番外編 孤高の空


ハワードは不意に目を覚ます。意外だった。あの頃の夢を見るのは久しい。


彼はベッドから上半身を起こすと周囲を見回す。清潔で殺風景な個室から、ここは病院なのが分かる。さらに窓から指す闇が今は夜だと示していた。


立ち上がろうとしたハワードだが、同時に個室の扉が開かれる。すると丁度見回りに来たと思われる看護師の女性と目が合った。


「!」
「…どうも。俺はどのくらい寝ていたんですか?」
「…3日ですよ。」


看護師は驚いた様子で答える。
そういえば自分は謎の発光体と衝突したのだ。そこから基地に帰還したのか、ベイルアウトして救助されたのかは覚えていない。
覚えているのは赤い発光体と巨人だけだ。


「せ…先生を呼びますね。」


看護師は気を取り直すと備え付けの内線電話で医者を呼んだ。
それから数分後に医者がやって来る間、ハワードは看護師から自分の今の状況を聞いていた。


やがてベテラン(っぽく見える)の中年の医者が個室に入ってきた。


「起きたんだね。いやぁ、あんな状況で傷一つなくて驚いた。君にはGUARDIANがついているのかい?」
「守護神、ね…」


ハワードは思い出す。夢か現実かも分からないような場所で見たあの巨人を。
医者はジョークを交えながら聴診器やペンライトで検査していく。医者はヴィートよりジョークのセンスがある、ハワードはそう思った。


「レイセオンさん、驚かずに聞いてください。」


一通り検査を終わらせた医者は改まってハワードに向き直る。


「あなたの身体は非の打ちどころがない健康体です。」
「それって…」
「今すぐにでも退院できるでしょう。」
「俺は…墜落したんですよね?」
「そう聞いているよ。」


医者も把握しきれていないからか曖昧な返答だ。


「取り敢えず今夜も安静にして休養を取って。」


医者は納得しきれていないハワードを残し、看護師と共に部屋を出て行った。


残るハワードは衝突からの記憶を辿るが思い出せない。やがて諦めて横になると別の疑問を確かめる事にした。起きた時から気付いている、自分の身体に感じる違和感を。


……さて、俺の守護神は君か?


ハワードは自分の奥に潜む人格へ語りかける。


……やはり、君には分かるか。

……ああ。それに俺と同じ寄生の「G」と言う事もな。

……勝手に寄生してすまない。まずは謝罪させてほしい。

……寄生して謝罪するのか、少し見直した。しかし宿主を乗っ取らないなんて、珍しい寄生の「G」もいるんだな。

……寄生して宿主を乗っ取るのは気が進まない。寄生する者は寄生だけしておけばいい。君の人格を殺さないのは私の信念に沿っているだけだ。

……理性を持ち合わせる「G」か。

……信用してくれるのか?

……君がその気なら俺の人格はとっくに殺されているからな。だが俺も君に寄生させてもらう、不審な動きがあればすぐ君を殺すからな。

……ああ。

……しばらくは居ていいが約束するんだ。いずれ俺から出ていくと。

……分かった。君に迷惑はかけない。


謎の人格と手早く会話を終えたハワードは再び眠りについた。
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