番外編 孤高の空


「よお、生きてるか?」


翌日の午前、退屈そうに寝転がるハワードに来客が現れた。聞き慣れた声に彼の表情は自然と呆れてくる。


「何の用だ?」
「生還したお前の顔を拝みに来た。」


扉にはヴィートと、奥にスコットもいた。珍しい組み合わせだ。


「まったく、お前は不死身か?」


スコットはハワードの顔を見て嬉しそうに問うと、ヴィートと椅子に腰掛ける。
スコットが見舞いに来たのはハワードにとって都合が良かった。


「丁度良かった。スコットに聞きたい事がある。」
「何だ?」
「あの時何が起こって俺は…どうやって助かったんだ?」


スコットはこの質問を予想していた。だが納得させられる情報は持ち合わせていなかった。


「正直こっちが聞きたいくらいなんだ。お前があの発光体と衝突した直後、その影響で俺の機体はアンコントロールに陥ってベイルアウトした。」
「影響? 軽い衝撃波くらいなら機体は耐えられるだろ?」
「主に電波障害の類だ。殆どの計器が持っていかれた。」
「その後は?」
「海で漂流しながら救助を待っていた俺は、必死に自分の位置を救難ヘリに知らせた。やがて到着したヘリに収容されたと同時に、クルーがお前を発見したんだ。」
「…そうか。」
「AWACSはお前のベイルアウトを確認していない。翌日沿岸警備隊が残骸とブラックボックスの回収に向かったが、機体ごと粉々になったらしく発見できなかった。」


ヴィートが要点だけを纏めて発言した。


「つまりハワード・レイセオンは機体から脱出せずに生還した事になる、って事か。」
「どうやって助かったかは分からず仕舞いだが、お前が今生きている事実に変わりはない。それを喜ぶべきだ。」
「…ありがとう。」
「よせよ気持ち悪い。」


ぶっきらぼうに感謝を口にしたハワードだが、ヴィートが本気で気味悪がる。


「明日だが午前から基地で査問会だ。佐官クラスの士官他、コマンダー・ロックウェルも同席する。覚えている事を整理して、ゆっくりと休め。」
「分かった。…一人にさせてくれないか。」
「じゃあ、俺達は帰るからな。」


ヴィートとスコットは立ち上がると部屋を出た。
2人が退室したのを見届けたハワードは"彼"に再び語り掛ける。


……俺を助けたのは君か?

……そうだ。寄生した拍子に君の乗り物は崩壊してしまい、私は君を海面で解放した。しかしあのままでは溺死していた君を仲間の近くまで漂流させた。

……それは俺が死んだら寄生している君も危ういからだろう。

……そう解釈されても仕方ない。だが私は君に寄生する以上、敵ではないと信じてもらいたい。

……別に寄生しているから敵だと認識している訳でもないが、助けてくれるから味方だと認識するつもりもない。どうせこの付き合いは長くないからな。

……そうだな。
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