捜査一課の奴が言ってましたが例の通り魔事件、明日から俺達に捜査権が移るって本当ですか?」
「ん? そうらしいな。これが特捜課発足以来初の仕事だから頑張ってくれ給えよ。」
「はい。」
「じゃあ、今の内に予習しましょうかえ?」


そう言った一樹は再びパソコンのキーボードに触れると警視庁のデータベースをタイピング無しで呼び出す。マウス操作無しで目的の必要なデータまで辿り着くとパスワード入力画面が表示される。
それもコンマの速さで難無く突破した。


電脳の能力を駆使したハッキングは絶対に気付かれない。電脳の能力を一樹は自分なりに有効活用しているのである。


事件の概要はこうだ。事件現場は都内某所一帯の人気のない住宅街に限られ、犯行時刻はいずれも深夜、凶器不明、下足痕らしきものは発見されるも何なのか不明。被害者はいずれも関連性はなく無差別通り魔として捜査を進められている。


「…だってさ。これ状況から察して多分「G」の…うっ…」


被害者の遺体の静止画を一番に見た一樹の表情が曇った。
彼が見たのは脳天から文字通り真っ二つにされた遺体や道路に散乱しているバラバラ死体、上半身と下半身が完全に分離している静止画だった。


一樹に釣られた凌と倉島もディスプレイを覗き静止画を見た。


「あららららららら…」
「おいおいおいおい…」
「え? どんな感じなの?」


3人のリアクションに興味津々でディスプレイを覗こうとした綾を凌は制した。


「やめといた方がいいです…肉が食えなくなりますよ…」


凌の忠告に綾は渋々諦め、他の3人は力無く自分の回転椅子に座った。
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