番外編 孤高の空
同時刻。REDの件で査問会が開かれた会議室に再び上級の士官が一同に介す。その中にはこの基地で見慣れない士官3名がおり、ロックウェルの副官の紹介で立ち上がる。
「JCS作戦部のリーランド・ロドリゲス准将です。こちらは副官のモス少佐とオルテガ少佐。」
「遥々ご苦労。」
3名は座り、ロックウェルは現状の確認を行う。
「我軍の被害はどうなっているか。」
中佐の黒人男性が立ち上がり、端末を見ながら報告する。
「はい。ホークアイ1機、SX-31機、イーグル2機、沿岸警備隊のオライオンが1機、死亡が確認された搭乗員が合計で10名。以上であります。」
「ロックウェル少将、躊躇わず討って出るべきかと思いますよ。」
ロドリゲス准将が高慢な態度で口を挟むが、ロックウェルは表情一つ変えずに報告を聞き入り心を痛める。
ロックウェルは戦闘機のパイロット、AWACS機の指揮管制要員、基地観測室の室長、司令の副官と昇進する中様々な役職を経験してきた。
彼は新人の頃に出撃した湾岸戦争でも、仲間が死んだ時は涙が出た。しかし慣れというのは恐ろしく、軍歴が長くなるにつれ同僚や部下が死んでも涙すら出なくなった。定年が近くなった今は涙していた自分がひどく懐かしい。
「元からそのつもりだ。バートル中佐、アリゲラとネクストの現在地を。」
「はい。アリゲラはダガー分隊と警備艦の証言から領海内に潜伏していると思われます。現在は監視下にあり海軍の駆逐艦とイージス艦がマークしています。ネクストは所在不明、衛星と対空レーダーで索敵しましたがヒットしません。」
「アリゲラとネクストの関係は不明だが、両方とも殲滅する方針でいく。現状から判断するにアリゲラの殲滅を優先する。准将、JCSの立案した作戦を発表し給え。」
ロックウェルはロドリゲス准将に発言させる。
「了解。まずアリゲラの分析ですが航空写真から判断するに視覚が存在しないと推測され、戦闘機を正確に捕捉している事から自分自身でレーダー波を照射していると考えられます。」
「生物がレーダーを? 根拠はあるのか。」
士官の誰かが疑問を呈する。
「AWACS機がアリゲラを捕捉中、航空機と同等のレーダー波をアリゲラから感知したとディッシャー少佐が証言しています。それに「G」であるか以前に、自然界でもクジラがソナーを使えるため不思議ではないでしょう。」
「そう仮定してレーダー波で敵を捕捉しているとするなら、何故ステルス機のSX-3まで撃墜されたんです?」
マクドネルが粗を探すよう挑戦的にロドリゲス准将へ疑問をぶつけた。
「あの爆撃機はまだ試験段階で実戦下におけるステルス性が証明されていませんでした。試作機故に理論的には証明されてもステルス性が完全ではなかったのでしょう。」
「続けろ。」
「初期行動は海軍の潜水艦による魚雷攻撃でアリゲラをいぶり出し、空に上げます。続いて地上のレーダーサイトと衛星、イージス艦を動員してミサイル攻撃を敢行。ミサイルはステルス性が証明されている型を使用し、弾頭はブラストボムの3倍の威力のあるとされるスペシウム弾頭弾を装着。地上の発射車両からもシステムとリンクさせて時間差攻撃を仕掛けます。最終的には作戦空域を外周させている戦闘機からのミサイル攻撃も加え、殲滅します。」
「海中にいるならわざわざ空に上げないで機雷や魚雷でそのまま殲滅しないのか。海中なら相手の動きが鈍るはずだが。」
「それについてですが監視中の駆逐艦によると、アリゲラは海中でも空中と同じような機動と速度で移動しているようです。恐らく海中でも空中と大差ない機動力を持っているかと。」
「どちらも奴のテリトリーだという事か。ならば空戦の方がマシだな。致し方ないが戦闘機による攻撃も疑問が残る。記憶が確かなら戦闘機が「G」を殲滅できた事例はない。」
「はい。21年のエジプトにてFファルコンが八つ首龍型の「G」に空対地攻撃を敢行しましたが効果なし。また、28年のあの時もイスラエル空軍の一個編隊が飛行中の「G」に遭遇、交戦しています。洋上のイージス艦からもミサイルで援護し、近郊を飛んでいたロシア空軍も合流しましたが1機を残して全滅。この通り戦闘機の攻撃で「G」を殲滅できた事例はありません。
しかしレーダー頼りのアリゲラは別です。ステルス性が証明されているラプターかライトニングⅡを投入すればアリゲラは存在を察知すらできないでしょう。」
ロドリゲス准将は言い切る。確かにそう仮定すれば誰もが納得できる作戦内容だった。しかし仮定であり検証されてないのも事実なのでリスクも多い。ロックウェルはそれを考慮した。
「アリゲラの情報が少ない以上、今の作戦が一番有効だと思われる。しかし私は作戦通りに事が運ばれるとは思えない。各自不測の事態に備えるよう忠告する。
D-dayは明日、1100時。ネクストの動向に警戒しながら作戦に移す。各員解散。すぐに各部隊へ指令書を送る、以上。」
ロックウェルの号令で会議室の士官は解散した。