番外編 孤高の空
「!」
スーパーXⅢの離陸から数十分後、自室のベッドで熟睡していたハワードは何かを感じ取ったかのように目が覚めた。
「(…なんだ?)」
戸惑うハワードに"彼"が語りかける。
……「G」だ。「G」が出た。
……判るのか? 「G」が。
……あぁ。私には「G」の出現を感じ取る能力がある。その影響が私に寄生している君にも及んだらしい。
……なら、今回のは俺の自業自得か。一応聞くがその「G」はどの辺りに現れたんだ?
……海の向こう、上空だ。
ハワード自身に確証はなかったが、近場に「G」がいるかもしれない。この可能性がハワードの安眠を阻害した。その後は中々寝付けずにいたが、やがて基地内に警報が鳴る。
『コマンドルームより全部隊へ。全部隊、例外なく所定の位置に待機せよ。これは演習ではない。繰り返す―――』
「チッ…」
ベッドから跳び起きたハワードは即座にパイロットスーツに着替えると待舎に向かう。ハワードは途中で合流したスコットとブリーフィングルームに駆け込む。室内ではこの非常事態についての憶測が飛び交っていた。
しばらくして全部隊のパイロットが揃ったところで白人男性の大佐が副官を伴って入室してくる。
「貴様ら聞け!」
パイロット達の視線が大佐へ一斉に集まる。
「試験飛行していた例の爆撃機とそれを補佐していたAWACSが撃墜された。」
一部のパイロットはその事態を予想していたものの、ざわつく。
「撃墜されたAWACSはブラックスター。グランディー少佐以下、生存は絶望的だ。だが爆撃機の方はベイルアウトした。現在は沿岸警備隊が生存者とブラックボックスの回収に向かっている。」
「撃墜したのは…敵機でありますか!?」
長身で肉付きのよいパイロットが声を張り上げて問う。
「恐らくそうだ。地上のレーダーサイトでもその存在を捕捉し、空域からの離脱を確認している。衛星から対象の追跡を試みたが周辺空域の天候が優れず、可変翼と思われる部位のみしか撮れなかった。JCS(統合参謀本部)は敵国の航空機による試験飛行の妨害だと睨み、東海岸沿いの全軍にデフコン3を発令した。」
デフコンとは、軍事行動への準備態勢を5段階に分けたアメリカ国防総省の規定を指す。それのレベル3は通常より高度な防衛準備状態を示す。
「ホワイトハウスは周辺空域の民間機の飛行を禁ずると共に隣国へ軍事行動の事実開示を求め、ペンタゴン(アメリカ国防総省)も行動を開始している。最悪の場合、合衆国は敵国に報復攻撃するかもしれない。」
一触即発のただならぬ状況に皆、息を呑んだ。ハワードを除いては。彼は内面に潜む"彼"に問い掛ける。
……これは…「G」の仕業なのか?
……恐らくは。
……あまりよくない状況だな。
……君達は…「G」の駆逐に行かないのか?
……この軍は友軍機を撃墜したのは人間だと思い込んでいる。「G」の仕業だと気付かずにな。最悪の場合人間同士で争いが起こるかもしれない。
……それは…
「状況は大体理解しただろう。フレイム分隊、ダガー分隊、AWACS:ペンドラゴンはこれより哨戒任務に着け。他の飛行隊もデフコン3に倣い、無期限待機だ。」
指名されたフレイム分隊は今夜がスクランブル待機だった飛行隊だ。数ある飛行隊からハワードのダガー分隊も指名されたが、それはフレイム分隊と同じ戦闘機を運用しているからだと推察できる。
ハワードとスコット他のパイロットは大佐に敬礼し、ハンガーに向かった。