番外編 孤高の空
時計の針が深夜1時を廻る。だが空軍基地は眠らない。
滑走路は脇に設置されたライトが点滅し、パイロット達の帰るべき場所の道しるべとしてその存在をアピール。地上には警備の兵員が昼夜問わず巡回し、管制塔にはオペレーターと指揮官が常時詰めている。
パイロットも必ずどこかの部隊がスクランブルに備えて待機している。今夜はハワード属する分隊と他2個分隊が待機だった。
そしてハワードは一人、待舎の屋上にあるベンチに腰掛けて星空を見上げていた。
「………」
星空を見る度にあの夜を思い出す。スクランブルの警報、出動、戦闘、脱出。一つ残さず脳内で回想していると屋上の扉が開いた。そこには見知ったパイロットがいた。
「…スコット?」
彼はスコット・ダグラス。階級は中尉でハワードが現在所属する飛行分隊の1番機パイロットだ。
2番機のハワードには転属当初から気遣いを見せているが、例の事があったからか相棒としての存在に距離を置かれているようだった。
「またあの夢か?」
「…あぁ。」
ハワードはあの夢を見た翌晩には必ずと言っていい程、一人で空を眺めている。スコットはそれを知っていた。
「…なぁ、お前はよく自分を嘲るが自分自身が辛くなるだけだぞ。」
「……」
「バルティ中尉…少佐の事はもう忘れろよ。一人だけ生還したお前は悪くないし、彼もベストを尽くした。」
「あの事は忘れたさ。そう、もう忘れた…」
ハワードは自分に言い聞かせるように言う。その時だ。
「…!」
「!」
基地内で非常事態を知らせる警報が鳴る。スクランブルだ。
『管制室より各部隊へ通達。国籍不明機と思しき飛行物体、総数1機がEE3615方面から領空内へ向けて侵攻中。第09飛行分隊にスクランブル要請。繰り返す―――』
「俺達だな。」
「行くぞ。」
ハワードとスコットは会話を中断、自分達のハンガーへ走り出した。