番外編 孤高の空
『こちらAWACS:ナイトレーダー、マクドネル少佐だ。こちらもたった今離陸した。第09飛行分隊の離陸を確認、これよりナイトレーダーの指揮下に入ってもらう。コールサインはダガーで違いはないか?』
『間違いありません。』
『了解した。ダガー分隊は方位3ー0ー9に向けて現在の高度と速度を維持。会敵予想、next370sec。』
戦闘機とAWACSで軽いノイズと呼吸音混じりの無線通信が交わされる。基地の管制塔はこれを漏らさず聞いていた。
『新たな情報だ、IFFに反応はなし。対象は友軍機ではない。』
『少佐、対象の電波情報から機種だけでも特定できないんですか?』
ダガー1こと、スコットがマクドネルに問う。
『出来ればもうやってる。対象から電波の類は感知できない。』
『と言う事は敵かも分からないと。』
『文字通りUNKNOWN(敵味方不明機)って事か。』
『しかし今時UNKNOWNって…。どこの国の航空機なんだ?』
既に通信回線に盗聴防止のフィルターをかけているからか、任務に踏み込んだ会話をしてもマクドネルは咎めなかった。
『コイツ…航空機かどうか疑わしいぞ。』
マクドネル特有の低い声が無線を介する事でさらに低く聞こえ、彼の推測に緊迫感を持たせる。
『どういう事です?』
『衛星からの情報によればUNKNOWNから排熱を探知できないそうだ。』
『つまり推進力はジェットエンジンではないと?』
『まさか…UFO?』
『はたまた「G」かもしれんぞ。一層気を引き締めろ。』
そういうマクドネルはUFOの可能性を考えていた。
軍用民間問わず、航空機のパイロットは時々「地球外の物と思われるUFO」を実際に目撃・遭遇している。目撃例や謎の遭遇は第二次世界大戦後から散発し、政府公認ではないがその筋で有名なロズウェル事件を始め、世界中で確認されていると言われていれる。
マクドネルは実際にそうした経験談はないが、宇宙人=UFOの存在を疑わない軍人の一人だ。
仮にこのUNKNOWNがUFOだとして、考えられる対処は監視か、誘導か、撃墜か。マクドネルは想定される可能性に身構えた。
一方、ダガー分隊はUNKNOWNとの距離が自機のレーダーの範囲に入ろうとしていた。
『ダガー分隊、レーダーコンタクト。』
『確認した。』
『相対距離9000。』
『現在は視認できない。』
今は夜で直に視認できないのは仕方ないが、HUDもUNKNOWNを捕捉していなかったのがハワードとスコットは気になった。
しかし2人は驚愕する。レーダー画面のUNKNOWNを示す光点が消え、代わりに"LOST"と表示されたのだ。
『UNKNOWN、レーダーロスト!』
『こちらもだ。全てのレーダーから消え失せた。』
その場に居合わせた全ての軍人はこの事実を疑った。
『…ナイトレーダー、指示を。』
スコットは指示を仰ぐ。
『UNKNOWN消失空域へ飛行。哨戒しろ。』
『ダガー1、了解。』
『ダガー2、了解。』
ダガー分隊はそのまま飛行を続ける。
やがて戦闘機が消失空域に到着した時、レーダーが何かに反応した。
これに警戒したハワードは機体が赤い光で照らされた事に気付く。前方を見ると戦闘機より若干大きい、球体状の赤い発光体が目前に迫っていた。
『!』
ハワードは直ぐさま回避しようとしたが操縦桿の操作が効かない。
『ハワード!』
『ダガー2!』
ハワードの機体は発光体に呑み込まれるように衝突し、通信が途絶えた。
『クソッ!』
その際に近くを飛んでいたスコット機は衝撃波と電波障害を受けてアンコントロール。脱出を余儀なくされた。