番外編 孤高の空
頭上を通過する6機編隊の戦闘機。機体下部にフェニックスのペイントが施してある。
サンダーバーズ。
合衆国空軍の誇る世界有数の曲技飛行チームである。
ギリギリまで機体同士を近付ける飛行が得意で、飛行中の機体間の距離が世界最短になりギネスに載る程だ。
また多数機による構成を活かした編隊機動、スモークを残して航跡を示し絵や文字を描くなど、パフォーマンスは様々である。
「………」
「そうか、サンダーバーズはお前を釘付けにするほど凄いのか。」
ハイスクール最後の夏休み。ハワードとヴィートはサンバーバーズのショーを観に来ていた。
入学当初接点が無かった二人だが卒業後の進路が同じ空軍と言う事で、最近はハイスクールで顔を合わせる機会が多い。
「君は整備の志望だったな。何故空軍で整備を?」
空を見上げ、視線を戦闘機に捉えたままのハワードはヴィートに問い掛ける。その仕草にヴィートは意外そうに答え始めた。
「戦闘機ってな、それぞれの開発方針に沿った設計で試行錯誤が重ねられた結晶なのさ。俺はな、戦闘機こそ科学の粋が結集した最高の機械だと思うんだ。それを分解して直に触れる、これほど幸せな事はない。」
「…素晴らしい回答だな。」
ハワードに褒められたヴィートは気分良く問い返す。
「お前は何でパイロットを?」
「一言で言えば空を飛ぶ憧れ、だな。」
楽しそうに答えたハワードに、ヴィートは自然と興味が湧いた。
「詳しく聞こうじゃないか。」
「…空は気象条件で表情を変える。青空やら雨やら夕焼けやら、それに魅せられてガキの頃から空を見上げていたんだ。それで決めた。パイロットになって少しでも空に近づくと。地上では味わえない空をこの身で感じるパイロットが羨ましいんだ。」
「お前もそういう想いを持ってたんだな。見直したぞ。」
「君に見直されるほど堕ちぶれてはいない。」
「サラリと傷付く事言いやがるな…」
数年後、士官学校を卒業したハワードは空軍パイロットになり、ヴィートは空軍機整備の道を進んだ。