番外編 孤高の空
査問会から一週間が経った曇り空の夜。試験飛行の時は来た。
ハンガーから姿を現す機体。F-117のように平面板を張り合わせたような機体が、僅かに差す月明かりに照らされた。その姿はカラーリングと相俟って兵装等の情報を徹底して秘匿しているような印象を受ける。
開発コード、スーパーXⅢ。
正式名称、SX-3。軍内部での愛称はまだ決まっていないが何れそれなりの名前を与えられるだろう。
機体の大きさは現場の輸送機として定評のあるC-130よりも若干大きい仕様となっている。
種別はステルス爆撃機。STOVL(短距離離陸垂直着陸)機能で目的に応じて装備の換装、輸送任務も可能だ。運用状況も夜間作戦を想定しており、塗装は今までのセオリー通り黒である。これで轟音を消す装置と光学迷彩が開発されれば文字通り"ステルス"戦闘機となるだろう。
また爆撃機特有の弱点として激しい空中機動は期待できず、空中戦には向いていない為重要な作戦には護衛の戦闘機がつく。
ちなみにⅢ以前のスーパーXは「空飛ぶ要塞」のコンセプトから首都防衛戦闘機として独創的なデザインと共に設計されたが単価が高く、開発は発注したアメリカ空軍が打ち切らせた。
スーパーXⅡは無人攻撃機初のステルス化を目指して設計され、先代を踏襲したような奇抜なデザインからアングラー(深海魚)とも呼ばれた。だが武装強化と新素材の採用、ホバリング機能の追加により航続距離に問題が生じ、試作段階で中止された。
今回のスーパーXⅢはⅡのステルス性と新素材を受け継ぎつつ再び有人機としての運用とメーザーの搭載を視野に入れ、エンジンを含めて再設計されたのだ。
そのスーパーXⅢは試作までの紆余曲折を経て今、飛ぼうとしている。
新型という事もあって非番のパイロットと整備員もその勇姿を拝もうとそれぞれ建物の屋上に集まっていた。航空機メーカーの担当者も固唾を呑んで離陸を見守っている。
『管制塔より特命実験飛行隊へ。離陸の許可が下りました。3番滑走路を使用してください。GoodLuck。』
『ありがとう。』
機内で操縦桿を握っているマクドネルは言葉を返すと機体を滑走路まで移動させ、スロットルレバーを最大まで押し込む。加速した機体が機首を空に向けるとスーパーXⅢは地上の引力から解放され、その巨体を宙に浮かべ飛び立った。