番外編 孤高の空
澄み切った青空。大西洋高高度の大気を切り裂いて2機の銀翼が駆ける。
2機とも機体の機首には双発エンジンを模したエンブレムが誇らしげにペイントされており、先に飛ぶ戦闘機を後続の戦闘機が追いかける形で飛行している。
『次はインメルマンターンだ。』
『了解。』
先頭を飛ぶ戦闘機に乗るのは、先日士官学校を卒業したハワードだ。彼は今、教官と練習機から離れ、自分一人で初めて実戦用の戦闘機を操縦していた。
ハワードは操縦桿を目一杯引き180゚ループ、機体が逆さになったところで180゚ロールして水平に戻す。結果、機体は縦方向にUターンした。
『上出来だ。どうだ? 実戦機の乗り心地は。』
通信装置から聞こえる相棒であり上官であるバルティ・クレイズ中尉の声に、高揚感と興奮を抑えながらハワードは答える。
『最高です。どの練習機よりも操縦桿の感度と重みが全く違う。』
そう言って手汗で蒸し暑くなりかけたオープンフィンガーグローブで操縦桿を握り直す。それと同時に後続していたバルティ機が追い付きランデヴー飛行になる。
『だろう? ルーキーは皆そう言う。早く一人前になりたいか?』
「はい!」
ハワードは柄にもなく熱い返事をする。空にいると地上より素直になれるのだろうか。事実、彼自身早く一人前になって自由自在に空を飛びたかった。異論なんてない。
『フッ…付いて来い新人。遅れるなよ。』
『了解!』
自機の右隣を飛んでいたバルティ機は90゚右ロールすると旋回機動でハワード機から離れる。ハワードも同じ機動を再現すると後を追った。